―ラフを描くのは水を得た魚のようでした。
わたしはせっかちで、頭にイメージで見えたものを早く形に落とし込みたい、という衝動があって、ラフも最初からカラーで描いていました。
あとは出産前に奮発して買ったiPad Proのおかげです。今回の絵本のラフは、全部iPadで描きました。そんなふうに言うとすごいハイテク人間みたいですが、携帯はガラケーです(笑)
最終的には印刷して絵本の形にして検証するのですが、その前段階の作業時間はそれでずいぶん効率化できたと思います。隙間時間にどこでも描けるので、とにかくすきあらば描いていましたね。
じっくり考えて締め切りギリギリで1案出すよりは、早く3案出して、そこから締め切りまでに調整を重ねていく、というほうが性に合っているので、スピードも重視していました。
―常に頭の片隅にダンドリを意識している編集者としては、速いことは間違いなく助かるんです。
でも、「前のめり」になりすぎるはるのさんを制止したこともありました(笑)
「はるのさんは課題解決をすることに向き合わず、今関係のないものを盛り込んで焦点をぼかしてしまう癖がある」というようなことを西川さんから言われて、ものすごく凹んだのですが、「あ、確かにそうかも」と思う自分もちゃんといました。
―まだ作品に登場するモチーフが固まってないうちから、はるのさんがどんどんラフを進めていた時ですね(笑)
スピードは速いけど、ゴールに向かっていない暴走状態。「こりゃまてまて」という気分でした。
自分の痛いところをつかれたから、余計ショックだったんですよね。
だからそこから、「赤ちゃんの視点」とはどういったものなのか、というのをもう一度再考しました。それは、ふうするものがどんな内容だと赤ちゃんにとって身近なのかということであったり、画面の構図であったり、いろいろなのですが。
「思考の癖」でもうひとついうと、ついつい画面をたくさんの絵で埋めないと物足りないような気がしちゃって、いろいろ余分なものを描いてしまっていたのですが、赤ちゃんの発達段階を考えると、それだと情報過多なんですよね。いかに削って、それでも赤ちゃんがちゃんと理解できて、さらに楽しいものにできるか……
あれもやりたいこれもやりたい、という欲張りなわたしの考えの‘交通整理’を、西川さんにしていただいた感じです。
▲結果的にボツになったネタも、この通りフルカラーで。仕上がりイメージが分かるのでありがたいとはいえ、肝心の課題解決にたっぷり時間をかけて欲しいという編集者の願いも
―ある程度ラフができてからは、はるのさんにも明確なゴールイメージが見えていましたよね。
そのうち、僕の思いつきアイデアにも、はっきり「No」と意思を貫くようになってきて心強かったです。
文章は、くりかえし言い方を変えてみて、どんなふうに言うと一番反応がいいか、子どもたちの様子を観察して考察できたからだと思います。
自分の子どもだけでなく、子育てセンターで出会った子とか、友達の赤ちゃんとか、とにかく赤ちゃんに会う機会があれば、片っ端からダミーの絵本を読ませてもらって。赤ちゃんがどこで反応するかというのは、月齢によっても、個人によっても、ばらばらでした。絵本だけじゃなくて、読み聞かせをする大人の口の動きとかも、よく見てるなあ、とか。
絵本に合わせてアドリブでいれたしぐさを、とても喜んでくれたなあ、とか。
それに、興味がなさそうだとこちらが思っていても、意外と聞いていたりするんですよね。子どもに数ヶ月、同じ絵本を読み続けてみると、その時々によって反応の仕方が違うということもわかってきました。
そうした実体験があったからこそ、自分の中で、ここはこの言葉のほうがいい、というのが固まってきたのだと思います。やはり子どもから学ばせてもらうことが大きかったのだと思います。
―編集者は「つっこみ」のような仕事でもあるのですが、見事につっこみどころがないところまで磨き上げていただきました。
▲上の着色されたラフが「いたいの」のボツ案。「この絵本で何を実現するのか」を繰り返しはるのさんに問いながら、ラフを磨いていった。下のラフが上がってきたとき、はるのさんに「ゴール」が見えたことが分かった
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