幼児向け

『りんごかもしれない』

作/ヨシタケ シンスケ
定価/1540円(税込)
対象/幼児から
ブロンズ新社
2013年4月発行

 


「なんでママはママなの?」
「なんでワンワンはワンワンなの?」

もうすぐ3歳の長女は今「なんでなんで期」真っ最中である。
あらゆるものに対して疑問が湧き上がるようで、私は日に何十回と質問攻めに遭っている。

最近、そんな彼女にぴったりの絵本を購入した。
ヨシタケシンスケさんの『りんごかもしれない』だ。

テーブルの上にりんごがおいてあった。……でも、……もしかしたら、これはりんごじゃないかもしれない。もしかしたら、大きなサクランボのいちぶかもしれないし、心があるのかもしれない。実は、宇宙から落ちてきた小さな星なのかもしれない……「かんがえる」ことを果てしなく楽しめる、発想絵本。

りんご一つでここまで思いつくのかと、子どものとんでもない想像力にびっくりする。加えて、とぼけた感じのヨシタケシンスケさんの絵が、ページの隅から隅までぎっしり詰まっているので、どこを見ても楽しくなってしまう。

しかし、ここで一つ想定外なことがあった。長女は絵本を気に入ってくれたのだが、「なんでなんで?」が今まで以上に加速してしまったのだ。

「このりんご、本当は〇〇かもしれない……」と読めばすかさず、「なんで?!」が飛んできて全く進まない。
文字数はそれほど多くない絵本なのに、読み終わるまで20分はかかっていると思う。

だがこの絵本を読んで、子どもは大人が思っている以上に、いつもたくさんの疑問の渦の中にいるのだと知った。
まだ言葉もつたない娘にとっては、その疑問を言葉に表すのだって成長の証なのだ。

ヨシタケシンスケさんはあるインタビュー記事の中で、「自分が子どもの頃に感じたり悩んでいたことを、絵本にたくさん詰め込みたい」と語っていた。

「なんでなんで?」にはちょっとウンザリしているのが本音だが、長女がなんでと思ったことを大切にしてあげたいとも思う。

仕方ない、とことん付き合ってやるしかないようだ。

うーん、やっぱり毎日は疲れるかもしれない。でも、それもまた幸せなのかもしれない。

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『どうぞのいす』

作/香山 美子
絵/柿本 幸造
定価/1100円(税込)
対象/3歳から
ひさかたチャイルド
1981年11月1日発行

 


『どうぞのいす』という絵本をご存知だろうか。

「どうぞのいす」にやってくる動物達が、手持ちの食べ物と交換したりお裾分けしたりしていくお話である。

うさぎさんが作った椅子をめぐって次々に繰りひろげられる取りかえっこ。「どうぞ」にこめられたやさしさが伝わってくるロングセラー絵本。

ほんわかしたタッチの絵柄だが、読み応えはしっかりある方だと思う。動物の絵本が大好きな長女はもちろん気に入ってくれた。

しかし、今回はそれだけではない。絵本を読んでから、長女にとても嬉しい変化があった。

頑固な長女が、お友達に「どうぞ」と言えるようになったのだ。

いつもお友達に「おもちゃを貸して」と言われても絶対渡さず、ワーッと泣いて抵抗する長女。3歳を目前に悩みのタネだった。

ところが、絵本を読んだ次の日から、「どーぞ!」と大きな声で言えるようになったではないか。

私がいくら注意しても言えなかった「どうぞ」。
単に絵本のウサギの真似をしているだけかもしれないが、この絵本は、どうしても自分の気持ち優先になりやすい3歳にもしっかり響いてくれたのだ。

たとえ真似であっても、優しい気持ちは連鎖して伝わるもの。
彼女のこれからのお友達関係に、良い影響を及ぼしてくれそうなことは間違いない。

つくづく絵本の力を思い知らされた一冊だ。

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『おもちのきもち』

作/かがくい ひろし
定価/1650円(税込)
対象/幼児から
講談社
2005年12月17日発行

 


我が家の近くに大きな児童館がある。そこにはたくさん絵本が置いてあり、絵本好きの長女がとても気に入っている。

児童館に行くと彼女はだいたいいつも同じ絵本を読むのだが、今日は見たことのない絵本を持ってきた。
タイトルは『おもちのきもち』。「だるまさんシリーズ」で有名なかがくいひろしさんの絵本だ。絵本作家デビューのきっかけになった本らしい。
季節はちょうど、もうすぐお正月。さっそく長女を膝にのせて絵本を読んでみた。

面白い!

第27回講談社絵本新人賞受賞作。おもちだって、いろいろなやみがあるんです。きょうだいたちは、にんげんにたべられてしまうし……。そこでわたくし「かがみもち」は、お正月、とある決心をしました! びっくり、めでたい、驚愕の「おもちワールド」へ出発。

まず、主人公のお餅(正確には鏡餅)がなんとも憎めない。なんと「食べられるのが怖い」と、ペッタンペッタン逃げ出してしまうのだ。お餅たちはこんなことを考えていたのか、と笑ってしまう。最後のオチも衝撃的だ。心の底から「そうきたか」と思った。

私は一気にかがくいワールドに引き込まれた。長女も楽しそうに「おもち歩いてる!」と笑っている。

今年のお正月はこの絵本を持って帰省してみようか。長女はきっと、じいじばあばと一緒にこの絵本を見て、お餅を食べて笑っているだろう。
お正月の家族団らんがよく似合う、とてもあたたかい気持ちにさせてくれる絵本だ。

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『てぶくろ』

絵/エウゲーニー・M・ラチョフ
訳/内田 莉莎子
定価/1100円(税込)
対象/3歳から
福音館書店
1965年11月1日発行

 


この時期になると、読みたくなる1冊です。好きな絵本ベスト10に入る作品。
『よあけ』と同じで、これも絵本じゃないと味わえない魅力があります。

おじいさんが森の中に手袋を片方落としてしまいます。雪の上に落ちていた手袋にネズミが住みこみました。そこへ、カエルやウサギやキツネが次つぎやってきて、「わたしもいれて」「ぼくもいれて」と仲間入り。手袋はその度に少しずつ大きくなっていき、今にもはじけそう……。最後には大きなクマまでやって来ましたよ。手袋の中はもう満員! そこにおじいさんが手袋を探しにもどってきました。さあ、いったいどうなるのでしょうか?

活字だけを頼りに、てぶくろに動物が次々に入っていくシーンを具体的に想像することは簡単なことではありません。
ラチョフの絵は「入るはずのない」ファンタジーを、実に自然に見せてくれ、読者を物語の世界へ誘ってくれます。

最初に登場するのはねずみ。小さなねずみならてぶくろにすっぽり収まって、温かく暮らす様子に違和感はありません。この導入がうまい。

次にかえる。かえるだって小さいのでてぶくろに入るでしょう。でもよく見ると、もうラチョフは絵に仕掛けをつくりはじめているんですね。てぶくろに「はしご」がかかっています。

次のうさぎがやってくる時には、読者は「てぶくろ=お家」でページをめくっているはず。そのイメージチェンジの滑らかなこと!

玄関ができ、窓が開き、変化していく「お家」に、きつね、いのしし、おおかみと大型動物たちも、ぎゅうぎゅうと肩を寄せ合う姿が微笑ましい。

どれくらいの時間が経ったのか、オチではおじいさんが戻ってきて、ファンタジーの世界からきちんと現実の世界に戻してくれる。それも見事。子どもたちは安心してこの物語を閉じることができるのです。

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『あかですよ あおですよ』

作/かこ さとし
定価/990円(税込)
対象/2歳から
福音館書店
2017年2月5日発行

 


かこさんの絵はうまくない。
うまくないけれど、これほど魅力的な絵を描く作家は他にいないと思います。

『だるまちゃんとてんぐちゃん』にたくさんのぼうしが見開きいっぱいに描かれた場面がありますが、ひとつとしてウソがない。

ともすれば、ぼうし“らしい”ものを描いて済ませるところを、子どもが手にとるからこそ、どれもちゃんと調べて丁寧に描かれています。僕も子ども心に「説得力」を感じていたのか、大好きな場面だったなあ。

『あかですよ あおですよ』でも、何気なく背景に描かれたサンゴや海藻の確かさと言ったら、まさにかこさとしワールドここにあり。

ここは海の中。たこたこ学校の生徒たちは、たこ先生と一緒に絵の勉強です。たこ先生が「はじめは、あかですよー」と言うと、みんなはりんご、いちご、トマトなど赤い絵を描きました。喜んだ先生は子どもたちをほめ、子どもたちは紫、青、緑、黄色……と、次々といろいろな色の絵を描いていきます。最後のお題は「黒」。おやおや、面白いもので黒い絵を描いている子がいますよ……。思いもかけない形で学校はおしまい!

モノの名前をおぼえはじめる段階の子どもにとっては、指さし会話も広がりそうな優しい展開です。

大人はさらっと絵を流し見してしまいそうですが、子どもは生徒の「ろくちゃん」が車の絵ばかり描いていることに気がつくと思います。赤い車、紫の車、青い車……ろくちゃん、ずるい! と注目を集めたところで、これがしっかりオチに効いてくるというフリがお見事。

平和な世界の何でもないお話が好き。

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『しろくまのパンツ』

文・絵/tupera tupera
定価/1540円(税込)
対象/幼児から
ブロンズ新社
2012年9月発行

 


パンツをなくしちゃったしろくまさんと、それをしんぱいして一緒に探してあげるというねずみさんのやりとり。かわいい導入だなあ、とめくってみると、そこにドーンとタイトルがあって“はじまり はじまり”となるこの演出の巧さ。やられました。

「どこにいったんだろう?」 パンツをなくしてこまっているしろくまさん。そこへ、心配したねずみさんがやってきて、いっしょにパンツをさがしにいくことに。しましまのパンツ、かわいい花がらのパンツ、へんてこりんな水たまのパンツ……物語のラストには、あっとおどろく発見が!

紙がいろんな「パンツ型」に切り抜かれた仕掛け絵本です。
「だれのパンツ?」という問いに、親子で答えを考えるのは楽しい時間です。tupera tuperaさんの描くユーモラスなキャラクターたちの登場も、毎ページ待ち遠しい。

オチも最高。ページをめくってよく見てみると、なるほどそういうことか! こうやって、ページを戻ることができるのも本ならではの魅力です。

縦長の版型もこの絵本の特徴で、表紙のしろくまさんは赤いパンツを履いています。これが「帯」になっていて、読むときに脱がせるのですが、全体に貫かれたtupera tuperaさんのデザインが見事。遊びと機能が実現したすばらしい作品だと思います。

奥付には「替えパンツのご案内」まであって抜かりない。子どもだけじゃなく親の心もくすぐられる1冊。

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『かもさん おとおり』

文・絵/ロバート・マックロスキー
訳/渡辺 茂男
定価/1430円(税込)
対象/5、6歳から
福音館書店
1965年5月1日発行

 


『かもさん おとおり』がアメリカで出版された当時、ボストンに住んでいた子どもたちは、この絵本をどんなに楽しんだかを想像してうらやましく思います。

もちろん、この絵本が大好きな読者は日本にもたくさんいます。けれども、そのときチャールズ川の近くで実際に暮らしていた子どもたちの「好き」は、比べものにならないほど大きなものだったでしょう。

いつも遊びに行く公園のなじみの風景を舞台にして、物語がはじまる。うらやましいなあ!

かもの一家が、川から公園へ引越しです。かもたちは1列になって町の中を歩き出しました。さあ、たいへん! おまわりさんは自動車をとめて交通整理。パトカーまで出動です。

絵本というとなぜかファンタジーを思い浮かべる人は少なくありませんが、多くの優れた絵本は、なんてことのない日常を描いています。優れた絵本作家は、地に足をつけて子どもの目線で日常に楽しみを見つける天才です。

ボストンの人たちにとって、かもさん親子の引っ越しは特別なことではありません。でも、マックロスキーは「特別なこと」に気づきます。それは、かもさんの視点になってみること。

親子の愛も、サスペンス(ハラハラさせる感じ)もあるドラマチックな物語はこうして誕生し、今でもたくさんの子どもたちに読み継がれています。

自分の足元に転がっている種こそ宝。

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『あし にょきにょき』

作/深見 春夫
定価/1320円(税込)
対象/幼児から
岩崎書店
1980年10月20日発行

 


僕がまだ幼稚園の年少クラスだったとき、1冊の絵本に夢中になったことがありました。
たしか、教室の本棚にあったものです。

ふとした拍子に、その絵本の記憶がよみがえってきたのですが、どうしてもそのタイトルが出てきません。
足がのびていくお話だったような……、途中、豆がでてきたような……、町全体を俯瞰でとらえたシーンがあったような……。
手がかりのなかまま、やがてまた断片的な記憶は霧の中へ。

大きなそら豆を食べたおじさんの左足が、どういうわけか、にょきにょきのびだし、家の外ヘ。林をぬけ、森をぬけ、街までのびて……。

偶然、新宿の書店で『あし にょきにょき』の表紙を見つけたとき、「これだ!」と思いました。
久しぶりに手に取って開いてみると、間違いない。実にナンセンスで奇妙なお話です。

「どんどこ どんどこ」と軽快なリズムで足が伸びていくシーンを繰り返していくところで、はっきりしました。僕はこの楽しさをカラダで覚えていたんだなあ。愉快です。

懐かしい再会によって、改めて絵本の力を知ることになりました。

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『よあけ』

作/ユリー・シュルヴィッツ
訳/瀬田 貞二
定価/1320円(税込)
対象/4歳から
福音館書店
1977年6月25日発行

 


翻訳家でJBBY(日本国際児童図書評議会)会長でもいらっしゃるさくまゆみこさんが、「ユリ・シュルヴィッツの絵本論」というテーマで、こじんまりと勉強会を開催してくださいました。

僕がシュルヴィッツの『よあけ』をはじめて手にしたのは大人になってから。とはいえもう20年近く前のことです。

物語の後半、「そのとき」で一呼吸を置いてページをめくると、「やまとみずうみが みどりになった。」とまぶしいほど鮮やかに夜が明けるシーン。はじめて読んだときは本気で震えました。

山に囲まれた湖の畔、暗く静かな夜明け前。おじいさんと孫が眠っています。沈みかけた丸い月は湖面にうつり、そよ風の立てるさざ波にゆらめきます。やがて水面にもやが立ち、カエルのとびこむ音、鳥が鳴きかわす声が聞こえるようになると、おじいさんは孫を起こします。夜中から薄明、そして朝へ……。刻々と変わっていく夜明けのうつろいゆく風景を、やわらかな色調で描きだします。

この感動は本じゃないと味わえない種類のものです。
実際の夜明け、あるいは映像で描くとすると、暗いところから明るいところへじわじわとグラデーションがかかっていきます。明るいところへ向かう心の準備ができるんですね。

ところがこの作品の場合、めくった瞬間に「あけた!」と驚かされる。それは感動的なよろこびなのです。
もちろん「時間」は読者の想像の中で流れているわけですが、目に入ってくる変化の大きさは、本だからこそできる演出だと思います。

さくまさんに、この『よあけ』の絵コンテをみせてもらいました。創作の初期段階で画面構成がほとんど決まっていたことは衝撃でした。編集者としては突っ込みどころのない絵コンテ。シュルヴィッツは最初から読者の感動をイメージできていたということです。

僕の人生のターニングポイントになった思い出の1冊。

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