エンブックスの絵本

◎仕様

ねえねえ あーそぼ『ねえねえ あーそぼ』
さく/山本 直美
え/山本 美希
定価/1320円(本体1200円+税)
対象/赤ちゃんから、プレママ・パパにも
2019年6月27日発行

24Pハードカバー製本
サイズ/186×186mm
ISBN 978-4-8021-3153-7

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◎概要

子育て学協会とエンブックスのコラボで取り組んだ「“しあわせ家族”のつくりかた絵本」シリーズ第1弾です。
赤ちゃんの成長と発達において大切なチカラのひとつに「心の安定」があります。これは親子が共感を繰り返し、信頼関係を築くことで育まれます。そして、とりまく環境を広げながら人格形成の「根」を整えます。
今作では、身近な存在であるお姉ちゃんお兄ちゃん、お友だち、おじいちゃんおばあちゃん、保育園の先生が順に登場し、読者である赤ちゃんとつながっていく喜びを伝えます。
最後のシーンでは、読んでいるママとパパもお互いに愛でる気持ちになり、これから一緒に過ごす家族の時間が楽しみになると思います。赤ちゃんが産まれたときに贈る、家族みんなで読んで欲しい絵本です。

 


◎作家プロフィール

山本 直美
日本女子大学 大学院 家政学研究科 修士課程修了。幼稚園教諭を経て、95年株式会社アイ・エス・シーを設立。NPO法人「子育て学協会」の会長でもある。自らの教育理念実践の場として保護者と子どものための教室『リトルパルズ』を開設。以来、赤ちゃんから小学校低学年までの子どもたちを育て続けている。
04年、キッザニアの立ち上げに参画。08年、NPO法人 子育て学協会を設立。09年より、リクルート社の事業所内保育園の運営を受託。発達予防学による「幼児期からのアイデンティティ教育」の実践のため、各地で子育て学関連の講演を行うほか、保育者・親子向けに様々な講座・教室を実施している。
▶ NPO法人 子育て学協会

山本 美希
マンガ作家であり筑波大学 芸術系 助教。物語を内容とする画像表現について幅広く関心を持ち、「物語と表現手法の関係」を重視しながら作品を最も魅力的にする方法を考えながら、作品制作・研究・指導に取り組んでいる。
12年、マンガ『Sunny Sunny Ann!』でデビューすると、第17回「手塚治虫文化賞 新生賞」を受賞。14年に発表した『ハウアーユー?』は、第19回「文化庁メディア芸術祭 審査委員会推薦作品」に選出された。18年には、フランスで開催され「マンガ界におけるカンヌ」とも呼ばれる「アングレーム国際漫画祭」の公式セレクションに『Sunny Sunny Ann!』が選ばれている。
▶ https://mikiyamamoto.myportfolio.com/

 


◎試し読み

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◎読者のお便り

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◎仕様

ゆきちゃんのおさいふ『ゆきちゃんのおさいふ』
ぶん・え/松村 真依子
定価/2750円(本体2500円+税)
対象/幼児から
2016年7月20日発行

32Pハードカバー製本(カバーなし)
サイズ/幅200×高264mm
ISBN 978-4-905287-24-7

*この絵本は受注生産でお届けします

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◎概要

幼稚園に通っている幼いゆきちゃんは、はずかしがりやなところもあります。
ある日、ずっと前から欲しかった「自分のおさいふ」をママからプレゼントしてもらいます。うれしくてすぐにでも使ってみたいゆきちゃんは、ママとスーパーに買いものへ。そこへ、不思議なリスのお店やさんが現れます。
リスが持ってきたステキな品物は、お金の代わりに「どんぐり」で買えるというのですが、モジモジしているゆきちゃんに、はじめてのお買い物がうまくできるのでしょうか。

 


◎作家プロフィール

松村 真依子
1985年、奈良県生まれ。京都精華大学でヴィジュアルデザインを専攻。在学中の2009年に「ボローニャ国際絵本原画展」に入選。2012年「日本童画大賞」入選。現在は都内在住で、娘ふたりを子育てしながら制作している。
▶ https://www.mayko88.com/

 


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▶ 制作エピソードを読む

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―昨年末、ちょうどエンブックスは書店流通を本格化しようというタイミングで、はるのさんもお子さんが生まれてすぐのころ。
お互いに「良いタネ」を持っていて、はるのさんと絵本づくりを「本気で」はじめるには、ここしかないというくらいでした。

最初はこちらからアイデアを持ち込んで見ていただいたんですが、西川さんに
「思いついたものをそのまま絵にした感じだから、もっと最初の段階、“この絵本づくりを通じて実現したいこと”から考えましょう」
と言われて。

 

―すみません(笑) ただ、はるのさんの絵本作家としての可能性を引き出すには、「なぜ描くのか」から編集をはじめるほうが良いだろうと思っていました。
それまではどんな絵本を描かれていたのでしょう。

いろんなタイプの絵本を作ってきたので、ひとことでいうのは難しいですが、ここ数年は、物語絵本に取り組んでいました。海外でも出版したい、という気持ちが強くて、移民問題やら異文化交流をテーマに描いていました。小難しいですよね(笑)

あとは、すぐ仕事に直結するものをということで、日本の各出版社の年間計画に合わせた絵本の企画を持ち込んだりもしていました。童謡を絵本にしたものだとか。

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▲はるのさんがこれまでに描いてきた絵本の一部。これらを手に日本の出版社のみならず海外までチャンスを求めて売り込んでいた

 

―一方で、話をしていると端々に「赤ちゃん絵本」にも関心が向きつつあると感じました。

はい。2016年には、板橋区立美術館の「夏のアトリエ」にも参加しました。

講師は絵本作家の三浦太郎さんで。その時のメンバーとは今でもよく連絡を取り合って、刺激をいただいています。太郎先生は大御所なのにすごく気さくな方で、それまでも太郎先生の絵本は好きだったのですが、お人柄を知って、さらに大ファンになりました。

 

―それで、エンブックスとしての考えもあって、小難しいテーマは一旦引き出しにしまっていただいて、「赤ちゃん絵本をつくってみませんか」とお願いしました。

今ならできそうかもな、と思いました。
わたしは何が何でも物語絵本、と特にこだわって作っていませんでした。実際、赤ちゃん絵本みたいなものも作っていたし、詩みたいな絵本も。開いてめくって簡単に持ち運べて、どんな時にも、そこに楽しい別の世界をつくることができる、そういう絵本という様式なら、細かいジャンルは気にならなかったんです。

子供が生まれる前から、いろんな絵本を集めていましたが、やっぱり自分の子供に絵本を読み始めるようになってからは、
「あ、これ、なんでわたしが描いた絵本じゃないんだろう」
と思うことが増えて。
本屋さんに行って、たくさんの絵本が売られている中で、まだ一冊もわたしの名前で絵本が出ていない、おかしいな、こんなにずっと絵本を描いているのにな、って(笑)
たぶん絵本作家を目指していらっしゃる多くの方が、わたしと同じ感覚だと思うのですが(笑)

もちろん、個人的に作っていた動物絵本とかを子供に見せてはいたんですが、もっと、編集者さんとのやりとりを経て「完成した」形のものを、子供に読み聞かせしてみたかった。
だから声をかけてもらって、チャンスがあるのならぜひ! と思いました。

後日談ですが、西川さんから「お声がけした時点で出版するかどうかは決めていなかった」みたいに言われてずっこけましたが(笑)
わたしは始めから、出版する気満々だったので。

 


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―はるのさんは京都芸大で型染めを専攻されていたそうですね。

高校生の時、進路を選ぶ段階で、いつか絵本を描く人になりたい、とは既に思っていて。

 

―ああ、もう高校生の頃から絵本が将来の軸にあったんですね。

デザイン科にするか工芸科にするかで迷った時に、人とちょっと違う技術を持っていたほうが、絵本を作る時に面白いんじゃないかと思い、工芸科を選びました。

とは言っても、1年生は総合基礎と言って、どの専攻の子も合同クラスで共通課題をやって、2年生では工芸基礎で、染織以外にも、漆や陶芸などもやって、3年生でようやくコースが分かれたと思います。ちょっと記憶が曖昧になってますが……(笑)

課題では、一反の布を型染めして浴衣を手縫いで作る、みたいな、いかにも“京都どすえ”的なものもありましたが、それとは関係なく、型染めで絵本を作って提出したり、絵本のグループ展や公募に出したりしていました。

卒業制作も絵本でした。当時は人と話すこともすごく苦手で、自分で好き勝手にやっているし、何日も家にこもって制作して学校に行かなかったりで、全然パッとしない学生だったと思います(笑)。周りの子達がすごすぎて、ずっとコンプレックスだらけでした。

 

―それでも絵本に対する思いは強くて、ご結婚された後もさらにロンドン芸術大学で学ばれたんですよね。

イギリスは、1年ちょっとロンドンにいたんですが、ual(university of the arts London、ロンドン芸術大学)付属の語学学校で英語を学んでいました。

けれど、せっかく「ピーターラビット」や「アリス」を始め、たくさんの大好きな物語のある国に来たのだからということと、学校の授業だけでは物足りなくなってきて、ロンドン市立大学(city university London)のwriting for childrenという、3ヶ月のショートコースに夜間で通い始めました。

『ピーターラビットのおはなし』

作/ビアトリクス・ポター
訳/いしい ももこ

『不思議の国のアリス』

作/ルイス・キャロル
訳/河合 祥一郎

ここは、本を出版している作家の先生が講師で、絵本からヤングアダルトまで、幅広いジャンルの子供向けの本について学べるクラスでした。先生もイギリス人だし、来ている人もほとんどがネイティヴスピーカーだったので、学校の友人と、第二外国語としての英語でやりとりしているのとでは、スピードや言い回しが違って、ディスカッションがある時に自分の意見を言うのにとても苦労しました。

最後の授業は、自分が書いてきた物語を、先生が添削して個別面談してくれるというもので、その時に描いた物語の1つを、今も何度も練り直している感じです。

そのコースが終了後、今度はCentral Saint Martins(ロンドン芸術大学の1つ)のChildren’s book illustration コースに3ヶ月、夜間で通い始めました。こちらは文章ではなく、絵がメインのコースです。絵本を出版されている先生が、絵を描く技法などについて幅広く教えてくれるものです。

特に面白かったのは、粘土で立体造形を作って、それを動かしてポーズを確認しながら、短い絵コンテを考える、という授業でした。絵本の主人公を立体化してみると、絵を描くにしても、設定や動きにリアリティと説得力が出てくるな、と思いました。

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▲ロンドン芸術大学付属語学学校のキャンパス

 

―「文」と「絵」のそれぞれを別の大学で学んでこられたんですね。
日本では、絵を学ぶ学校はたくさんあっても、物語の作り方を学べる場所はぱっと思いつきません。ディスカッションを活発に行うには、それだけ「伝えたいこと」がないといけないわけで、作家のたまごたちは鍛えられそうです。

学校に通っている間も、出版社が企画した‘How to write children books’イベントとか、絵本の関連イベントを見つけては、ちょいちょい足を運んでいました。本屋さんもたくさん巡りましたね。絵本の1ポンドショップなんてのも見つけて、大人買いしたり(笑)

本当はアングリア.ラスキン大学(Children’s book illustrationコースがある大学)に入学して、しっかり絵本について学びたいのですが、学費が高くて、ちょっと今の自分には現実的ではないかな……

けれど、わたしの帰国直前に、語学学校で友達になった子がその大学院への入学が決まったので、その時に遊びに行かせてもらって、教室の中に入らせてもらい、雰囲気だけはちょっと味わってきましたよ(笑)

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▲書店の絵本コーナーは充実のラインナップ

 


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―赤ちゃん絵本をつくるにあたって、エンブックスから「親子がスキンシップしたくなる」というコンセプトを提示しました。

コンセプトをいただいてから、自分が子供とのやりとりの中で、楽しんでいたことを1つ1つ考えてみました。
息を吹きかけて遊ぶ「ふう」は、その中の1つでした。詳しいエピソードは絵本の奥付に書いたので、買って読んでいただけたらうれしいです(笑)

 

―そうでしたね(笑) 「ふう」は、子育て中の実体験に基づくアイデアだったので、説得力が抜群にありました。
伺った瞬間に「これならいける!」と思いました。

最初に考えた展開は、登場人物にリスがいて、そのキャラクターの呼びかけに応じて、読者が風船を膨らませて、というものでした。インタラクティブな要素は、最初から意識していたと思います。

けれど、赤ちゃんにとって「風船」だけのしばりで最後まで引っぱるのは難しいのではという話になり、「ふう」するいろんなモチーフが出てくる、今の展開へと変わっていきました。

 

―最初の展開案は、主人公のリスがいることで「読者の赤ちゃんが全然遊べない」と戻しました。
アイデアが良いだけに、それを活かしきる展開にもっていかないといけないと思いました。それで、「ふうーっと息を吹いたら、変化する」モチーフのネタの洗い出しから仕切りなおしたんですよね。

そもそも問題として、「頭が働かない……」というのがありました(笑)

子供が生まれる前まで、アイデアや企画を考える時間は、午前中の早い時間をあてていました。それが出産して、時間が細切れにしか使えなくなって、思考の深いところまで集中する前に子供が昼寝から起きてくる、みたいなことが続いて、難しくなってしまいました。ホルモンバランスの変化とかもあったのかもしれないのですが。

夜は、子供は割と早く寝るほうだとは思うのですが、夜になる頃には自分がなんだかヘトヘトで、絵を描くとか作業的なことはできても、アイデアを出す、みたいなのが全然できなくて悩みましたね。

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▲テーマが決まってから最初に描いたアイデアスケッチ。主人公のリスが進行役で、いろんな風船をふくらませる展開。ふりかえってみると、この時からこの作品の肝となる「工夫」のベースはできていた

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▲次のアイデアでは擬人化された風船が主人公に。まだ最初のラフにあった「肝」に2人とも気づいていないので、「ふう」する遊びが逆に弱くなってしまった

 

―そうですよね。赤ちゃんが身近にいると絵本づくりに活かせますね、なんて軽く言っちゃいがちですが、育児と創作の両立の大変さは想像のはるか上なんだと気づきました。

それで、西川さんに相談したところ、アイデアを出す、というのもタスク化するといいですよ、とアドバイスをいただき、なるべく狭い範囲でテーマを決めて、習慣的に出すようにしました。

あと、ジェームス.W.ヤングの『アイデアのつくり方』という本に書いてあった方法を取り入れて、壁に白い大きな紙を取り付けて、それにポストイットでアイデアを書いては貼っていきました。イギリスフリークということもあり、BBCドラマの現代版「Sherlock」みたいな状態です(笑)。あれって脳科学的にも、ちゃんと理にかなっているらしいです。

『アイデアのつくり方』

著/ジェームス.W.ヤング
解説/竹内 均
訳/今井 茂雄

「Sherlock」

―この時期に「この作品を通じて何を実現するのか」を繰り返しお話した記憶があります。僕自身ふりかえってみると、このときが編集の「山場」だった気がします。
そのかいあって、いろんな楽しいモチーフが出ました。

ボツになったけど気に入っているモチーフは、赤ちゃんの顔にふうする絵です。かわいいけれど、それまでのページから視点がずれちゃうので……

でも、この絵本を読む時、ページに描かれたモチーフと同じように、子供にふうーっと息を吹きかけるのも楽しいので、ぜひ読者の方にもやってみてもらえたらなあと思います。

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―モチーフ探しに、展開案出し、優れたアイデアを活かすための工夫について、考えることが山ほどありました。
このころは編集者からのつっこみが多すぎてお疲れだったと思います。

その頃は、絵本づくりでの疲弊もありましたが、プライベートでの疲弊が大きかったと思います。家族の仕事でベルギーに2年転勤するという話になり、ちょうどラフのやりとりをしていた時には、船便の荷物の整理やら買出しやらをしている時期でした。

産後3ヶ月目から、週1でやっていた英会話を子供連れで再開し、出国予定の数ヶ月前から、週2のフランス語のレッスンも追加でやり始めて。初めての子育てを海外で数年する、しかも英語圏じゃない場所で、というので、出産前からずっと緊張が続いている状態でした。

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わたしは小心者で、思いつく限りのあらゆる事態をシミュレーションしてからでないと前に進めないタイプなので、病院やら住まいやら、リサーチにも相当の時間を費やしました。

ロンドンにいた時は大人だけだったので気楽なものでしたが、海外だと日本のように物事がスムーズにいかないことも、経験としてよくわかっていたので、それが子連れ、英語が通じるとは言え英語圏じゃない場所だと、一体どうなるんだろうな、と。

だからそんな中で、ようやく絞り出したラフに、西川さんから速攻で容赦のない返信が来ると、ものすごく精神的に参りました。これだけ育児も渡航準備も語学もがんばって、これ以上一体何をがんばればいいというんや?! と。

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▲絵本づくりと並行して準備していた語学。テキストの数がはるのさんのいう「小心者」の安心材料?

 

―はるのさんの創作に向かう気分をどうやったらあげられるのか、作家さんの性格も様々なのでいつも難しいと思います。

冷静に考えたら、作家がプライベートでどんな苦労をしているかなんて、そんなの読者の方の知ったこっちゃないことですよね。完成した絵本が、すべてですから。

だから編集者の西川さんからは、このやりとりを通して「絵本作家のプロ」としてどうあるべきかを教えていただいたと思います。

自分がどんな状態であれ、読者の方に最高の状態のものをコンスタントに届ける、そして常に、今まで以上のものを目指す、それがプロなんだと。

イラストの仕事でも、それはわかっていて心がけていたつもりだったのですが、絵本づくりはもっと自分の中の、根源的なものを問われ続けたので、それと向き合うのがちょっとしんどかったですね。シンプルって本当に難しいと思いました。

 

―もがきながらも「なぜ描くのか」がストンと腹に落ちた感じを受けました。
ここを乗り切ったくらいから、僕の中でも「出版」が現実の計画になっていきました。

今回の絵本は、縦にめくる仕様にしたのですが、そうしようと思ったのも、その頃に編集者さんからこの絵本の特徴となるもう一工夫を、と言われたからです。

「ぽわーん」という風船の場面をまず描きたかったのですが、迫力を出すにはやっぱり縦のほうがいいな、じゃあ手前に手を描いたら、ふうして次のページの紙をめくるのも、動きとして自然かな、とこのようにしました。

 

―アイデアが「作品」として見事に成立しましたね。

この作品を「いける」と感じたのは、ベルギー行きが会社都合で突然なくなった時ですかね(笑)。渡航予定日の1ヶ月前で、アパートも解約手続きとか終わっていて、船便で半分荷物も送っちゃっていたのですが。

あれだけ準備したのに……と本当に脱力でしたが、ずっと精神的にも落ち着かない状態だったので、日本に留まれることになって、これで絵本に集中できるぞ、とも思いました。

渡航準備で失った時間を考えるとめちゃくちゃ悔しくて、今でも思い出すと悔しいのですが(笑)。絶対に日本にいることになってよかったと思えるような未来をつくろう、と気持ちを切り替えました。結果的に、それが絵本を仕上げる原動力にもなったので、よかったと思います。

 


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―ラフを描くのは水を得た魚のようでした。

わたしはせっかちで、頭にイメージで見えたものを早く形に落とし込みたい、という衝動があって、ラフも最初からカラーで描いていました。

あとは出産前に奮発して買ったiPad Proのおかげです。今回の絵本のラフは、全部iPadで描きました。そんなふうに言うとすごいハイテク人間みたいですが、携帯はガラケーです(笑)

最終的には印刷して絵本の形にして検証するのですが、その前段階の作業時間はそれでずいぶん効率化できたと思います。隙間時間にどこでも描けるので、とにかくすきあらば描いていましたね。

じっくり考えて締め切りギリギリで1案出すよりは、早く3案出して、そこから締め切りまでに調整を重ねていく、というほうが性に合っているので、スピードも重視していました。

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―常に頭の片隅にダンドリを意識している編集者としては、速いことは間違いなく助かるんです。
でも、「前のめり」になりすぎるはるのさんを制止したこともありました(笑)

「はるのさんは課題解決をすることに向き合わず、今関係のないものを盛り込んで焦点をぼかしてしまう癖がある」というようなことを西川さんから言われて、ものすごく凹んだのですが、「あ、確かにそうかも」と思う自分もちゃんといました。

 

―まだ作品に登場するモチーフが固まってないうちから、はるのさんがどんどんラフを進めていた時ですね(笑)
スピードは速いけど、ゴールに向かっていない暴走状態。「こりゃまてまて」という気分でした。

自分の痛いところをつかれたから、余計ショックだったんですよね。

だからそこから、「赤ちゃんの視点」とはどういったものなのか、というのをもう一度再考しました。それは、ふうするものがどんな内容だと赤ちゃんにとって身近なのかということであったり、画面の構図であったり、いろいろなのですが。

「思考の癖」でもうひとついうと、ついつい画面をたくさんの絵で埋めないと物足りないような気がしちゃって、いろいろ余分なものを描いてしまっていたのですが、赤ちゃんの発達段階を考えると、それだと情報過多なんですよね。いかに削って、それでも赤ちゃんがちゃんと理解できて、さらに楽しいものにできるか……

あれもやりたいこれもやりたい、という欲張りなわたしの考えの‘交通整理’を、西川さんにしていただいた感じです。

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▲結果的にボツになったネタも、この通りフルカラーで。仕上がりイメージが分かるのでありがたいとはいえ、肝心の課題解決にたっぷり時間をかけて欲しいという編集者の願いも

 

―ある程度ラフができてからは、はるのさんにも明確なゴールイメージが見えていましたよね。
そのうち、僕の思いつきアイデアにも、はっきり「No」と意思を貫くようになってきて心強かったです。

文章は、くりかえし言い方を変えてみて、どんなふうに言うと一番反応がいいか、子どもたちの様子を観察して考察できたからだと思います。

自分の子どもだけでなく、子育てセンターで出会った子とか、友達の赤ちゃんとか、とにかく赤ちゃんに会う機会があれば、片っ端からダミーの絵本を読ませてもらって。赤ちゃんがどこで反応するかというのは、月齢によっても、個人によっても、ばらばらでした。絵本だけじゃなくて、読み聞かせをする大人の口の動きとかも、よく見てるなあ、とか。
絵本に合わせてアドリブでいれたしぐさを、とても喜んでくれたなあ、とか。

それに、興味がなさそうだとこちらが思っていても、意外と聞いていたりするんですよね。子どもに数ヶ月、同じ絵本を読み続けてみると、その時々によって反応の仕方が違うということもわかってきました。

そうした実体験があったからこそ、自分の中で、ここはこの言葉のほうがいい、というのが固まってきたのだと思います。やはり子どもから学ばせてもらうことが大きかったのだと思います。

 

―編集者は「つっこみ」のような仕事でもあるのですが、見事につっこみどころがないところまで磨き上げていただきました。

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▲上の着色されたラフが「いたいの」のボツ案。「この絵本で何を実現するのか」を繰り返しはるのさんに問いながら、ラフを磨いていった。下のラフが上がってきたとき、はるのさんに「ゴール」が見えたことが分かった

 


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―原画は布用絵の具で描いたそうですが、はるのさんならではの表現になりましたね。

普段のイラストの仕事でも、ステンシルという技法で布用絵の具でキャンバスに描く方法と、デジタル作品と、両方手がけていました。だから今回の絵本の原画も、デジタルと、アナログの布に描くステンシル、もう一つ切り絵の3パターンで、同じページを描いてみて検証しました。

赤ちゃん絵本に求められるのは、いろんなものを削いでいくシンプルさなので、それが、線を省略して大事な要素だけ残すステンシルと似ているなと思いました。だから今回はこの方法を選びました。

ステンシルは紙にもできるのですが、布が好きなんです。紙だと折れちゃうけれど、布ならアイロンをかければしわもきれいになるので、そういう柔軟なところも、そそっかしいわたしに合っています(笑)

あとは、大学の頃に型染めを学んだのも、いつか絵本に活かしたいという思いからだったので、染料ではなく布用絵の具になり、やり方はちょっと違うし年月もかかりましたが、当時やっていたことがようやく商業絵本の形として昇華できた感じです。

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―装丁は何度も検討しました。

はじめに考えた装丁は、赤ちゃんが正面向きのポーズで「ふうーっ」としている絵でした。けれど、絵本が縦に開く仕様にしたので、帯をつけると顔の絵のところにかかってしまうからということで、横顔にしました。

赤ちゃんのおでことか後頭部のラインの感じで“赤ちゃん感”も出しやすいなというのもありました。

色については、表紙のラフを描いていく中で、水色と黄色の組み合わせがいいなあと感覚的に思いました。もともとどちらの色も好きなこともあって。ただその水色と黄色を、どんな発色にするかを決めるのに、タイトル文字の視認性や、色のコントラスト差のチェックなど、ずいぶん試行錯誤しました。

ディック・ブルーナさんなどの名作絵本の表紙画像をたくさん集めて、どういった点がすぐれているのかという分析にも時間をかけました。

最終的に「これ!」という水色と黄色が決まった時には、すごくうれしかったです。大変といえば大変だったのかもしれませんが、今後の表紙作りの際にも役立つことが学べたので、とても貴重な経験だったと思います。

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▲試行錯誤の一部。思いつく限りの配色パターンは全部試してみた

 

―「眉毛」の角度など、本当に細部までこだわりました。

人間の視点が、ページのどこに行きやすいかを意識して、モチーフや目などの位置を決めました。

ラフの段階でずいぶんバランスや形などは検証したので、原画制作に入ってからは、西川さんから差し戻しということはほとんどありませんでした。ただ、自分が納得がいかないから描き直す、というのを繰り返して。

「いたいのバイバイ」というページでは3回くらい描いたかな。「ぴゅーん」ってする線に迷って。

けれど日があくと、色を作っても同じ色がなかなかできなくて、描き直した色の違いのほうが気になって、結局やっぱり元の絵に戻す、みたいなものもあります。

タイトル文字や、中面のオノマトペの文字は手描きなのですが、シチュエーションに合わせて形を変えていて、そこもこだわりました。

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▲本番用の原画でも発色や線の具合を確かめながら、納得のいくまで描きなおしている

 

―いろいろと楽しいお話をありがとうございました。絵本づくりの過程はもちろん、はるのまいという新人絵本作家のエネルギッシュな人となりがよく分かりました。

育児との両立は確かに大変でしたが、それでもやっぱり一番身近に絵本を見せたい存在がいる、というのは大きなモチベーションになりました。

家族はもちろんですが、友達、子育ての先輩、保育士さんや子育て支援施設のスタッフの方々にも、本当にお世話になりました。絵本づくりも子育ても、いろいろな方々のご理解やお力添えがあって、やらせていただけている、という感じです。

今までたくさんの絵本を読んで、作ってきて、基本的には絵本は子どものために、と思っていたのですが、「読んであげる」相手が身近にできたからこそ、逆に「絵本は子どもだけじゃなくて、親や大人の力にもなってくれるものなのだなあ」ということを痛感しています。

まだ言葉を発しない時期の赤ちゃんと四六時中向き合っていると、なんとも言えない孤独を感じることがありました。けれどそんな時、絵本というものが間にワンクッションあると、赤ちゃんとのコミュニケーションのバリエーションが広がったんですよね。それがすごく面白かったし楽しかった。この絵本が読者の方にとって、そんな絵本になってくれるといいなあと思います。(おしまい)

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偶然にも、今井さんが手がけた「てっぱん」も、エンブックスも「縁」がテーマ。
だから、『わにのだんす』も同じように、そこに関わるみんなが「輪に」なってつながっていけたらいいなと考えています。

「輪に」って必ずしも冗談ではなくて、作品のファンが参加できる場としての「コミュニティ」は、きっとこれからの出版にとっても大切なキーワードになってくるだろうと想像しています。

そういう意味では、SNSで使われる「ハッシュタグ」は共通言語のコミュニティです。そこで読者同志、あるいは読者と作家、読者とエンブックスがつながれる場を作ることにしました。共通言語は「#わにだん」。

お話の感想や読み聞かせの様子、自慢の絵本棚などを「#わにだん」をつけてインスタやツイッター、フェイスブックに投稿してもらえたらうれしいです。子どものオリジナルわにダンス? もちろん大歓迎です!
投稿の際に、絵本の中身が写真に写ってしまっても気にしないで大丈夫です。本編撮影OK。

「#わにだん」で集まった投稿は、エンブックスのサイト……今まさに見ているこの特設ページに掲載していくかもしれません。読者たちの手でこのコミュニティを盛り上げてもらえたらうれしいです。(おしまい)

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