おすすめの絵本

『しろくまのパンツ』

文・絵/tupera tupera
定価/1540円(税込)
対象/幼児から
ブロンズ新社
2012年9月発行

 


パンツをなくしちゃったしろくまさんと、それをしんぱいして一緒に探してあげるというねずみさんのやりとり。かわいい導入だなあ、とめくってみると、そこにドーンとタイトルがあって“はじまり はじまり”となるこの演出の巧さ。やられました。

「どこにいったんだろう?」 パンツをなくしてこまっているしろくまさん。そこへ、心配したねずみさんがやってきて、いっしょにパンツをさがしにいくことに。しましまのパンツ、かわいい花がらのパンツ、へんてこりんな水たまのパンツ……物語のラストには、あっとおどろく発見が!

紙がいろんな「パンツ型」に切り抜かれた仕掛け絵本です。
「だれのパンツ?」という問いに、親子で答えを考えるのは楽しい時間です。tupera tuperaさんの描くユーモラスなキャラクターたちの登場も、毎ページ待ち遠しい。

オチも最高。ページをめくってよく見てみると、なるほどそういうことか! こうやって、ページを戻ることができるのも本ならではの魅力です。

縦長の版型もこの絵本の特徴で、表紙のしろくまさんは赤いパンツを履いています。これが「帯」になっていて、読むときに脱がせるのですが、全体に貫かれたtupera tuperaさんのデザインが見事。遊びと機能が実現したすばらしい作品だと思います。

奥付には「替えパンツのご案内」まであって抜かりない。子どもだけじゃなく親の心もくすぐられる1冊。

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『かもさん おとおり』

文・絵/ロバート・マックロスキー
訳/渡辺 茂男
定価/1430円(税込)
対象/5、6歳から
福音館書店
1965年5月1日発行

 


『かもさん おとおり』がアメリカで出版された当時、ボストンに住んでいた子どもたちは、この絵本をどんなに楽しんだかを想像してうらやましく思います。

もちろん、この絵本が大好きな読者は日本にもたくさんいます。けれども、そのときチャールズ川の近くで実際に暮らしていた子どもたちの「好き」は、比べものにならないほど大きなものだったでしょう。

いつも遊びに行く公園のなじみの風景を舞台にして、物語がはじまる。うらやましいなあ!

かもの一家が、川から公園へ引越しです。かもたちは1列になって町の中を歩き出しました。さあ、たいへん! おまわりさんは自動車をとめて交通整理。パトカーまで出動です。

絵本というとなぜかファンタジーを思い浮かべる人は少なくありませんが、多くの優れた絵本は、なんてことのない日常を描いています。優れた絵本作家は、地に足をつけて子どもの目線で日常に楽しみを見つける天才です。

ボストンの人たちにとって、かもさん親子の引っ越しは特別なことではありません。でも、マックロスキーは「特別なこと」に気づきます。それは、かもさんの視点になってみること。

親子の愛も、サスペンス(ハラハラさせる感じ)もあるドラマチックな物語はこうして誕生し、今でもたくさんの子どもたちに読み継がれています。

自分の足元に転がっている種こそ宝。

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『あし にょきにょき』

作/深見 春夫
定価/1320円(税込)
対象/幼児から
岩崎書店
1980年10月20日発行

 


僕がまだ幼稚園の年少クラスだったとき、1冊の絵本に夢中になったことがありました。
たしか、教室の本棚にあったものです。

ふとした拍子に、その絵本の記憶がよみがえってきたのですが、どうしてもそのタイトルが出てきません。
足がのびていくお話だったような……、途中、豆がでてきたような……、町全体を俯瞰でとらえたシーンがあったような……。
手がかりのなかまま、やがてまた断片的な記憶は霧の中へ。

大きなそら豆を食べたおじさんの左足が、どういうわけか、にょきにょきのびだし、家の外ヘ。林をぬけ、森をぬけ、街までのびて……。

偶然、新宿の書店で『あし にょきにょき』の表紙を見つけたとき、「これだ!」と思いました。
久しぶりに手に取って開いてみると、間違いない。実にナンセンスで奇妙なお話です。

「どんどこ どんどこ」と軽快なリズムで足が伸びていくシーンを繰り返していくところで、はっきりしました。僕はこの楽しさをカラダで覚えていたんだなあ。愉快です。

懐かしい再会によって、改めて絵本の力を知ることになりました。

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『よあけ』

作/ユリー・シュルヴィッツ
訳/瀬田 貞二
定価/1320円(税込)
対象/4歳から
福音館書店
1977年6月25日発行

 


翻訳家でJBBY(日本国際児童図書評議会)会長でもいらっしゃるさくまゆみこさんが、「ユリ・シュルヴィッツの絵本論」というテーマで、こじんまりと勉強会を開催してくださいました。

僕がシュルヴィッツの『よあけ』をはじめて手にしたのは大人になってから。とはいえもう20年近く前のことです。

物語の後半、「そのとき」で一呼吸を置いてページをめくると、「やまとみずうみが みどりになった。」とまぶしいほど鮮やかに夜が明けるシーン。はじめて読んだときは本気で震えました。

山に囲まれた湖の畔、暗く静かな夜明け前。おじいさんと孫が眠っています。沈みかけた丸い月は湖面にうつり、そよ風の立てるさざ波にゆらめきます。やがて水面にもやが立ち、カエルのとびこむ音、鳥が鳴きかわす声が聞こえるようになると、おじいさんは孫を起こします。夜中から薄明、そして朝へ……。刻々と変わっていく夜明けのうつろいゆく風景を、やわらかな色調で描きだします。

この感動は本じゃないと味わえない種類のものです。
実際の夜明け、あるいは映像で描くとすると、暗いところから明るいところへじわじわとグラデーションがかかっていきます。明るいところへ向かう心の準備ができるんですね。

ところがこの作品の場合、めくった瞬間に「あけた!」と驚かされる。それは感動的なよろこびなのです。
もちろん「時間」は読者の想像の中で流れているわけですが、目に入ってくる変化の大きさは、本だからこそできる演出だと思います。

さくまさんに、この『よあけ』の絵コンテをみせてもらいました。創作の初期段階で画面構成がほとんど決まっていたことは衝撃でした。編集者としては突っ込みどころのない絵コンテ。シュルヴィッツは最初から読者の感動をイメージできていたということです。

僕の人生のターニングポイントになった思い出の1冊。

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『しずくのぼうけん』

文/マリア・テルリコフスカ
絵/ボフダン・ブテンコ
訳/内田 莉莎子
定価/990円(税込)
対象/4歳から
福音館書店
1969年8月10日発行

 


かがく絵本に注目しています。

フランスの文学史家ポール・アザールは「子どもの心を押しつぶしてしまうほどたくさんの材料をつめこむ本ではなく、心の中に一粒の種子をまいて、それを内側から育てるような知識の本を好む」と、『本・子ども・大人』の中で記しています。

何かやりたいなあ、と「一粒の種子」を探し中。

『しずくのぼうけん』はかがく絵本でありながら、ミリオンセラーを突破した稀有な作品です。うまく考えないと、とたんにお勉強くさくなってしまう「かがく」を見事に楽しい絵本にしあげています。

バケツからぴしゃんと飛び出した水のしずくは冒険の旅へ。お日さまにぎらぎら照らされて水蒸気になったかと思ったら、空にのぼって雲のところへ……。今度は雨になって地上に逆戻り。地上では岩のあいだにはさまって、寒い夜に氷になったかと思えば、朝のお日さまに温められて再びしずくなって、川へと流れ出します。

「しずく」を擬人化して主人公にしたこと。そして、物語に仕立てたこと。この工夫で、読者の子どもは「水の不思議」をおもしろがって体感することができるんですよね。50年前の作品ですが鮮度は変わらず。

見開きの片面ずつ、全部で23場面の大冒険です。子どもの絵本としては場面数は多いのですが、すいすい読める調子の良い文体もすばらしい。それもそのはず、内田莉莎子さんは『てぶくろ』や『おおきなかぶ』も手掛けている翻訳者だもの。

こんな絵本をつくりたい!

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『くだもの』

文・絵/平山 和子
定価/990円(税込)
対象/2歳から
福音館書店
1981年10月20日発行

 


僕が赤ちゃん絵本のお手本としている1冊が『くだもの』です。
行き詰まった時、ぱらぱらと開くと創作の原点に立ち返ることができる。
絵本を通じて「どんなシーンを実現したいんだっけ」の答えがここに描かれています。

みどり色の大きな「すいか」が、どっしりと置かれている。ページをめくると、「さあ どうぞ」の言葉とともに、みかづき型に切り分けられた、真っ赤なすいかがひと切れ。フォークもちゃんと、添えられている。くりは、イガから出して、皮をむいて。ぶどうはきれいに洗われ、水滴が光っている。りんご、なし、もも、いちご…まず丸ごとの果物を見せ、次にすぐ食べられる状態にしたものを紹介していく。

平山さんの描く写実的なくだものは「本物」です。子どもが見るからこそ一切手を抜かないで描く姿勢が好き。
結果、子どもは「美味しそう」と、くだものに手を伸ばします。

なんといってもこの絵本の一番の工夫は、切ったくだものに手が添えられて描かれていることでしょう。
大人が子どもに読んであげることが前提になっているので、「さあ どうぞ」の声がけは、親の声にのって赤ちゃんの耳に入ります。だから、赤ちゃんから見たその手は、優しい親の手です。

この絵本がどんなふうに読まれるのか、そこまで計算されている。
絵本と向き合いながら、まるで親子で会話(言葉を話せない赤ちゃんは反応するという意味で)をするように展開します。
優れた親子のコミュニケーション・ツールとして大傑作。「さあ どうぞ」。

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『わんわん わんわん』

文・絵/高畠 純
定価/1100円(税込)
対象/赤ちゃんから
理論社
1993年1月発行

 


大変光栄なことに先日、高畠純さんとお会いする機会がありました。

『だれのじてんしゃ』(フレーベル館)は、見開きにヘンな形をした自転車が描かれていて、「だれの じてんしゃ?」と主人公が問いかけます。めくると、なるほどぴったりの「だれ」が明らかになる展開。

この作品は1983年に「ボローニャ国際児童図書展 グラフィック賞」を受賞していますが、初期の頃から子どもの気持ちをガッチリつかんできた素晴らしい絵本作家です。

中でも『わんわん わんわん』は最高。いぬ、ねこ、ぶたと動物の鳴き声だけで展開する絵本です。出版社の紹介では幼児向けとありますが、今の時代なら赤ちゃん絵本としてオススメしたい。

イヌが1匹「わんわん わんわん」。そこへネコがやってきて「ニャーゴ ニャーゴ」。ブタさんもやってきて「ぶひっ ぶひっ」。さらには、ウシさん「ンモー ンモー」、ニワトリさんも「クワッ クワッ クワッ」、ヤギさん登場「めへー めへー」。みんなで一緒にあそんでいると、そこへ「プォーン」と大きな泣き声。ゾウがゴリラを引きつれて通りすぎた。神妙な面持ちで口を閉ざし、ゾウとゴリラを見届けたなら、あとはもうみんなで大騒ぎ。

音読すれば子どもが夢中になって楽しんでいる様子が目に浮かびます。

高畠さんは、最初に文の配置やサイズを決めて創作するそうですが、だからこそ動物の絵と鳴き声が一見バラバラのようでいて、見事にリンクしています。ゆるい絵もシンプルな配色もものすごく計算されている。それをさりげなくやるところがすごい。子どもがそういうところを見逃さない目を持っていることを知っているのだと思います。

装丁には「くすくすえほん」とありますが、間違いなく「げらげらえほん」。

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『たんじょうび』

文・絵/ハンス・フィッシャー
訳/大塚 勇三
定価/1540円(税込)
対象/4歳から
福音館書店
1965年10月1日発行

 


10月20日、これは誕生日にぴったりの絵本だと開いてみました。
ハンス・フィッシャーの絵は、好みか好みじゃないかでいうと、超好み。躍動感のある筆づかいにほれぼれします。

リゼッテおばあちゃんは、ネコやイヌやメンドリやヤギなど、たくさんの動物たちと一緒に幸せに暮らしています。今日は、おばあちゃんの76才のお誕生日。おばあちゃんが村へ買い物に行っている間に、動物たちはお誕生日のお祝いをしようと大奮闘します。ロウソクを76本買いにいったり、卵を36個も産んでケーキを焼いたり、花をつんだり……。

そこは2019年の東京とはまるで違う景色。(たぶんスイスの)森の奥にある広々とした家では、動物がおしゃべりすることもすんなり受け入れられます。世界観をつくる画家の説得力だよなあ。

おばあちゃんのために力をあわせて、体より大きなケーキを焼いてあげるシーンでは、これでもかと散らかったキッチン。案の定というか読者としては期待通り、まっくろ焦げに焼きすぎたケーキ。その焦げを白い砂糖をかけて隠しちゃうところ。現実だと「マジか!」という展開のすべてが微笑ましい。

ラストがまた最高にやさしい。来年の誕生日、おばあちゃんは祝う側にもなって、ますますにぎやかになるんでしょうね。しあわせってこういうことなのよ。

ちなみに、大塚勇三さんといえば『スーホの白い馬』や『ウルスリのすず』の翻訳者。その国の空気ごと訳す大塚さんだから成立したすばらしい絵本だと思います。

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『おうさまのこどもたち』

文・絵/三浦 太郎
定価/1540円(税込)
対象/3歳から
偕成社
2019年10月16日発行

 


ミリオンセラーを突破した『くっついた』でおなじみの三浦太郎さんの新刊絵本。
2000年以降に出版された絵本でミリオンを超えたのは片手で数えるくらいなので、誰もが認める大作家です。

圧倒的に美しい装丁から、配色へのこだわりを感じます。手触りもいい。ぱらぱらめくってみると特色(印刷代が高くなる特別インク……)もいたるところに。贅沢につくられた絵本だなあ。

王家に生まれた10人の子どもたち。成長してどんな王・女王になりたいか問われ、それぞれ、すし屋、サッカー選手、農家、保育士、アーティストなど、自分の好きな仕事で人々を幸せにしたいと考えます。さて、王さまのあとをついだのは……?

「ちいさなおうさま」3部作の完結編で、テーマは「多様性」でしょうか。こういう時代性に富んだテーマに人気作家が挑むことはすばらしいことだと思います。

ただ、テーマありきで考えすぎたんじゃないかという読後感。展開は単純なもので、お話にひねりや工夫があるわけでもないので、物語絵本としての楽しみはちょっと物足りない気がしました。

一方で、三浦さんの絵のチカラ。”絵を読む”子どもは存分にその世界を味わえると思います。繰り返し開くたびに発見がありそう。

そういう意味では、絵とお話のバランスってとても大事なんですよね。絵本は総合芸術だから。『くっついた』は、そのバランスが見事だと改めて。

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