―原画は布用絵の具で描いたそうですが、はるのさんならではの表現になりましたね。
普段のイラストの仕事でも、ステンシルという技法で布用絵の具でキャンバスに描く方法と、デジタル作品と、両方手がけていました。だから今回の絵本の原画も、デジタルと、アナログの布に描くステンシル、もう一つ切り絵の3パターンで、同じページを描いてみて検証しました。
赤ちゃん絵本に求められるのは、いろんなものを削いでいくシンプルさなので、それが、線を省略して大事な要素だけ残すステンシルと似ているなと思いました。だから今回はこの方法を選びました。
ステンシルは紙にもできるのですが、布が好きなんです。紙だと折れちゃうけれど、布ならアイロンをかければしわもきれいになるので、そういう柔軟なところも、そそっかしいわたしに合っています(笑)
あとは、大学の頃に型染めを学んだのも、いつか絵本に活かしたいという思いからだったので、染料ではなく布用絵の具になり、やり方はちょっと違うし年月もかかりましたが、当時やっていたことがようやく商業絵本の形として昇華できた感じです。
―装丁は何度も検討しました。
はじめに考えた装丁は、赤ちゃんが正面向きのポーズで「ふうーっ」としている絵でした。けれど、絵本が縦に開く仕様にしたので、帯をつけると顔の絵のところにかかってしまうからということで、横顔にしました。
赤ちゃんのおでことか後頭部のラインの感じで“赤ちゃん感”も出しやすいなというのもありました。
色については、表紙のラフを描いていく中で、水色と黄色の組み合わせがいいなあと感覚的に思いました。もともとどちらの色も好きなこともあって。ただその水色と黄色を、どんな発色にするかを決めるのに、タイトル文字の視認性や、色のコントラスト差のチェックなど、ずいぶん試行錯誤しました。
ディック・ブルーナさんなどの名作絵本の表紙画像をたくさん集めて、どういった点がすぐれているのかという分析にも時間をかけました。
最終的に「これ!」という水色と黄色が決まった時には、すごくうれしかったです。大変といえば大変だったのかもしれませんが、今後の表紙作りの際にも役立つことが学べたので、とても貴重な経験だったと思います。
▲試行錯誤の一部。思いつく限りの配色パターンは全部試してみた
―「眉毛」の角度など、本当に細部までこだわりました。
人間の視点が、ページのどこに行きやすいかを意識して、モチーフや目などの位置を決めました。
ラフの段階でずいぶんバランスや形などは検証したので、原画制作に入ってからは、西川さんから差し戻しということはほとんどありませんでした。ただ、自分が納得がいかないから描き直す、というのを繰り返して。
「いたいのバイバイ」というページでは3回くらい描いたかな。「ぴゅーん」ってする線に迷って。
けれど日があくと、色を作っても同じ色がなかなかできなくて、描き直した色の違いのほうが気になって、結局やっぱり元の絵に戻す、みたいなものもあります。
タイトル文字や、中面のオノマトペの文字は手描きなのですが、シチュエーションに合わせて形を変えていて、そこもこだわりました。
▲本番用の原画でも発色や線の具合を確かめながら、納得のいくまで描きなおしている
―いろいろと楽しいお話をありがとうございました。絵本づくりの過程はもちろん、はるのまいという新人絵本作家のエネルギッシュな人となりがよく分かりました。
育児との両立は確かに大変でしたが、それでもやっぱり一番身近に絵本を見せたい存在がいる、というのは大きなモチベーションになりました。
家族はもちろんですが、友達、子育ての先輩、保育士さんや子育て支援施設のスタッフの方々にも、本当にお世話になりました。絵本づくりも子育ても、いろいろな方々のご理解やお力添えがあって、やらせていただけている、という感じです。
今までたくさんの絵本を読んで、作ってきて、基本的には絵本は子どものために、と思っていたのですが、「読んであげる」相手が身近にできたからこそ、逆に「絵本は子どもだけじゃなくて、親や大人の力にもなってくれるものなのだなあ」ということを痛感しています。
まだ言葉を発しない時期の赤ちゃんと四六時中向き合っていると、なんとも言えない孤独を感じることがありました。けれどそんな時、絵本というものが間にワンクッションあると、赤ちゃんとのコミュニケーションのバリエーションが広がったんですよね。それがすごく面白かったし楽しかった。この絵本が読者の方にとって、そんな絵本になってくれるといいなあと思います。(おしまい)