絵本の豆知識

目次

  1. ミリオンセラー絵本 1950〜60年代
  2. ミリオンセラー絵本 1970年代
  3. ミリオンセラー絵本 1980年代
  4. ミリオンセラー絵本 1990年代〜

 


  1. 『はらぺこあおむし』 420万部
    文・絵/エリック・カール
    訳/もり ひさし
    1976年発行
  2.  


  3. 『しろくまちゃんのほっとけーき』 319万部
    作/わかやま けん
    1972年発行
  4.  


  5. 『ノンタンぶらんこのせて』 267万部
    文・絵/キヨノ サチコ
    1976年発行
  6.  


  7. 『からすのパンやさん』 256万部
    文・絵/加古 里子
    1973年発行
  8.  


  9. 『ノンタンおやすみなさい』 249万部
    文・絵/キヨノ サチコ
    1976年発行
  10.  


  11. 『ノンタン! サンタクロースだよ』 246万部
    文・絵/キヨノ サチコ
    1978年発行
  12.  


  13. 『はじめてのおつかい』 241万部
    文/筒井 頼子
    絵/林 明子
    1977年発行
  14.  


  15. 『100万回生きたねこ』 230万部
    文・絵/佐野 洋子
    1977年発行
  16.  


  17. 『おしいれのぼうけん』 228万部
    文/ふるた たるひ
    絵/たばた せいいち
    1974年発行
  18.  


  19. 『ノンタンおよぐのだいすき』 201万部
    文・絵/キヨノ サチコ
    1976年発行
  20.  


  21. 『おふろでちゃぷちゃぷ』 199万部
    文/松谷 みよ子
    絵/いわさき ちひろ
    1970年発行
  22.  


  23. 『ノンタンおねしょでしょん』 195万部
    文・絵/キヨノ サチコ
    1978年発行
  24.  


  25. 『ぐりとぐらのかいすいよく』 191万部
    文/なかがわ りえこ
    絵/やまわき ゆりこ
    1977年発行
  26.  


  27. 『あかんべノンタン』 173万部
    文・絵/キヨノ サチコ
    1976年発行
  28.  


  29. 『ピーターラビットのおはなし』 159万部
    作・絵/ビアトリクス・ポター
    訳/いしい ももこ
    1971年発行
  30.  


  31. 『ぞうくんのさんぽ』 155万部
    文・絵/なかの ひろたか
    1977年発行
  32.  


  33. 『ノンタンほわほわほわわ』 146万部
    文・絵/キヨノ サチコ
    1977年発行
  34.  


  35. 『ベンジャミンバニーのおはなし』 144万部
    作・絵/ビアトリクス・ポター
    訳/いしい ももこ
    1971年発行
  36.  


  37. 『モチモチの木』 144万部
    作/斎藤 隆介
    絵/滝平 二郎
    1971年発行
  38.  


  39. 『かわいそうなぞう』 143万部
    文/土家 由岐雄
    絵/武部 本一郎
    1970年発行
  40.  


  41. 『フロプシーのこどもたち』 140万部
    作・絵/ビアトリクス・ポター
    訳/いしい ももこ
    1971年発行
  42.  


  43. 『もこ もこもこ』 138万部
    文/谷川 俊太郎
    絵/元永 定正
    1977年発行
  44.  


  45. 『おばけのバーバパパ』 136万部
    文/アネット・チゾン
    絵/タラス・テイラー
    訳/やました はるお
    1972年発行
  46.  


  47. 『あーんあん』 128万部
    文・絵/せな けいこ
    1972年発行
  48.  


  49. 『とけいのほん 1』 127万部
    文・絵/まつい のりこ
    1973年発行
  50.  


  51. 『かいじゅうたちのいるところ』 127万部
    文・絵/モーリス・センダック
    訳/じんぐう てるお
    1975年発行
  52.  


  53. 『はははのはなし』 122万部
    文・絵/加古 里子
    1971年発行
  54.  


  55. 『はけたよはけたよ』 119万部
    文/神沢 利子
    絵/西巻 茅子
    1970年発行
  56.  


  57. 『さむがりやのサンタ』 115万部
    文・絵/レイモンド・ブリッグズ
    訳/すがはら ひろくに
    1974年発行
  58.  


  59. 『ねずみくんのチョッキ』 111万部
    文/なかえ よしを
    絵/上野 紀子
    1974年発行
  60.  


  61. 『はじめてのおるすばん』 107万部
    文/しみず みちを
    絵/山本 まつ子
    1972年発行
  62.  


  63. 『ふたりはともだち』 106万部
    作/アーノルド・ローベル
    訳/三木 卓
    1972年発行
  64.  


  65. 『あかちゃんのうた』 105万部
    文/松谷 みよ子
    絵/いわさき ちひろ
    1971年発行
  66.  


  67. 『とけいのほん 2』 105万部
    文・絵/まつい のりこ
    1973年発行
  68.  


  69. 『もしもしおでんわ』 104万部
    文/松谷 みよ子
    絵/いわさき ちひろ
    1970年発行
  70.  


  71. 『こぐまちゃんとどうぶつえん』 100万部
    作/わかやま けん
    1970年発行
  72.  


  73. 『こぐまちゃんのみずあそび』 100万部
    作/わかやま けん
    1971年発行
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目次

  1. ミリオンセラー絵本 1950〜60年代
  2. ミリオンセラー絵本 1970年代
  3. ミリオンセラー絵本 1980年代
  4. ミリオンセラー絵本 1990年代〜

 


  1. 『いないいないばあ』 700万部
    文/松谷 みよ子
    絵/瀬川 康男
    1967年発行
  2.  


  3. 『ぐりとぐら』 523万部
    文/なかがわ りえこ
    絵/おおむら ゆりこ
    1967年発行
  4.  


  5. 『てぶくろ』 318万部
    絵/エウゲーニー・M・ラチョフ
    訳/うちだ りさこ
    1965年発行
  6.  


  7. 『おおきなかぶ』 312万部
    文/A.トルストイ
    絵/佐藤 忠良
    訳/内田 莉莎子
    1966年発行
  8.  


  9. 『ねないこだれだ』 311万部
    作/せな けいこ
    1969年発行
  10.  


  11. 『ぐりとぐらのおきゃくさま』 301万部
    文/なかがわ りえこ
    絵/やまわき ゆりこ
    1967年発行
  12.  


  13. 『三びきのやぎのがらがらどん』 274万部
    絵/マーシャ・ブラウン
    訳/せた ていじ
    1965年発行
  14.  


  15. 『しろいうさぎとくろいうさぎ』 251万部
    /ガース・ウイリアムズ
    訳/まつおか きょうこ
    1965年発行
  16.  


  17. 『ぐるんぱのようちえん』 237万部
    文/西内 ミナミ
    絵/堀内 誠一
    1966年発行
  18.  


  19. 『しょうぼうじどうしゃじぷた』 215万部
    文/渡辺 茂男
    絵/山本 忠敬
    1966年発行
  20.  


  21. 『いいおかお』 209万部
    文/松谷 みよ子
    絵/瀬川 康男
    1967年発行
  22.  


  23. 『うさこちゃんとどうぶつえん』 203万部
    作/ディック・ブルーナ
    訳/石井 桃子
    1964年発行
  24.  


  25. 『ゆきのひのうさこちゃん』 200万部
    作/ディック・ブルーナ
    訳/石井 桃子
    1964年
  26.  


  27. 『ちいさなうさこちゃん』 196万部
    作/ディック・ブルーナ
    訳/石井 桃子
    1964年発行
  28.  


  29. 『どろんこハリー』 195万部
    文/ジーン・ジオン
    絵/マーガレット・ブロイ・グレアム
    訳/わたなべ しげお
    1964年発行
  30.  


  31. 『だるまちゃんとてんぐちゃん』 195万部
    作/加古 里子
    1967年発行
  32.  


  33. 『そらいろのたね』 184万部
    文/なかがわ りえこ
    絵/おおむら ゆりこ
    1967年発行
  34.  


  35. 『わたしのワンピース』 180万部
    作/にしまき かやこ
    1969年発行
  36.  


  37. 『うさこちゃんとうみ』 175万部
    作/ディック・ブルーナ
    訳/石井 桃子
    1964年発行
  38.  


  39. 『もうねんね』 165万部
    文/松谷 みよ子
    絵/瀬川 康男
    1968年発行
  40.  


  41. 『ちびくろ・さんぼ』 159万部
    作/ヘレン・バンナーマン
    絵/フランク・ドビアス
    訳/光吉 夏弥
    1953年発行
  42.  


  43. 『11ぴきのねこ』 156万部
    作/馬場 のぼる
    1967年発行
  44.  


  45. 『のせてのせて』 148万部
    文/松谷 みよ子
    絵/東光寺 啓
    1968年発行
  46.  


  47. 『にんじん』 147万部
    作/せな けいこ
    1969年発行
  48.  


  49. 『いやだいやだ』 144万部
    作/せな けいこ
    1969年発行
  50.  


  51. 『スーホの白い馬』 143万部
    文/大塚 勇三
    絵/赤羽 末吉
    1967年発行
  52.  


  53. 『きかんしゃやえもん』 139万部
    文/阿川 弘之
    絵/岡部 冬彦
    1959年発行
  54.  


  55. 『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』 138万部
    作/バージニア・リー・バートン
    訳/むらおか はなこ
    1961年発行
  56.  


  57. 『かばくん』 134万部
    文/岸田 衿子
    絵/中谷 千代子
    1966年発行
  58.  


  59. 『ちいさいおうち』 124万部
    作/バージニア・リー・バートン
    訳/石井 桃子
    1954年発行
  60.  


  61. 『ひとまねこざる』 122万部
    作/H.A.レイ
    訳/光吉 夏弥
    1954年発行
  62.  


  63. 『花さき山』 118万部
    文/斎藤 隆介
    絵/滝平 二郎
    1969年発行
  64.  


  65. 『おさじさん』 114万部
    文/松谷 みよ子
    絵/東光寺 啓
    1969年発行
  66.  


  67. 『しずくのぼうけん』 113万部
    文/マリア・テルリコフスカ
    絵/ボフダン・ブテンコ
    訳/うちだ りさこ
    1969年発行
  68.  


  69. 『もじゃもじゃ』 112万部
    作/せな けいこ
    1969年発行
  70.  


  71. 『ももたろう』 111万部
    文/松居 直
    絵/赤羽 末吉
    1965年発行
  72.  


  73. 『二ほんのかきのき』 110万部
    作・絵/熊谷 元一
    1968年発行
  74.  


  75. 『おおかみと七ひきのこやぎ』 109万部
    文/グリム
    絵/フェリクス・ホフマン
    訳/せた ていじ
    1967年発行
  76.  


  77. 『もりのなか』 108万部
    作/マリー・ホール・エッツ
    訳/まさき るりこ
    1963年発行
  78.  


  79. 『すてきな三にんぐみ』 108万部
    作/トミー・アンゲラー
    訳/今江 祥智
    1969年発行
  80.  


  81. 『はなをくんくん』 101万部
    作/ルース・クラウス
    絵/マーク・シーモント
    訳/木島 始
    1967年発行
  82.  


  83. 『どうぶつのおやこ』 100万部
    絵/薮内 正幸
    1966年発行
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言葉は耳で覚えます。耳で聞いたその言葉が示す「何か」を、目で見たり触って感じたり何度も確かめながら、言葉と「何か」が結びついたときにはじめて意味が生まれます。だから、ほとんどの赤ちゃんはお母さんの言葉を食べて、一番耳にする言葉から覚えていくようになります。

ランキング1位の「まんま」は、生後10カ月から話されはじめ、平均1歳3カ月で話されたそうです。はじめて赤ちゃんが話す言葉をみていると、なるほどあいさつを中心にお母さんが子どもに話しかけながら、育児をしている様子が見えてくるようで、なんだかとても幸せな気分になります。今でもやっぱり「いないいないばぁ」をするんだとか、逆に新鮮。

マザータング(mother tongue)は母国語と訳しますが、子どもが自然に覚えるまさに母の言葉という意味です。人間はかしこいので、まさかスマホやロボットの機械語がマザータングになる時代がやってくるとは思いませんが、時代が変わっても子どもには親がたくさんの言葉をかけてあげることが大事であることは変わりません。

はじめて赤ちゃんが話す言葉ランキング20

順位 言葉
1 まんま(ごはん)
2 おっぱい
3 いないいないばぁ
4 ママ
5 はーい(返事)
6 ワンワン
7 ねんね
8 パパ
9 バイバイ
10 よいしょ
11 どうぞ
12 お母さん
13 お父さん
14 ニャンニャン
15 くっく(靴)
16 ある、あった
17 痛い
18 ないない(片付ける)
19 バナナ
20 ブーブー(車)

※2008年、NTTコミュニケーション科学基礎研究所調べ
対象:生後10カ月~3歳の子どもを持つ親398人
期間:2007年4月~2008年2月

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目次

  1. 2008年度 IBBY世界大会 レポート①
  2. 2008年度 IBBY世界大会 レポート②

 


アンデルセンはなぜ飛び抜けた童話作家になったのか

 

デンマークの首都コペンハーゲンから、バスに乗ってしばらく。島を渡って向かう先はオーデンセという街です。世界で最も有名な童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの生まれた街。

そこはまるで童話の中のように、例えばベンチの足が巨人の足になっていたり、信号機がアンデルセンになっていたりと、遊び心がいっぱいです。

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アンデルセンは14歳でひとりコペンハーゲンに移り住みます。それまでのオーデンセでの暮らしは、貧しくて仕方がなかったそうです。アンデルセンの生まれた1800年頃のこの街が、実際にどんな環境だったのかは想像することしかできませんが、アンデルセンの言葉に反するように、街の景色は穏やかで美しく見えます。

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低い屋根に短い煙突。似ているようでどれも違う壁の色、扉のデザイン。余計な装飾は全然ないのに、それでいて明るい印象。きっとアンデルセンの豊かな想像力のタネは、この街で育まれたに違いありません。

アンデルセンの生家は、一階建ての黄色くてかわいい家でした。少年時代の彼は、この窓から何を眺め、何を思って飛び出したのでしょう。

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現実世界の落胆が大きいほど空想世界は広がる

 

残念ながら生家には入れませんが、5分ほど歩いたところにアンデルセン博物館があり、部屋の様子が再現されています。博物館の入口には彼が得意とした切り絵のライオンが。ライオンの右手にはとても気持ちのいい庭園が広がります。

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「とにかく狭くって狭くって」

ガイドさんがいかにも気の毒そうに繰り返し言うので、一体どれほど小さな部屋で幼少期を過ごしたのかと思えば、確かに少し天井が低いとはいえ、外観と同じようにやっぱり中もかわいい部屋でした。日本のワンルームマンションのほうがよっぽど狭く、暮らしづらいと思います。

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アンデルセンの身長は185cm。当時としてはかなり大柄だったと思います。今ならパリコレでさっそうと歩くモデルになっていたかもしれませんが、時代のせいもあって、このとびぬけて背が高いことをはじめ、つぶらな目がちょこんとついていることも、大きな鼻も、くりんくりんの髪の毛も、全部コンプレックスだったといいます。

生い立ちをたどってみると、彼はずっと現実の世界に落胆していたような気がします。それで、自分が創りだす空想の世界に閉じこもったのかもしれません。落胆が大きかったからこそ、アンデルセンの空想力は誰よりも夢いっぱいで色鮮やかなものになったのでしょう。

「すべての人の一生は神の手によって書かれた一遍の童話である。」 H.C.アンデルセン

その膨らみきった空想のかたまりを、言葉として紡いだのが今も読み継がれる童話であり、はさみで形作ったのが無数の切り絵だとすれば、楽しみの裏側に、隠された悲しみや苦しみが見えてくるような気がします。いいえ、これこそが創作なんだと思います。(おしまい)

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2009年度の「ボローニャ国際絵本原画展」に入選し、国際的な実力を認められている松村真依子さん。担当編集者に次回作の候補作家を何名かあげてもらったなかで唯一、僕のあげた候補作家と被ったのが松村さんでした。

長い創作期間を経てまもなく出版される『ゆきちゃんのおさいふ』は、彼女にとって2作目となる絵本です。絵本作家として、また4歳の子の母親として、この作品に込めた思いを語っていただきます。

 

いよいよ新刊絵本が出版されます。まずはご挨拶からお願いしても良いですか。

はじめまして、松村真依子と申します。
絵本制作を中心に絵を描いていて、幼稚園に通う子どもがふたりいます。
エンブックスさんと約1年8ヵ月にわたって制作していた絵本『ゆきちゃんのおさいふ』を、7月20日に刊行することになりました。そこで、この絵本について、これから少しずつご紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

 

よろしくお願いいたします。まず、今回の作品で描かれたのは、主人公の小さな女の子が成長するお話です。このテーマを選ばれたのは、松村さんご自身の子育て体験が元になっているとか。

今回は、「ゆきちゃんのおさいふ」を創作している最中、ずっと心の中にあった「小さな大事件」のお話をさせて下さい。

創作を開始した頃、長女は4歳。しっかりもので、生真面目で、恥ずかしがり屋な彼女は、その歳で既に典型的な優等生タイプでしたが、ご挨拶だけができませんでした。そして、私はひどくそれを気にしていました。

同じマンションの住民の方は、いつも「あら、おはよう」「こんにちは、可愛いわねぇ」と、笑いかけてくれます。娘はというと、モジモジしてうつむいたり、時には何も聞こえないようなフリをして素通りしたり。その度私は、申し訳ないような、恥ずかしいような気持ちで「すいません……」と、困った笑顔を返すのでした。

何度となく「挨拶が如何に大事か」という話をした覚えがあります。そんなことを言ったって意味がないと分かっていても。娘だって本当は「おはよう!」って言ってみたい。ただそのキッカケが掴めないだけだったのです。

私は私で焦っていました。「そろそろ挨拶できるようになった方がいいわよね」と言われたりもして、自分が責められているように思えました。今思えば馬鹿げた話ですよね。

 

時間が経って客観的に振り返れば、子育てのよくある風景のひとコマかもしれませんが、きっとみなさん同じように悩み、考えながらお子さんと向き合っていらっしゃるんだと思います。

そんなある日、私たちがエレベーターに乗り込むと、後から入って来たおばあさんが「こんにちは」と、娘に微笑みました。そして、いつものような沈黙、たぶん2、3秒でしょうか、その後娘が「……こんにちは」と、蚊の鳴くような声で言ったのです。不安げな表情、でもちゃんと前を見て。おばあさんは「まぁ偉いわねぇ!」と大げさに驚いて出ていきました。

娘はエレベーターを下りてから満面の笑みでこちらを振り返りました。私には彼女が小さなお守りを手に入れたように見えました。「自信」というお守りです。

 

成長した瞬間が見えるすてきなエピソードですね。もしかすると、そのおばあさんもご自身の経験から、わざと大げさに驚いてくれたのかもしれません。

おばあさんが同じエレベーターに乗ったこと、4階から1階までの数秒の時間、娘の気持ち、おばあさんの優しさ、全てが奇跡のように思えて胸を打たれました。

また不思議なもので、この「事件」によって、「私は子どもに挨拶を教えることも出来ない悪い母親だ」とトゲトゲしていた心が、「いつか出来るようになればいいや~」とスーっと楽になったのでした。なぜでしょうね。娘の一生懸命な姿が心を溶かしてくれたのかもしれません。

 

「子育て」といいながら、実は「母」としても一緒に成長しているんですね。

『ゆきちゃんとおさいふ』は、子どもたちにとっても親にとっても、そんな小さなお守りになればいいなぁと願っています。
ついつい焦ってしまうし周りの目も気になってしまう。でも本当は急かしたくなんてないんです。のんびり歩く行程に、小さなお守りがポッケに入っていれば、子どもも親も、安心して歩いていけるかなと思うのです。

 

この作品が「お守り」として子どもたちの心に残っていくと良いですね。本当に素晴らしい絵本を描いていただき、ありがとうございます。

 


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前回のインタビューでは、母親としての目線で創作への思いを語ってくれた松村真依子さん。
今回は画家としての目線で、ご自身の表現方法について語っていただきました。

そして、『ゆきちゃんのおさいふ』は本日発売です。
ステキな絵本とインタビュー、どちらもあわせて楽しんでいただけたらうれしいです。

 

今作は松村さんにとって大きなチャレンジがありました。そのあたりをお聞かせいただけますか。

「ゆきちゃんのおさいふ」では、はじめて水彩絵具を使いました。
今までの制作ではオイルパステルや油絵具を使ってきました。厚手のボール紙に下地を塗り重ねて、絵具もどんどん重ねて、引っ掻いたり、画面の上で混ぜたり、好き放題に描く手法です。

エンブックスさんと絵本を作りはじめた時も、当初はいつも通り油絵具で描くことをイメージしていました。今思えば、はじめに考えていたお話の舞台やモチーフも、油彩であることを想定したような内容だったのかも知れません。ちょっとファンタジックで、現実離れしたような。

それが編集者さんと話し合いを重ねるうちに、だんだんとストーリーの方向が変わってきて、現代の幼稚園児の身の回りにある物を題材にしようということになりました。

正直、いいぞいいぞ、という気持ちと、私に描けるのかな? という気持ちで半分半分でした。例えばスーパーマーケットの細々した棚や、お菓子のパッケージなどを、自分なりに描くとどうなるだろう? ということを具体的に想像できないままに、ストーリーの枠組みが決まって行きました。

さて、絵を描こう! という時になって、油彩の筆をキャンバスに置くことが出来ませんでした。
道具と頭の中にある絵が繋がっていないように感じました。頭の中にあるのは、淡くて、ふわふわして、優しくて……赤ちゃんの産着のような絵です。軽くて薄くて。

やってみるしかないなぁ……と思いました。渋々、油瓶を片付けて、道具箱の奥底で眠っていた水彩絵具を引っ張りだし、「水彩で描いてみようと思います」とメールを打ちました。

 

ボローニャ絵本原画展の入選作品も油絵でしたし、水彩画への方向転換はすごい勇気だと思いました。
でも、お話と絵の相性を再優先に考えられる松村さんは、本物の絵本作家だと確信しました。だから、誰も見たことのない絵でしたが、すぐに賛成することができました。

そこからかなり長い間編集者さんをお待たせすることになりました。

油から水への転換は、やはり何もかも勝手が違いましたし、そもそも、画面に向かうときの姿勢から違う。だんだんと道具と仲良くなれてきた頃、やっと思い描いていた絵が画面に現れてきました。

描き終わった今は、新しい画材に挑戦するキッカケをいただいたことに本当に感謝しています。

頭の中にある絵を、紙に写すために使い始めた水彩絵具でしたが、道具の幅が増えたことで、そもそも思い浮かぶイメージも広がりました。
それに、今までは「自分らしさ」で無意識に表現を縛っていましたが、なんだか憑き物がとれたように自由になりました。もっといろんな絵を描いてみたい、いろんな道具に触れてみたいと思っています。

私にとってひとつの転換期になった絵本です。たくさんの方に読んでいただけると嬉しいです。

 

編集の過程で画家が新たな境地にたどり着く瞬間を見られたことは刺激的でした。バージニア・リー・バートンも作品によって画材が違いますが、どれもお話にぴったりです。
道具の幅が増えたということは、松村さんの創作の世界が広がったということでもあるので、『ゆきちゃんのおさいふ』をきっかけに、ますますのご活躍を期待しています!
(おしまい)

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7月9日(土)に、東京大学で開催されたウェンディ・クーリングさんの講演会に参加してきました。
彼女が幼かった時は、まだそれほど本がなかった時代です。父は彼女を膝のうえに座らせ、新聞を読んでくれたそうです。内容はよくわからなかったけれど、彼女にとってその時間は「特別なもの」でした。
彼女は「ブックスタート」の活動を通じて、本を読むことを指導せず、ただ純粋に本を読むことの素晴らしさを伝えています。それができたのは「特別なもの」を知っていたからに違いありません。

 


読書は流れに身をまかせて

 

絵本から教訓を得ることを目的にするのはつまらないと思います。
絵本をパラパラとめくって選ぶ時に、わかりやすい教訓が描かれている本が良い本だと考えるなら、それは子どもにとってプレッシャーになっているかもしれません。

とかく親や先生は本について説明したがります。
でも、優れた絵本は(教科書に掲載されている作品もありますが)そもそも何かを教えるものとして描かれていませんし、楽しい物語を与えてやれば子どもは好奇心の赴くままに勝手に「学ぶ」ものです。 だから、本選びやそれを読むタイミングは、子どもの個性を尊重し流れに身をまかせるのが正解です。

いろんなことを感じて、自分で考える。この能動的な学びの積み重ねはテストの点数で測ることはできませんが、測ることができないことにこそ価値(=人生を豊かにする種)があるのだと思います。

この世界に生まれてきて、まだ何も経験しないうちから、大人が知っている今の社会の価値観で 「あれはダメ」とか「これはイイ」とか決めつけたところで、これからの未来がどこに向かうかなんてわかりません。

子どもが楽しんでいる本こそ良い本です。そして親にとって楽しいことも大事。

 


生まれてすぐに絵本を楽しめる赤ちゃん

 

絵本を読むのに早過ぎることはありません。赤ちゃんは声がわかります。もっというと、優しい声や良い声を聞き分けることができます。クーリングさんは生後2日の赤ちゃんにアヒルの絵本を読んであげたことがあるそうですが、(内容はわからなくて当然でも)アヒルの声をマネしてやるとよろこんだといいます。

絵本は時間も空間も自分の好きなように――赤ちゃんの思いもしない反応にあわせてページをめくったりとめたりしながら、世界を広げていくことができます。そこに本というメディアならではのおもしろさがありますし、やっぱり読者がいてはじめて絵本は「完成」するのだと思います。

 


寄り道のできない旅はつまらない

 

そして、お話を楽しむことと、本を読めるようになることは全く目的が違います。
学校の先生はその立場上、読書を「高速道路」と考えるので、だんだん難しい本を読めるようにしていきます。そして、読めるようになることをゴールに設定する人もいます。

でも、本を読むというのは田舎の小道を寄り道しながら歩くようなもので、その旅が終わることはありません。 これも流れに身をまかせるのが正解です。

ブックスタートについて

市区町村自治体が行う0歳児健診などの機会に、「絵本」と「赤ちゃんと絵本を楽しむ体験」をプレゼントする活動。 赤ちゃんと保護者が、絵本を介して、心ふれあう時間を持つきっかけを届けます。
▶NPOブックスタート

 


日時/7月9日(土)
会場/東京大学 伊藤謝恩ホール
住所/東京都文京区本郷7-3-1
時間/13:00~15:50

講演「すべての赤ちゃんに絵本を」
13:00~14:15/ウェンディ・クーリング

対談「赤ちゃんと絵本」
14:30~15:50/ウェンディ・クーリング × 佐々木宏子(鳴門教育大学名誉教授)

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自分で考える人は「詩人」であり「科学者」

 

自分で考える、それ自体が「科学」なんだ、と教えてくれる大人が身近にいる子どもは、きっと自然に勉強が好きになると思います。もちろん、本当の意味での勉強で、無理やり正解を詰め込むような勉強ではありません。

考える過程が一番おもしろくて、学びが大きいのだから、正解を知らないというのはすごく楽しいこと。
どうして雷が鳴るんだろう、どうしてトマトは赤いんだろう――世界は不思議でいっぱいで、自分で考えた答えを持っている人は、まさに「詩人」であり、「科学的」です。(自分なりのトマトが赤い理由を語れる人は、エンブックスにご連絡くださいね、そのまま絵本ができるかもしれません)

最近話題になる絵本の多くは、ノウハウものや知育ものばかりで、僕はちょっと気がかり。子どもが自分で選ぶとは思えない絵本ばかりです。大人は子どもに正解を用意するのではなく、考えるきっかけを与えることが大切です。

 


以下、『言葉の力 人間の力』より抜粋
語り手:中村桂子(生命誌研究館 館長)

 

 生命誌研究館にお越しの保育園の先生が、(中略)「生きているってどういうことだろう」と問いかけられて、「植物は生きているだろうか?」と子どもたちにきいたのだそうです。ほとんどの子は頭で理解しているのでしょうね。「植物だって生きものだよ」と答えたそうです。
 ところが、一人だけ「植物は生きものではない」と主張する子がいたんですって。先生としては植物も生きものだということを言いたい。でも、その子は「だって、動かないのに生きもののはずがない」と主張したといいます。

 (中略)ある日、外で草取りをした時に、草を抜いたら、根っこのところから少し水が出てきた。するとその子はそれをみて、「ああ、植物って泣くよ! やっぱり生きているんだ」と言ったというのです。
 根から出た水はもちろん涙ではないし、科学では、「生きている」ということはそんなことで判断するのではありません。でも「あ、生きているんだ」とまず思うこと。そう実感して、そこからだんだん、三年生、四年生になった時に、いろんなことが解ればいいのです。私は、五十人いる保育園児の中で、この子が一番、ある意味で科学が解る完成の持ち主だなと思いました。

 ただお母さんは、みんなが「植物も生きものだ」とすぐに解っているのに、うちの子はなかなか解らないと心配する。今の世の中では、知識として教えられれば疑いもなく納得して信じることがよいと決められがちです。
 科学者としての私は、(中略)この子をとってもすてきだと思ったんです。

 自分で観察したことから答えを自分で見つけて出す。科学って正しい必要はありません。(中略)間違えていても、自分で考えたことをきちんと言って、それがまた次に新しい発見につながる。
 (中略)科学はきちんと見て、きちんと考えて、「こう思います」と言えばよいのです。(中略)十年経ったらあれは間違いだったということになったとしても、とても意味のあることを言うことがある、それが科学なのです。

 ただ、その時に、「きちんと見て、きちんと考えてある」ということが条件です。(中略)でたらめではいけない。それなら、たとえ間違えても、とても意味のある間違いになるのですね。だから科学は正しいことを言うことではなくて、よく見て、よく考えることなのです。

 その子は、ほんとに周りが全員そうだと言っても、自分は自分で見て納得しないとそうだと言わない。しかも、植物は生きものじゃないと言っていたのに、自分が見て、根から水が出てきたら、「泣いているんだから」、と答えを訂正する。まさに「詩人」であり、「科学的」です。

 


『言葉の力 人間の力』

著/松居 直、中村 桂子、舘野 泉、加古 里子
定価/1650円(税込)
佼成出版社
2012年7月25日発行

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7月8日(金)に、元福音館書店専務の田中秀治さんにお話を伺ってきました。
林明子さんデビュー作の担当編集者として、また「こどものとも 年少版」の創刊メンバーとして、たくさんの優れた絵本を世に送り出してきた経験から語っていただいたのは、絵本の良し悪しでも、絵本づくりのノウハウでもなく、親子の在り方の「本質」だったと思います。

 


子どもと絵本の関わりかたが変わってきた30年

 

2歳頃から子どもは絵本を楽しめるといわれた1970年代、2歳から4歳までの子どもたちを対象とした「こどものとも 年少版」が創刊されたのは1977年のことです。
1990年代に入ると、1歳頃から子どもは絵本を楽しめるといわれはじめ、1995年に「こどものとも0.1.2.」が創刊されました。
子どもと絵本の関わりかたは時代とともに刻々と変化していて、今では0歳児が絵本を楽しむことも珍しくありません。

こうして長い年月を俯瞰してみると、モノが豊かになるにつれて子どもの遊び道具はとてつもなく増えているはずなのに、絵本は端に追いやられるどころか対象の幅を広げてきたことがわかります。
その理由は、絵本は「親子で楽しむもの」だから、に尽きると思います。

 


絵本は親子で楽しむもの

 

田中さんは「読み聞かせ」という言葉が好きじゃないといいます。
幼い子どもはまだ絵本をひとりで読むことができないので、親が読んであげないといけません。だから、つい上の立場で「読み聞かせ」といってしまいがちですが、実際に絵本を読んでいると楽しいのは子どもだけじゃないことがよくわかります。それは、単に描かれたお話が楽しいというだけではありません。

絵本が親子にもたらすもの

  • 時間と空間で愛情を伝える
  • 子どもの感性の元をつくる

 


まず、絵本を前に親子は肌を触れ合わせます(=スキンシップ)。
そしてお話を通じて、親はたくさんの「ことば」を声にのせて投げかけ、子どもはそれを「愛情」として受け取ります。また、子どもは親の元で安心してお話の世界に入っていき、たくさんの「感動体験」をしてきます。
まだ言葉の意味がわからない赤ちゃんでも、ケラケラ笑う反応をみれば愛情が伝わっていること、コロコロ変わる表情から感性が磨かれていることは手に取るようにわかります。

実は、絵本を読むという行為を通じて、親子は愛情のキャッチボールをしています。
子どものうれしいは親もうれしい。もしかすると、親のほうが子どもに「読み聞かせ」をさせてもらっているんじゃないかとさえ思えます。田中さんのメッセージの本意を僕はそんなふうに理解しました。

 


絵本があればたくさんの言葉をかけてあげることができる

 

はじめての子育てで、子どもにどうやって接していいかわからないときもあるかと思います。
幼い子どもの行動範囲は限られているのに好奇心は限りなくて、期待に応えてたくさんの豊かな言葉をかけてあげたいと思っても、自分の引き出しにある語彙では心細いかもしれません。

今ではすっかり赤ちゃん絵本の定番になった『もこもこもこ』を開いてみると、不思議なカタチに美しい色の抽象画に「もこ」とか「にょきにょき」とか、日常会話ではなかなか出てこない絵本だからこそかけてあげられる豊かな言葉が並んでいます。
そういう「こどもだましではない本物」の絵本は、最高の親子の架け橋になってくれると信じています。

 


『くだもの』

作/平山 和子
定価/990円(税込)
対象/2歳から
福音館書店
1981年10月20日発行

すいか、もも、ぶどう、なし、りんごなど、日常子どもたちが食べるくだものを、まるで実物かと思わせるほど鮮やかに描いた、いわば果物の画集。

 


『たまごのあかちゃん』

文/神沢 利子
絵/柳生 弦一郎
定価/990円(税込)
対象/2歳から
福音館書店
1993年2月10日発行

「たまごのなかでかくれんぼしているあかちゃんはだあれ?でておいでよ」と呼びかけると、卵の中から次々と赤ちゃんが出てきます。リズミカルな文と、ユーモラスな絵が楽しめます。

 


『でてこい でてこい』

作/はやし あきこ
定価/880円(税込)
対象/0歳から
福音館書店
1998年4月15日発行

だれかかくれているよでてこいでてこい」と色紙に呼びかけると、「げこげこげこ」「ぴょーんぴょん」といろいろな動物たちが跳び出してきます。色と形の愉快な絵本です。

 


『もう おきるかな?』

文/松野 正子
絵/薮内 正幸
定価/880円(税込)
対象/0歳から
福音館書店
1998年6月10日発行

動物たちが親子で気持ちよさそうに眠っています。「もうおきるかな?」ページをめくると「あー、おきた! 」最後にゾウの親子も起き上がり、さあ、鼻と鼻をつないでおでかけです。

 


『いないいないばあ』

文/松谷 みよ子
絵/瀬川 康男
定価/770円(税込)
対象/0歳から
童心社
1967年4月15日発行

「赤ちゃんだからこそ美しい日本語と最高の絵を」の想いから、日本初の本格的な赤ちゃん絵本として誕生して半世紀。はじめて出会う一冊として、世代を越えて読みつがれています。いないいない、ばあ。にゃあにゃが、くまちゃんが、ほらね、いないいない……。親子の伝承遊びを絵本に再創造した作品。

 


『がたん ごとん がたん ごとん』

作/安西 水丸
定価/880円(税込)
対象/0歳から
福音館書店
1987年6月30日発行

がたんごとんがたんごとんと、まっ黒な汽車がやってきます。駅で待っているのは哺乳瓶。「のせてくださーい」と言って汽車に乗り込みます。ふたたび出発し、がたんごとんと次の駅へ行くと、こんどはコップとスプーンが「のせてくださーい」。さらに次の駅では、リンゴとバナナが、ネコとネズミが「のせてくださーい」。みんなをのせて汽車は「がたんごとん」と終着駅へ。そこは……。

 


『もこ もこもこ』

作/谷川 俊太郎
絵/元永 定正
定価/1430円(税込)
対象/赤ちゃんから
文研出版
1977年4月発行

「しーん、もこもこ、にょきにょき」とふくれあがったものは、みるまに大きくなってパチンとはじけました。詩人と異色の画家がおりなす不思議でおかしな世界の絵本。

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