おすすめの絵本

『パンはころころ』

作/マーシャ・ブラウン
訳/八木田 宜子
定価/1320円(税込)
対象/幼児から
冨山房
1976年12月発行

 


窓のふちで冷ましていたパンが「とつぜんころころころがりだした」ところから物語は急展開します。

ふとしたきっかけで主人公の冒険がはじまり、繰り返し訪れる危機をうまくかわしていく展開は、定番の「型」ではあるものの、パンの主人公が新鮮。

印象的なのは素朴な色使いで、ロシアのつつましい暮らしを、緑・橙・茶のたった3色で見事に表現しています。表紙に描かれたきつねの橙とあわせた見返しの橙で、クラクラするように物語の世界へ誘われると、ころころ転がるパンと同じく軽快なリズムの言葉にのせられ一気に最後まで。

パンがころころ転がって、広い世間に出ていきます。途中で、ノウサギやオオカミやヒグマにねらわれますが、知恵があるのでだいじょうぶ。ところが得意になって、キツネに自慢の歌を聞かせようとしたとたん……。

パンが冒険の途中で出会って食べられそうになる、うさぎ、おおかみ、くまの並びも、これまた心地よいリズムを刻む工夫でありながら、同時にだんだん大きくなっていく動物たちの登場シーンが子どもたちの冒険心を盛り上げてくれます。

そこへきて、最後に登場するきつねは、くまよりも小さいために「おや」と思うのです。この裏切りが良くて、展開に変化を与え、きつねの曲者ぶりが際立ちます。

それにしても、きつねというのはロシアでも曲者キャラクターの扱いなんですね。おおかみよりも、というのも興味深いです。

お話の最後にパンがどうなったのかはぜひ手にとって開いて確かめてみてください。これはこれでハッピーエンドだと僕は思います。

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目次

  1. 阿川佐和子さん講演会「妄想のススメ」レポート①
  2. 阿川佐和子さん講演会「妄想のススメ」レポート②

 


阿川佐和子さんが松岡享子さんにインタビューしたときの話から、テーマは本題の「妄想のススメ」へと移ります。
松岡享子さんは東京子ども図書館の名誉理事長で、『しろいうさぎとくろいうさぎ』や『おやすみなさいフランシス』など数々の名作絵本の翻訳でも知られる、児童文学界のトップランナーのひとりです。

 


読んだあとの時間が大切

 

松岡さんは「読んだあとの時間の大切さ」について語ります。
本を読んだあと、今読んだ本について、ぼーっと考える時間が昔の子どもにはたくさんありました。今の子どもたちにはたくさんの娯楽があるし、小学生でも習い事をしていたりと、楽しい反面、何かと忙しい。
例え本を読んでも、読んだそばから次は宿題、次はごはん、ネットに、おでかけに、と「何にもない時間」が少ないんだそうです。

 


自分のひきだしにあるサンタクロース像

 

子どもには、例えばサンタクロースの本を読んだら、どこに住んでいて、どこから来るのか、どうしてトナカイに乗っているのか、ウチには煙突がなくても大丈夫か、窓を開けておこうか、僕の欲しいプレゼントはちゃんと分かっているか...と延々考えるチカラ(=妄想力)があります。

そうやって自分だけのサンタクロース像をつくりあげて、大事にしまっておく。
年月が経ったあるとき、ませた友だちに「サンタクロースなんていない」と知らされて、びっくりするけど、自分の胸のひきだしには確かにサンタクロースははっきりと存在するんです。
自分の妄想でつくったひきだしには、生涯にわたっていつでもひきだせる宝物がつまっていることを、僕たちは確かに知っています。

例えば雷の本を読みます。どうして音がなるのか、今ならインターネットですぐに答えを見つけることができます。
ところが、そこにあるのは情報や知識です。優れた本には妄想のきっかけが散りばめられていて、そのきっかけを得ることが絵本や物語の本来の楽しみだと思います。

 


たくさんの感情と向き合うことで人生は豊かになる

 

阿川さんは、いろんな人が出てくるのが物語だといいます。
子どもから王様、ときには妖精や怪物まで。それに、みんながみんなやさしくて素晴らしい人物ばかりではなくて、いじわるな人や、ひねくれた人、乱暴者もいます。そうして語られるお話から、子どもはありとあらゆる感情を経験し、育み、そして妄想をしてたくさんのひきだしをつくります。
そのひきだしは、きっと人生を豊かにおもしろくしてくれるはずです。

 


さいごに、石井桃子さんからのメッセージ

 

子どもたちよ 子ども時代を しっかりと たのしんでください。おとなになってから 老人になってから あなたを支えてくれるのは 子ども時代の「あなた」です。

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『しろいうさぎとくろいうさぎ』

文・絵/ガース・ウイリアムズ
訳/まつおかきょうこ
定価/1320円(税込)
対象/4歳から
福音館書店
1965年6月1日発行

しろいうさぎとくろいうさぎは、毎日いっしょに遊んでいました。でも、くろいうさぎはときおり悲しそうな顔で考えこんでいます。心配になったしろいうさぎがたずねると「ぼく、ねがいごとをしているんだよ」と、くろいうさぎはこたえます。くろいうさぎが願っていたのは、しろいうさぎといつまでも一緒にいられることでした。それを知ったしろいうさぎはどうしたでしょうか? 結婚式の贈り物に選ばれることも多い、優しく柔らかな2ひきのうさぎの物語です。

 


『おやすみなさいフランシス』

文/ラッセル・ホーバン
絵/ガース・ウィリアムズ
訳/まつおか きょうこ
定価/880円(税込)
対象/4歳から
福音館書店
1966年7月1日発行

時計が夜の7時をしらせると、フランシスの寝る時間です。まずミルクを飲み、お休みのキスをして、ベッドに入ります。ところが、ちっとも眠くなりません。そのうちに、部屋の中にトラがいるような気がして心配になり、おとうさんとおかあさんのところへ。もう一度キスをしてもらいふとんに入りますが、今度は部屋に大男がいる気がしてねむることができません。さてさて、フランシスはぶじに眠りにつくことができるのでしょうか?

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『3びきのくま』

文/トルストイ
絵/バスネツォフ
訳/おがさわら とよき
定価/1210円(税込)
対象/3歳から
福音館書店
1962年5月1日発行

 


今朝の電車内、席に座っていた女の子とお母さん。リュックサックに入っていた『3びきのくま』を取り出して、慣れた手つきで読み聞かせをはじめました。お母さんにしてみれば、子どもがグズる前にということなのでしょう。

森で迷子になった女の子は、小さな家を見つけます。食堂には大きなお椀、中くらいのお椀、小さなお椀に入ったスープが。女の子は小さなお椀のスープをすっかり飲んでしまいます。隣の寝室には大きなベッド、中くらいのベッド、小さなベッドが。女の子は小さなベッドで眠ってしまいます。そこへ、散歩に出かけていた3匹のくまが帰ってきます。この家は大きなお父さんぐま、中くらいのお母さんぐま、小さな子どものくまの家だったのです。

ものの10秒で女の子が物語の世界へ入り込んでいったのがわかりました。

表紙越しに女の子の目線を観察していると、右へ行ったり、左へ行ったり、それは明らかに文字を追っているのとは違う動きをしています。
画面のなかに描かれているものをひとつもこぼすまいというような、あるいは画面の外にある物語の世界も覗き込もうというような、そんな動きです。

子どもは「絵を読む」といいます。読んで聞かせることが前提の絵本ですから、そもそも文字を追う必要がないというのもありますが、画面の捉え方が大人のそれとは全く違います。
だから絵本は「語る絵」じゃないといけない。その良し悪しは、はじめにお話ありきで、最後はやっぱり絵で決まるものなんですよね。

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