エンブックスの絵本

前回のエピソードの最後に「子守話」と書きました。
子守歌じゃなくて子守話。今から10年くらい前まで、今井さんが子育てしながら紡いでいた創作話のことです。
『わにのだんす』はそのうちの一遍でした。

僕と今井さんの最初の出会いはツイッターです。
2011年当時、今井さんはNHK連続テレビ小説「てっぱん」の脚本を手がけられていて、僕は一視聴者という関係でした。


Photo credit: GORIMON

たまたま見かけたツイートで、今井さんが僕と同じ大阪は堺の「泉北ニュータウン」出身だと知って、お声がけしたのがきっかけです。

それから1か月後には、今井さんとつながりのある東京在住の泉北ニュータウン出身者で集まることになり、「てっぱん」と同じようにお好み焼きをつつきながら、まだはじめたばかりの絵本の出版について話を聞いてもらいました。
その時に、今井さんから「子守話」のことを教えてもらい、「もし良ければ!」と大胆にお願いをしたのが創作のはじまりです。

「子守話」が115作、加えて別の創作絵本が1作あって、全部で116作のお話を全部読ませてもらいました。
そこから、絵本にしたいと思った作品を17作まで絞り込んで、今井さんに相談し、最後に選んだのが『わにのだんす』です。

絵は、今井さんが脚本家になる前、マッキャンエリクソンでコピーライターをされていたときにお仕事でご一緒したことがあったという島袋千栄さんにお願いしました。
島袋さんの描く擬人化された動物たちは、ユーモアがあってロマンチック。いわゆる「語る絵」で、ひと目で『わにのだんす』にぴったりの画家だと思いました。

 


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踊ることが大好きなわにが道端でダンスをして見せると、通りがかりのわにたちは喜んでお金をくれました。わにはそのお金で好きなものを買いました。味をしめたわには、場所を変えては踊り、お金を貯めて次々に好きなものを買っていきます。もっともっとと考えたわにが、最後にたどり着いた場所で見つけた、本当に欲しかったものとは?
子どもが「はじめて出会う経済の本」。モノには「価値」があること、同時に「お金で買えない価値」があることを楽しく知ることができる絵本です。

 


新装版『わにのだんす』の紹介文は、こんなふうにまとめました。

改めて、この作品を通じて子どもたちに伝えたいことは何だろうかと考えていて、たどり着いた言葉が「本当に欲しかったもの」です。「これだ!」と思いました。帯には「お金を稼いだ “だんすわに”が見つけた 本当に欲しかったものは?」というコピーを書きました。

作家の今井さんは、この絵本を「子ども向けの顔をした経済のお話」だといいます。
得意なことでお金を稼ぐわにの姿は、まさに経済活動そのものです。

とはいえ、「経済」といっちゃうと子どもの世界とは距離を感じるママ・パパも少なくないと思います。実際、僕自身も軽い違和感があったし、創作過程では「お金が描いてあるのを子どもに見せることに抵抗がある」というママの声もありました。小さな子どもの口から「お金」という言葉が飛び出すと、ギョッとする親の気持ちもよく分かります。

でも、このお話の真意がそんな表面的なところにないことは、最後まで読めば誰でもわかると思います。なぜって、主人公のだんすわには「人のためにお金を使う」ことで「お金で買えないよろこび」を手に入れるんですから。

考えてみれば経済って、人と人との関係の「やりくり」なんですよね。
だんすわにが教えてくれるのは「楽しみを生産し、よろこびを分配する」という、人が豊かに生きていくうえで根っこになる大切な「やりくり」です。

そういう意味で、小さな子どもにこそ読んで聞かせて欲しい。
小さな子ども時代に正しい根っこをしっかり生やしておけば、大人になってからどんなことがあっても、最後はブレずに豊かに過ごせるんじゃないかと思います。
今井さんはそのことを知っていて、まだ小さかった娘のたまちゃんに「子守話」として語り聞かせて、育てたんじゃないでしょうか。

すっかり大きくなったたまちゃんの豊かさといったら!

 


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目次

  1. わに再び踊る。新装版『わにのだんす』を出版
  2. 楽しみを生産し、よろこびを分配すること
  3. 今井さんが子育て中に語り聞かせた子守話
  4. 「#わにだん」を共通言語にコミュニティをつくる

 


2018年7月10日(火)に新刊絵本『わにのだんす』を出版します。
帯のコピーを考えたり、仕上がりサイズや製本の具合を確認する「束見本」を作ったりして、間もなくやってくる入稿までの準備期間を「しっぽをばんばん」しながら、慌ただしく過ごしています。

え、『わにのだんす』知ってるよ? という読者のみなさんは大正解。この作品は、もともとペーパーバック絵本として今から6年前の2012年に出版している作品です。

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今回、新装版『わにのだんす』を出版することに決めた理由は、3つあります。
ひとつめは、このお話が「抜群におもしろい」こと。
子どもたちに読み聞かせをすれば、食いつくように楽しんでくれます。これは作品の「本質」の部分なので、時代に左右されない強いコンテンツということが、事前にわかっているのは心強い。

ふたつめは、「書店流通ができるようになった」こと。
当時、今の僕なら絶対に「GO!」のジャッジをしない部数を刷ってw、決して冗談ではなく山のような在庫を自宅に抱えながら(その後、在庫の圧に耐え切れず引っ越しを余儀なくされた)、ネット中心にこつこつと子どもたちに届けてきたわけですが、作品の出来と流通の仕組みが噛み合わないもどかしさがありました。

みっつめは、「幼児向け絵本」であること。
昨夏に法人化してから数えると、3作目の絵本になります。ポンポンと前の2作は赤ちゃん絵本を続けて出して、上手い具合におかげさまでいずれも重版になりました。だったら、素直に赤ちゃん絵本を出し続けたほうが、手にとってもらえる確度は高いし、ブランディングもしやすいと思います。
でも、僕がみているのはもう少し先の世界。書棚のエリアを広げるためのチャレンジです。
エンブックスがこれまで「コンテンツ・ファースト」として取り組んできた、ペーパーバック絵本やオンデマンド絵本といった既刊絵本も、タイミングをみて書店流通用に刷りなおして届けていくよ! というメッセージでもあります。

新装版『わにのだんす』は、ペーパーバック版よりも大きなA4判変形になります。
愉快なお話はそのままに、装丁はより躍動感のあるデザインに、本文も見やすくレイアウトし直しました。
ぜひこの機会に「だんすわに」と一緒に、親子で楽しい時間を過ごしてもらえたらうれしいです。

 


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赤ちゃんたちのオノマトペへの関心

 

赤ちゃんたちはオノマトペが大好きです。「どんぐりころころ、どんぐりこ」といった童謡を歌うとき、また散歩で見かけた犬や猫のことを「わんわん」「にゃあにゃあ」と呼ぶときの笑顔は見ているだけで楽しい気持ちになります。

私自身、小さい頃は母親に『おむすびころりん』(絵/すがわら けいこ)の絵本を繰り返し読んでもらっていました。もう絵本そのものは行方不明ですが、「おむすびころりん、すっとんとん」のフレーズを何度も口ずさんでいたことだけはよく覚えています。

赤ちゃんだった頃の私たちはなぜオノマトペを好んだのでしょうか? そこにはどんな理由があるのでしょうか。

 


オノマトペとは?

 

オノマトペとは、擬声語や擬音語の総称です。
擬声語というのは、『おむすびころりん』における、ねずみたちの「ちゅーちゅー」、意地悪なまま母などの笑い声を表現するのに使われる「げらげら」など、動物の鳴き声や人間の声を真似た言葉です。
水滴が落ちる「ぽたぽた」、ドアを勢いよく閉める「ばたん」などは、物音を真似ているため擬音語と呼ばれています。
日本においてはこの二つに限らず、「てきぱき」と仕事を片付ける、「つるつる」となめらかな感触だ、などの状態を表す擬態語も含むケースが普通です。
参考資料:『賢治オノマトペの謎を解く』(著/田守育啓)

今回は擬声語・擬音語・擬態語全てをまとめてオノマトペと呼ぶこととしましょう。
オノマトペを全く使わずとも生活をすることは可能です。ですが、少し考えてみてください。遊園地のジェットコースターに乗った感想を誰かに伝える際に「ものすごくスリルがあって面白かった!」と言うより、「上るまでグラグラ揺れてドキドキしたけど、ビューって降りるときが爽快だった」と言った方がより表現の幅が広がって伝わりやすいと思いませんか?

外国語にもオノマトペは存在しますが、擬態語を含まないケースの方が多いようです。たくさんのオノマトペは日本語の持つ特色であり、ひいては文化の一つとも呼べます。

 


子どもはみんなオノマトペが大好き!

 

赤ちゃんたちがオノマトペを好む理由は、言葉を覚えていく過程に隠されています。
生後おおよそ7ヶ月ほど、赤ちゃんは喃語を喋っています。「あーあー」「ぶー」「だーだーだー」などといった、あまり意味の見て取れない言葉です。

生後9~10ヶ月ほどになると喃語が減り、身振り手振りをしたり「ママ」「パパ」などといった言葉を話せるようになります。この頃に最初に話した言葉は「初語」と呼ばれます。ちなみに、私の初語は「あめ(だめ)」でした。両親が先に教えていた言葉だったそうです。

そこから赤ちゃんは、大人が話している言葉のうち、聞き取りやすく簡単な言葉を覚えていきます。
大人向けのしゃべり方では、単語がどこにあるかわかりにくくあまり覚えてくれません。反対に発話が短く変化があり、目で見える形に合った音をしている言葉はすぐに覚えることができます。

この条件に合う言葉が、赤ちゃん言葉と擬音語・擬声語・擬態語……すなわち、オノマトペです。

赤ちゃんにも物の形と音の関連がわかるということは研究で明らかになっています。
ま行の単語では「丸いもの」、か行やぱ行においては「とがったもの」を連想するのだそうです。特にオノマトペの多くは聞こえる音や感覚を表現したものですから、赤ちゃんたちにとっても直感的でわかりやすく、そして覚えやすいのです。

1歳から2歳前後になった赤ちゃんは、覚えた単語一つで大人たちの会話と同じことを伝えようとします。
これは「一語期」と呼ばれています。例えば、突然子どもが「にゃあにゃあ(猫)」と言い出してどこかに手を伸ばしたら、私たちはその方向を見てどこに猫がいるか見ます。これだけで「あそこに猫がいるよ」と私たちにはわかります。たったこれだけでも通じ合うことができるなんて、とても素敵なことだと思いませんか?

場面一つをオノマトペで表し、自身の感情を表すことができるオノマトペは赤ちゃんにとって立派な言語のひとつです。自分の言いたいことが大人に伝わって嬉しい赤ちゃんは、もっと言葉を話したい、聞きたいと思うことでしょう。オノマトペを発語するとき嬉しそうにしている赤ちゃんたちは、学んでいく喜びを体いっぱいに表現しているのかもしれません。

 


オノマトペを使った絵本で赤ちゃんとの関わりを増やす

 

オノマトペを生かして、赤ちゃんとコミュニケーションを取りたい……そんなときにぴったりの楽しい絵本をいくつか紹介します!

『もこ もこもこ』

作/谷川 俊太郎
絵/元永 定正
定価/1430円(税込)
対象/赤ちゃんから
文研出版
1977年4月発行

『もこ もこもこ』のイラストは眺めているだけで想像力を掻き立てられます。地面からもこもこっと何かが飛び出し、隣ではにょきにょきと生える何か……ほぼ全てがオノマトペの絵本ですが、決して退屈なお話ではありません。「もこもこもこ」は表情豊かに、「ぷうっ」は一息に読みます。緩急やアクセントをつけて読めば、たちまち赤ちゃんは、盛り上がるものを見たら「もこもこ」、風船を見たら「ぷうっ」と喜ぶようになるでしょう。

 


『むにゃむにゃ きゃっきゃっ』

作/柳原 良平
定価/990円(税込)
対象/0歳から
こぐま社
2009年発行

こちらも本文は全てオノマトペです。かわいい模様のキャラクターたちが文字通り「ぷくぷく」と泡になって浮かんでいたり、「どすーん」と落下したり。一語期の赤ちゃんは、大人たちの言葉だけではなく身振りや顔の表情にも反応を示すようになります。目のついたキャラクターがオノマトぺを体現しているという点において、赤ちゃんにとっては魅力的な絵本といえます。

 


『ぽんぽんポコポコ』

作/長谷川 義史
定価/935円(税込)
対象/赤ちゃんから
金の星社
2007年1月発行

誰のお腹が「ぽんぽん」されているのか、赤ちゃんと一緒に考えてみる絵本です。ぽんぽんぽこぽこ、ぽんぽんぽこぽこ……と、赤ちゃんのお腹を「ぽんぽん」しながら読んでみましょう。答えの動物によって「ぽんぽん」の読み方を変えたりと楽しみ方は様々です。赤ちゃんと一緒に体を動かすような遊びがしたいという方に特におすすめします。

 


『ゆき ふふふ』

作/ひがし なおこ
絵/きうち たつろう
定価/880円(税込)
対象/0歳から
くもん出版
2010年10月発行

「きせつのおでかけえほん」シリーズの一つです。この絵本のテーマは「雪」。冷たい冬の雪遊びが美しいイラストと共に描かれています。雪がふわふわと降ってきてしゅわんしゅわんと溶けていく様子を繰り返し読めば、自然と子どもも雪を待ち遠しく思うに違いありません。私も久々に雪遊びをしてみようかという気持ちになりました。
シリーズのほかの作品もおすすめです!

 


『だるまさんが』

作/かがくい ひろし
定価/935円(税込)
対象/赤ちゃんから
ブロンズ新社
2008年1月発行

だるまさんが……と言えば、「転んだ!」ですよね。ですがこの絵本は違います。この絵本のだるまさん、転ぶだけではなく「ぷしゅー」、「ぷっ」などバリエーション豊かな動きをします。次はどんなだるまさんなのか赤ちゃんに聞いてみたりするのもいいかもしれません。どんなオノマトペを赤ちゃんが口に出すか楽しみですね。最後のページをめくれば大人も子どももみんな笑顔になることは間違いありません。詳しくはどうぞ実物の絵本を手にとってご覧ください。

 


『ぱたぱたえほん』


作・絵/miyauni
定価/1320円(税込)
対象/赤ちゃんから
エンブックス
2010年7月22日発行

エンブックスの新刊赤ちゃん絵本『ぱたぱたえほん』では、ページいっぱいのとりさんを「ぱたぱた」、ちょうちょさんを「ひらひら」させつつ、開いたり閉じたりして遊ぶことができます。おめめを「ぱちくり」するところで目をぱちぱちしてみたり、身振り手振りも交えて遊んでみましょう! 楽しい時間になることは間違いなしです。子どもたちが「赤ちゃん」でいる時期はあっと言う間です。今しかできない親子スキンシップを楽しんでみませんか?

 


執筆者/吉田 茜
淑徳大学 人文学部 表現学科3年
文芸表現コースを専攻。現在の研究テーマは「邦訳について」です。文章について学びたいという思いから表現学科のカリキュラムに惹かれ淑徳大学へと入学しました。レポートや論文などにおいて事前調査をまとめていく作業が最も楽しいと感じています。好きな絵本は『ミッケ!』シリーズ。

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絵本で親子のふれあいは増やせる?

 

エンブックスの新刊の赤ちゃん絵本は「親子がスキンシップしたくなる」をコンセプトに作られました。
絵本を通して、親子の心の距離を今よりもっと縮めてもらうのが狙いです。ページをめくるごとに、かわいらしい動物たちが「なでて、なでて」と繰り返し赤ちゃんに呼びかけます。

しかし、私はスキンシップを増やすためになぜ絵本を選んだのだろうと、疑問を感じました。
親子のふれあいを増やすのなら、一緒に手遊び歌をしたり、工作をしたり……もっと他に方法があるのではないか、と。
よりこの絵本を理解するために、淑徳大学短期大学部の子ども学科准教授、またご自身も幼稚園教諭の経験がある小薗江幸子先生にお話を伺いました。

 


interview
小薗江幸子 准教授
以前まで幼稚園に勤めており、現在は淑徳大学短期大学部にて保育士、幼稚園教諭を目指す学生を支えている。
専門分野:臨床発達心理学及び保育学子ども理解
担当科目:人間関係、教師論、教育心理学、保育課程論、実習指導Ⅱ


 


大切なのは、読み聞かせで「何を」育みたいのか

 

――まず、「なでてなでて」を読んでみた感想はいかがでしたか?

絵がさわりたくなる柔らかい色合いで、材質の感じがよく表れています。
また文章に無駄がなく、「なでてなでて」という繰り返しの呼びかけもシンプル。車を「ぶーぶー」と言ったり、赤ちゃんが物の状態を音に置き換えて結びつける段階が、ちょうど1歳半から2歳なんです。そういった意味も含めて、言葉の使い方がとても適切ですね。

 

――先生も幼稚園では大勢の子どもたちに絵本を読み聞かせていらっしゃったと思います。でもこの「なでてなでて」はお父さん、あるいはお母さんと赤ちゃんの一対一で読む絵本ですよね。

そうですね。幼稚園での読み聞かせは友だちと大勢でイメージを共有する、という楽しさがありますが、一対一の絵本は距離の近さがポイントになると思います。お母さんのひざの上で、自分に直接読んでくれている。それが赤ちゃんたちは嬉しいのではないでしょうか。

 

――この絵本は「親子でスキンシップしたくなる」をコンセプトに作られています。親子の絆やつながりを深めるために、やはり絵本は重要なのでしょうか?

絵本を読み聞かせすることで、話しかけられて嬉しい、お母さんの声が聞けて気持ちいいとか、赤ちゃんが得られるものはたくさんあると思います。ですがそれだけでなく、読み聞かせをすることでどの部分を育みたいのかということが大切なんですね。
本があればいいというわけではないと思います。その点、この「なでてなでて」はコンセプトにぴったり合っていますね。
ただ読んでいて楽しいだけでなく、言葉のリズムの心地よさやふれあう喜びなど、より本質的な内容に仕上がっているという印象を持ちました。

 


『なでてなでて』は親子のふれあいを増やしてくれる

 

2人で味わえる感動、言葉のリズムの心地よさ、ふれあう喜び。
これらの要素は絵本の読み聞かせでしか得られないものです。お父さん、お母さんの膝の上で同じものを見て、触れて、気持ちを共有する。絵本が赤ちゃんたちにとって大切なものになるように、本を読んで一緒に過ごした時間が宝物になるかもしれません。

よく見てみると文章や言葉だけでなく、見開きのページが実にこだわって描かれているのが分かります。
例えば、ねことハリネズミを見比べてみると、先生のおっしゃった通りそれぞれの質感がリアルに伝わってきますが、それだけではありません。「ふわふわ」と「ちくちく」、どちらの文字も手描きで、しかも異なるフォントで描かれています。「ふわふわ」はあたたかみのある丸い文字。「ちくちく」はとがったような四角い文字。字が読めない赤ちゃんでも、文字の雰囲気や印象から、動物たちのさわった感触が想像できるのではないでしょうか。

他にもなでるときの手の形が違うなど、いろんな発見があるかもしれません。ぜひ赤ちゃんの反応を見ながら、一緒に探してみてください。
読んで楽しむだけでなく、「なでてなでて」は心の距離をぐっと縮めてくれる絵本です。絵本を通して、家族と過ごす時間がより素敵なものになってほしいと思います。

 


執筆者/田中 夏未
淑徳大学 人文学部 表現学科3年
文芸表現コースを専攻。研究テーマは「悲話の持つ要素は何か」です。作家か声優を目指し「文芸表現コース」「放送表現コース」がある淑徳大学に入学。授業を通して作られた役を演じるより、自分で一から物語を描く楽しさを再認識しています。好きな絵本は『ルリユールおじさん』。


『なでてなでて』


え/日隈 みさき
ぶん/西川 季岐
定価/1320円(税込)
対象/赤ちゃんから
2017年10月20日発行

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赤ちゃんの声で完成した「親子がスキンシップしたくなる」絵本

 

ある程度のラフが固まって「こども編集部員(*)」にレポートを協力してもらったあと、日隈さんと相談して2つの修正をしました。

  • 気づき① 赤ちゃんに「知識」を必要とするネタは伝わらない
  • 気づき② 赤ちゃんが動物を「なでる」反応が見られたので確実にしたい

①については、「鳥とたまご」が登場するシーンでのことです。
親鳥からたまごを「なでて」と声がけがあり、ページをめくるとたまごから雛がかえるという、少し変化を効かせたアイデアですが、こうした生態をまだ知らない赤ちゃんにとっては理解の難しいシーンになっていました。

さらに「つるつる」という感触も描かれているので、展開としても「なでる」「つるつる」「うまれたよ」の3段オチ。まさに赤ちゃんから教えてもらって、思いきってこのシーンは、ばっさりカットすることに決めました。

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▲意外性のある「たまご」をおもしろがれるのは大人だから。赤ちゃんにとっては難しかったのでカット

②については、各動物が登場する見開きにも「手」を描き加えてみようと考えました。
耳からだけではなく、視覚的にも「なでて」と示すことで、赤ちゃんはスムーズに反応しやすくなったと思います。

また、めくったときの「手」は、それぞれの感触に対して微妙に動きを変えました。
つまり「手が語る」ことによって、シーンが格段に豊かになりました。

こうして地道に検証を繰り返し、各ページで親子がどんな気持ちで楽しんでくれるのかを注意深くシミュレーションしながら、最終的にセレクトされた5種類の動物は、「感触のバリエーション」と「愛らしいキャラクター性」と「目新しさ」と「身近と意外のバランス」を見事に満たしてくれたと思います。


▲「とり」に代わって登場する「トイプードル」は感触だけでなく時代性も考慮して。「手」が効果的になった

反射的に触りたくなるものから、(現実ならば)触るのをためらってしまうものまで、ページをめくって展開していくごとに好奇心がくすぐられ、そして最後には、掲げてきたコンセプト通り「親子がスキンシップしたくなる」仕掛けによって、すべての親子が笑顔で絵本を閉じてくれると信じています。(おしまい)

(*)制作過程の絵本を対象年齢の子どもに実際に読んで聞かせる取り組み。これまで50名以上が協力

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絵本を開いた親子がぱたぱた遊びをしたくなる11のモチーフ探し

 

miyauni(みやうに)さんのアイデアは、11見開きを「ちょうちょ」だけで貫いて展開するものでしたが、僕はいろんな「ぱたぱたする」ものを見てみたいと思いました。

次に、みやうにさんが持ってきてくれたアイデアは、「ちょうちょ」の他に「とり」や「ぞうの大きな耳」など5つのパターンを、1.2のリズムでまとめたものでした。
「ちょ ちょ ちょうちょが」でページをめくって「ふんわ ふんわ」という構成です。なおさら、僕はもっといろんな「ぱたぱたする」ものを見てみたいと思いました。

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ちょうちょ__ページ_03
▲1.2のリズムで展開した初期のアイデア。2見開き目で絵本をぱたぱたさせて読む。

それで、日隈さんとの創作と同じく、やはりモチーフ出しからはじめることにしました。

本ならではの「開いて閉じる」構造に基づいて考えていくと 、「ちょうちょ」のように本を180°開いて「ぱたぱたする」もの以外にも、例えば開く角度を変えてみたらどうか、あるいは縦横の視点を変えてみたらどうかと、ネタの幅がぐっと広がりました。

例えば、見開きの左右に「シンバル」を描いて「シャンシャンする」のは実に良いアイデアです。本の構造をうまく利用しつつ、それでいて「ちょうちょ」とは違う「手遊び」を提案してくれるものでした(といいつつ、最終的にボツにした)。

他にも、「魚」が1匹ページにまたがっていてピチピチ動かしてみせるものや、左右の「石」をぶつけるようにカチカチするものなど、おもしろいネタが次々に出てきたので、これなら1.1.1……のリズムで11パターン見せる展開にできるし、そのほうが絶対に親子で楽しめると確信しました。

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▲結果的に不採用になった「魚」だが、とにかくいろんなアイデアを出しては実際にぱたぱたして試した

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▲こちらは採用になった「ぞう」の初期デザイン。「魚」と比べると読者に何をして欲しいのかが明らか

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「読んであげる」に「手遊び」を足したら新しい絵本に

 

日隈さんが絵描きに対して、miyauni(みやうに)さんはデザイナーです。
実は、赤ちゃん絵本作家でいうと、『はらぺこあおむし』のエリック・カールや、「ミッフィー」シリーズのディック・ブルーナは、優れたグラフィックデザイナーでもあります。

赤ちゃんにとって最適な情報量は、大人よりもはるかに少ないので、けずってけずって単純化することが得意なデザイナーは、赤ちゃん絵本作家に向いているんですよね。

「親子で一緒に楽しめる」というテーマに対して、みやうにさんが最初に持ってきてくれたアイデアは「なぞって楽しむ絵本」と「パタパタする絵本」のふたつでした。

ページをめくって、パタパタする。
またページをめくって、パタパタする。

内容だけではなく、本ならではのカタチそのものを楽しもうというアイデアは、今までありそうでなかったものです。
なるほど、「読んであげる」に「手遊び」が加わって、全く新しい絵本体験ができると思いました。絶対に電子化できないというのも魅力的です。うん、こっちでやりましょう、と。

最初にいただいたラフには、見開きに大きな「ちょうちょ」が描いてありました。
これにどんな仕掛けをすれば、読者が実際に「パタパタする」絵本になるか。

それを実現するのは、簡単なことじゃないですよ。
でも、難問に挑むのはキライじゃありません。

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▲見開きに大きく描かれたシンプルで美しい「ちょうちょ」

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▲最初のラフでは「ちょうちょ」だけで11見開きを貫くアイデアだった

 


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実際に親子が触れ合うシーンを想像して

 

「なでて」という声掛けで、赤ちゃんがどれくらい反応してくれるかを検討していたとき、手に取った絵本『くだもの』(さく/平山和子 福音館書店)の見開きに「これだ!」という答えがありました。

『くだもの』では、まるで本物と見間違うような美しいりんごが描いてあって、ページをめくると「さあ どうぞ。」の声掛けとともに、カットされたりんごを差し出されます。
ポイントは、その「さあ どうぞ。」に描き添えられた「手」です。

手があることで、赤ちゃんも思わず自分の手を伸ばします。見開きにカットされたすいかの静物画だけでは、おそらくこういうコミュニケーションは生まれないんですよね。

それに気が付いて、今作の見開きにも手を入れてみたら、「なでて」の声掛けが、とたんに活き活きと聞こえてきます。
絵本の中の動物たちとコミュニケーションできるようになりました。

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▲導入は身近なねこが登場(スケッチ)。正面性を意識した構図と耳ざわりのいい言葉で惹きつける

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▲赤ちゃんの手を描き添えたことで反応しやすく。位置や大きさを検討しながらスケッチを繰り返す

絵本の仮タイトルは『なでて なでて』です。
仮とはいえ、ほとんど確定です。それは、この絵本を通じて実現したいことが「実際に親子が触れ合うきっかけをつくる」ことだから。
単にいろんな動物の感触が楽しい絵本なら、例えば『ふわふわ』といったタイトルでも良いんですよね。

でも、今作のゴールはもっと先にある親子の触れ合いです。
ページをめくったときの親子のシーンを想像しながら、そこにたどり着くように作品を磨いているところです。

今作は、閉じた後が「山場」ともいえますよ。

 


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