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2020年からの目標として、具体的に計画しているのは年間出版点数を増やすことです。

絵本の出版社でいうと、だいたい年間60点ほどの出版をしているところが多いのですが、それに対してエンブックスは年間でわずか3点(少ないw)。
作りたい絵本のアイデアはいくらでも湧いてきますが、それでも実際に作家さんと創作をご一緒して本が出来上がるまではざっと1年の期間を費やすので、無理なく同時進行できるのがこれくらい。

例えば年間12点を作るとすると、いよいよメンバーの協力が必要不可欠になってきますが、その足がかりとして1月から山本直美さんに顧問をしていただくことになりました。

既刊『ねえねえあーそぼ』では作家として絵本づくりに関わっていただきましたが、そもそもはNPO法人「子育て学協会」の会長であり、幼児教育や保育園の運営を手がける株式会社アイ・エス・シーの代表でもいらっしゃいます。まさに子育てのプロ。

僕の古巣、株式会社リクルートの事業所内保育施設をプロデュースをされていたことからご縁がありまして、ありがたい関係をさらに強めていけたらと思っています。
そして、エンブックスが掲げている「親子の時間をつくる」大きなテーマの実現に向けて、勢いをつけてがんばります。

エンブックスを立ち上げたとき、“自分よりも圧倒的にすごい人に仲間になってもらう”って決めてた。

 


1月29日には新刊『こちょこちょこちょ』が出版されました。既刊『なでてなでて』が好評の日隈みさきさん作です。2020年の幕開けにふさわしい、明るく笑える赤ちゃん絵本になっているのでぜひ手にとって親子で大笑いしてもらえたらうれしいです。

「子育て学協会」とのコラボ絵本『ねえねえあーそぼ』(絵/山本美希)に続くシリーズ第二弾も、間もなく発表できると思います。昨年の秋頃に「遅くとも年内に出版する!」と宣言していましたが、春先の出版を予定して進行しています。こちらも今しばらく楽しみにお待ちいただけたらうれしいです。

 


おまけで、山本美希さんの連載漫画『かしこくて勇気ある子ども』がおもしろいのでぜひ。「まだ見ぬ我が子と自分たちの未来に、たくさんの期待と不安を抱える若い夫婦を描いた全六話」です。現在、第四話まで公開中!

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『てぶくろ』

絵/エウゲーニー・M・ラチョフ
訳/内田 莉莎子
定価/1100円(税込)
対象/3歳から
福音館書店
1965年11月1日発行

 


この時期になると、読みたくなる1冊です。好きな絵本ベスト10に入る作品。
『よあけ』と同じで、これも絵本じゃないと味わえない魅力があります。

おじいさんが森の中に手袋を片方落としてしまいます。雪の上に落ちていた手袋にネズミが住みこみました。そこへ、カエルやウサギやキツネが次つぎやってきて、「わたしもいれて」「ぼくもいれて」と仲間入り。手袋はその度に少しずつ大きくなっていき、今にもはじけそう……。最後には大きなクマまでやって来ましたよ。手袋の中はもう満員! そこにおじいさんが手袋を探しにもどってきました。さあ、いったいどうなるのでしょうか?

活字だけを頼りに、てぶくろに動物が次々に入っていくシーンを具体的に想像することは簡単なことではありません。
ラチョフの絵は「入るはずのない」ファンタジーを、実に自然に見せてくれ、読者を物語の世界へ誘ってくれます。

最初に登場するのはねずみ。小さなねずみならてぶくろにすっぽり収まって、温かく暮らす様子に違和感はありません。この導入がうまい。

次にかえる。かえるだって小さいのでてぶくろに入るでしょう。でもよく見ると、もうラチョフは絵に仕掛けをつくりはじめているんですね。てぶくろに「はしご」がかかっています。

次のうさぎがやってくる時には、読者は「てぶくろ=お家」でページをめくっているはず。そのイメージチェンジの滑らかなこと!

玄関ができ、窓が開き、変化していく「お家」に、きつね、いのしし、おおかみと大型動物たちも、ぎゅうぎゅうと肩を寄せ合う姿が微笑ましい。

どれくらいの時間が経ったのか、オチではおじいさんが戻ってきて、ファンタジーの世界からきちんと現実の世界に戻してくれる。それも見事。子どもたちは安心してこの物語を閉じることができるのです。

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『あかですよ あおですよ』

作/かこ さとし
定価/990円(税込)
対象/2歳から
福音館書店
2017年2月5日発行

 


かこさんの絵はうまくない。
うまくないけれど、これほど魅力的な絵を描く作家は他にいないと思います。

『だるまちゃんとてんぐちゃん』にたくさんのぼうしが見開きいっぱいに描かれた場面がありますが、ひとつとしてウソがない。

ともすれば、ぼうし“らしい”ものを描いて済ませるところを、子どもが手にとるからこそ、どれもちゃんと調べて丁寧に描かれています。僕も子ども心に「説得力」を感じていたのか、大好きな場面だったなあ。

『あかですよ あおですよ』でも、何気なく背景に描かれたサンゴや海藻の確かさと言ったら、まさにかこさとしワールドここにあり。

ここは海の中。たこたこ学校の生徒たちは、たこ先生と一緒に絵の勉強です。たこ先生が「はじめは、あかですよー」と言うと、みんなはりんご、いちご、トマトなど赤い絵を描きました。喜んだ先生は子どもたちをほめ、子どもたちは紫、青、緑、黄色……と、次々といろいろな色の絵を描いていきます。最後のお題は「黒」。おやおや、面白いもので黒い絵を描いている子がいますよ……。思いもかけない形で学校はおしまい!

モノの名前をおぼえはじめる段階の子どもにとっては、指さし会話も広がりそうな優しい展開です。

大人はさらっと絵を流し見してしまいそうですが、子どもは生徒の「ろくちゃん」が車の絵ばかり描いていることに気がつくと思います。赤い車、紫の車、青い車……ろくちゃん、ずるい! と注目を集めたところで、これがしっかりオチに効いてくるというフリがお見事。

平和な世界の何でもないお話が好き。

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『しろくまのパンツ』

文・絵/tupera tupera
定価/1540円(税込)
対象/幼児から
ブロンズ新社
2012年9月発行

 


パンツをなくしちゃったしろくまさんと、それをしんぱいして一緒に探してあげるというねずみさんのやりとり。かわいい導入だなあ、とめくってみると、そこにドーンとタイトルがあって“はじまり はじまり”となるこの演出の巧さ。やられました。

「どこにいったんだろう?」 パンツをなくしてこまっているしろくまさん。そこへ、心配したねずみさんがやってきて、いっしょにパンツをさがしにいくことに。しましまのパンツ、かわいい花がらのパンツ、へんてこりんな水たまのパンツ……物語のラストには、あっとおどろく発見が!

紙がいろんな「パンツ型」に切り抜かれた仕掛け絵本です。
「だれのパンツ?」という問いに、親子で答えを考えるのは楽しい時間です。tupera tuperaさんの描くユーモラスなキャラクターたちの登場も、毎ページ待ち遠しい。

オチも最高。ページをめくってよく見てみると、なるほどそういうことか! こうやって、ページを戻ることができるのも本ならではの魅力です。

縦長の版型もこの絵本の特徴で、表紙のしろくまさんは赤いパンツを履いています。これが「帯」になっていて、読むときに脱がせるのですが、全体に貫かれたtupera tuperaさんのデザインが見事。遊びと機能が実現したすばらしい作品だと思います。

奥付には「替えパンツのご案内」まであって抜かりない。子どもだけじゃなく親の心もくすぐられる1冊。

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『かもさん おとおり』

文・絵/ロバート・マックロスキー
訳/渡辺 茂男
定価/1430円(税込)
対象/5、6歳から
福音館書店
1965年5月1日発行

 


『かもさん おとおり』がアメリカで出版された当時、ボストンに住んでいた子どもたちは、この絵本をどんなに楽しんだかを想像してうらやましく思います。

もちろん、この絵本が大好きな読者は日本にもたくさんいます。けれども、そのときチャールズ川の近くで実際に暮らしていた子どもたちの「好き」は、比べものにならないほど大きなものだったでしょう。

いつも遊びに行く公園のなじみの風景を舞台にして、物語がはじまる。うらやましいなあ!

かもの一家が、川から公園へ引越しです。かもたちは1列になって町の中を歩き出しました。さあ、たいへん! おまわりさんは自動車をとめて交通整理。パトカーまで出動です。

絵本というとなぜかファンタジーを思い浮かべる人は少なくありませんが、多くの優れた絵本は、なんてことのない日常を描いています。優れた絵本作家は、地に足をつけて子どもの目線で日常に楽しみを見つける天才です。

ボストンの人たちにとって、かもさん親子の引っ越しは特別なことではありません。でも、マックロスキーは「特別なこと」に気づきます。それは、かもさんの視点になってみること。

親子の愛も、サスペンス(ハラハラさせる感じ)もあるドラマチックな物語はこうして誕生し、今でもたくさんの子どもたちに読み継がれています。

自分の足元に転がっている種こそ宝。

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『あし にょきにょき』

作/深見 春夫
定価/1320円(税込)
対象/幼児から
岩崎書店
1980年10月20日発行

 


僕がまだ幼稚園の年少クラスだったとき、1冊の絵本に夢中になったことがありました。
たしか、教室の本棚にあったものです。

ふとした拍子に、その絵本の記憶がよみがえってきたのですが、どうしてもそのタイトルが出てきません。
足がのびていくお話だったような……、途中、豆がでてきたような……、町全体を俯瞰でとらえたシーンがあったような……。
手がかりのなかまま、やがてまた断片的な記憶は霧の中へ。

大きなそら豆を食べたおじさんの左足が、どういうわけか、にょきにょきのびだし、家の外ヘ。林をぬけ、森をぬけ、街までのびて……。

偶然、新宿の書店で『あし にょきにょき』の表紙を見つけたとき、「これだ!」と思いました。
久しぶりに手に取って開いてみると、間違いない。実にナンセンスで奇妙なお話です。

「どんどこ どんどこ」と軽快なリズムで足が伸びていくシーンを繰り返していくところで、はっきりしました。僕はこの楽しさをカラダで覚えていたんだなあ。愉快です。

懐かしい再会によって、改めて絵本の力を知ることになりました。

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『よあけ』

作/ユリー・シュルヴィッツ
訳/瀬田 貞二
定価/1320円(税込)
対象/4歳から
福音館書店
1977年6月25日発行

 


翻訳家でJBBY(日本国際児童図書評議会)会長でもいらっしゃるさくまゆみこさんが、「ユリ・シュルヴィッツの絵本論」というテーマで、こじんまりと勉強会を開催してくださいました。

僕がシュルヴィッツの『よあけ』をはじめて手にしたのは大人になってから。とはいえもう20年近く前のことです。

物語の後半、「そのとき」で一呼吸を置いてページをめくると、「やまとみずうみが みどりになった。」とまぶしいほど鮮やかに夜が明けるシーン。はじめて読んだときは本気で震えました。

山に囲まれた湖の畔、暗く静かな夜明け前。おじいさんと孫が眠っています。沈みかけた丸い月は湖面にうつり、そよ風の立てるさざ波にゆらめきます。やがて水面にもやが立ち、カエルのとびこむ音、鳥が鳴きかわす声が聞こえるようになると、おじいさんは孫を起こします。夜中から薄明、そして朝へ……。刻々と変わっていく夜明けのうつろいゆく風景を、やわらかな色調で描きだします。

この感動は本じゃないと味わえない種類のものです。
実際の夜明け、あるいは映像で描くとすると、暗いところから明るいところへじわじわとグラデーションがかかっていきます。明るいところへ向かう心の準備ができるんですね。

ところがこの作品の場合、めくった瞬間に「あけた!」と驚かされる。それは感動的なよろこびなのです。
もちろん「時間」は読者の想像の中で流れているわけですが、目に入ってくる変化の大きさは、本だからこそできる演出だと思います。

さくまさんに、この『よあけ』の絵コンテをみせてもらいました。創作の初期段階で画面構成がほとんど決まっていたことは衝撃でした。編集者としては突っ込みどころのない絵コンテ。シュルヴィッツは最初から読者の感動をイメージできていたということです。

僕の人生のターニングポイントになった思い出の1冊。

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『しずくのぼうけん』

文/マリア・テルリコフスカ
絵/ボフダン・ブテンコ
訳/内田 莉莎子
定価/990円(税込)
対象/4歳から
福音館書店
1969年8月10日発行

 


かがく絵本に注目しています。

フランスの文学史家ポール・アザールは「子どもの心を押しつぶしてしまうほどたくさんの材料をつめこむ本ではなく、心の中に一粒の種子をまいて、それを内側から育てるような知識の本を好む」と、『本・子ども・大人』の中で記しています。

何かやりたいなあ、と「一粒の種子」を探し中。

『しずくのぼうけん』はかがく絵本でありながら、ミリオンセラーを突破した稀有な作品です。うまく考えないと、とたんにお勉強くさくなってしまう「かがく」を見事に楽しい絵本にしあげています。

バケツからぴしゃんと飛び出した水のしずくは冒険の旅へ。お日さまにぎらぎら照らされて水蒸気になったかと思ったら、空にのぼって雲のところへ……。今度は雨になって地上に逆戻り。地上では岩のあいだにはさまって、寒い夜に氷になったかと思えば、朝のお日さまに温められて再びしずくなって、川へと流れ出します。

「しずく」を擬人化して主人公にしたこと。そして、物語に仕立てたこと。この工夫で、読者の子どもは「水の不思議」をおもしろがって体感することができるんですよね。50年前の作品ですが鮮度は変わらず。

見開きの片面ずつ、全部で23場面の大冒険です。子どもの絵本としては場面数は多いのですが、すいすい読める調子の良い文体もすばらしい。それもそのはず、内田莉莎子さんは『てぶくろ』や『おおきなかぶ』も手掛けている翻訳者だもの。

こんな絵本をつくりたい!

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