エンブックスからのお知らせ

エンブックスの理念を「子どものうれしいを増やす」に変えることにしました。
立ち上げ時は「子どもともっとコミュニケーション」、その後の「Make Kids Smile」と、軸は変わらないのですが、今エンブックスが伝えたいことをまとめなおしましたので、読んでもらえたらうれしいです。

 


親子のコミュニケーション不足がもたらす未来を想像してほしい

 

「待機児童」なんて言葉は、10年前にはまだなかったと思います。それくらい共働き世帯はどんどん増えていて、今では僕の子ども時代(1970年代)の専業主婦世帯数とそっくり入れ替わりました。

一方で、子どもの数はどんどん減っています。それでも保育園が不足しているというので、大きな問題になっているわけですが、その裏で確実に減っているのは「親子コミュニケーション」の総量です。

厄介なことにコミュニケーションは目に見えないので、ものすごいスピードで減っていても気づきにくく、多くの人の関心は今目の前にある問題に向けられがちです。

でも、僕は親子コミュニケーションの不足が、いずれ未来にもっと大きな問題となって現れる可能性を想像し心配しています。人間が生きていくうえでの本質的な問題として捉え、「不」を解消しなくちゃいけないと思っています。

 


絵本は単なる読みものではなく親子のコミュニケーション・ツール

 

「どうして絵本なんですか」と質問されることがあります。もともと僕自身が絵本作家として描きたくて、もがきながらたどり着いた現状ですが、エンブックスとして絵本づくりに取り組んできてわかったのは、読んで聞かせることが前提の絵本は「親子のコミュニケーション・ツール」であるということです。

だから今は、絵本をつくっているのではなく、親子が一緒に楽しむ時間をつくっていると考えています。

子どもにとって何よりうれしいのは、親がそばにいてくれる空間であり時間です。その空間や時間をより有意義にするのが「良い絵本」なんだと思います。僕たち作り手は、なるべくつまらないものを届けないように、気をつけ工夫しながら「良い絵本」づくりに取り組んでいます。

 


エンブックスの理念は子どもの「うれしい」を増やすこと

 

泣いたり怒ったりも全部含めて親子コミュニケーションですが、その中でも子どもの「うれしい」を増やしたい、これがエンブックスの理念です。子どものうれしいは親もうれしいだろうし、うれしいの循環は世界の空気清浄機になるはずだから。

もう少し丁寧にいうと、子どものうれしいを増やすことができるのはやっぱり親が一番なので、エンブックスとしては絵本を通じてきっかけを与えることができれば良いと思っています。

だからこそ、まずは絵本界の再活性化を成し遂げたいし、若い絵本作家の創作意欲が決して途絶えないような新しい仕組みをつくらなければいけません。もちろん単に出版の枠にとらわれず、絵本よりもっと優れた親子コミュニケーションツールの発明をするのも楽しそうです。

 


言葉が人生を豊かにする

 

人間と動物の大きな違いのひとつに「言葉」があります。言葉があるからこそ、相手に伝えることができるし、相手の考えを聞くことができます。発するまでもなく頭の中で考えるときもやっぱり言葉が必要です。

つまり人間は言葉とともに生きて、言葉のキャッチボールによって社会と関わっていく生きものなのです。

生まれたばかりの赤ちゃんは言葉のない世界からやってきて、親の発した言葉を食べて大きくなっていきます。だから、食べ物の栄養を気にかけるのと同じように、幼い子ども時代には良い言葉をたくさん食べさせてあげて欲しいと思います。

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目次

  1. 2008年度 IBBY世界大会 レポート①
  2. 2008年度 IBBY世界大会 レポート②

 


アンデルセンはなぜ飛び抜けた童話作家になったのか

 

デンマークの首都コペンハーゲンから、バスに乗ってしばらく。島を渡って向かう先はオーデンセという街です。世界で最も有名な童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの生まれた街。

そこはまるで童話の中のように、例えばベンチの足が巨人の足になっていたり、信号機がアンデルセンになっていたりと、遊び心がいっぱいです。

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アンデルセンは14歳でひとりコペンハーゲンに移り住みます。それまでのオーデンセでの暮らしは、貧しくて仕方がなかったそうです。アンデルセンの生まれた1800年頃のこの街が、実際にどんな環境だったのかは想像することしかできませんが、アンデルセンの言葉に反するように、街の景色は穏やかで美しく見えます。

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低い屋根に短い煙突。似ているようでどれも違う壁の色、扉のデザイン。余計な装飾は全然ないのに、それでいて明るい印象。きっとアンデルセンの豊かな想像力のタネは、この街で育まれたに違いありません。

アンデルセンの生家は、一階建ての黄色くてかわいい家でした。少年時代の彼は、この窓から何を眺め、何を思って飛び出したのでしょう。

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現実世界の落胆が大きいほど空想世界は広がる

 

残念ながら生家には入れませんが、5分ほど歩いたところにアンデルセン博物館があり、部屋の様子が再現されています。博物館の入口には彼が得意とした切り絵のライオンが。ライオンの右手にはとても気持ちのいい庭園が広がります。

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「とにかく狭くって狭くって」

ガイドさんがいかにも気の毒そうに繰り返し言うので、一体どれほど小さな部屋で幼少期を過ごしたのかと思えば、確かに少し天井が低いとはいえ、外観と同じようにやっぱり中もかわいい部屋でした。日本のワンルームマンションのほうがよっぽど狭く、暮らしづらいと思います。

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アンデルセンの身長は185cm。当時としてはかなり大柄だったと思います。今ならパリコレでさっそうと歩くモデルになっていたかもしれませんが、時代のせいもあって、このとびぬけて背が高いことをはじめ、つぶらな目がちょこんとついていることも、大きな鼻も、くりんくりんの髪の毛も、全部コンプレックスだったといいます。

生い立ちをたどってみると、彼はずっと現実の世界に落胆していたような気がします。それで、自分が創りだす空想の世界に閉じこもったのかもしれません。落胆が大きかったからこそ、アンデルセンの空想力は誰よりも夢いっぱいで色鮮やかなものになったのでしょう。

「すべての人の一生は神の手によって書かれた一遍の童話である。」 H.C.アンデルセン

その膨らみきった空想のかたまりを、言葉として紡いだのが今も読み継がれる童話であり、はさみで形作ったのが無数の切り絵だとすれば、楽しみの裏側に、隠された悲しみや苦しみが見えてくるような気がします。いいえ、これこそが創作なんだと思います。(おしまい)

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エンブックスのオンデマンド絵本は、これまで読者のライフスタイルやお好みに応じて、2つの製本タイプから選べるようになっていました。

この度、新たに「大判ペーパーバック絵本」が加わり、選べる製本タイプが最大3つに増えます。
大判ペーパーバック絵本は、既存のハードカバー絵本と同じサイズ(200×264mm)で、よりお話の世界をダイナミックに楽しむことができると同時に、オンデマンド絵本でありながら手に取りやすい価格設定が魅力です。

まずは7月20日(月)発行予定の新刊絵本『ゆきちゃんのおさいふ』(ぶん・え/松村 真依子)から適応し、既存の作品についても、作家の了解を得たものから随時適応していく予定です。

これまで以上に、お子さまと楽しい時間をお過ごしいただけるきっかけになればうれしいです。

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「家糸プロジェクト」のはじまり

 

まるで、名作絵本 『ちいさいおうち』が、そっくりそのまま飛び出してきたかのような佇まい。僕が、そのお家のことを知ったのは、インスタグラムに投稿された1枚の写真がきっかけです。

ところが、昨春に主を失ったそのお家は、間もなく取り壊されることが決まっていました。カタチあるものは、いつか失われることが宿命とはいえ、そこで4番目の孫として育った村上萌さんには「残したい」気持ちがありました。

僕はすぐに、日本の『ちいさいおうち』のような絵本をつくりませんか、と声をかけました。絵本であれば、また次の100年も語り継いでいくことができる。これが「家糸プロジェクト」のはじまりです。

 


物語のテーマは「大切なこと」

 

東京は田園調布の、閑静な住宅街。なかでも一際存在感のあるお家は、有形文化財にも登録された築100年の洋館です。その長い歴史の、限りなく最後に近いゲストとして、僕は招かれました。

お家の中を案内しながら、彼女はおばあちゃんとの思い出を、ひとつひとつ宝箱から取り出すように、語り聞かせてくれました。

そこで暮らした家族の物語には、子どもたちに語り継ぎたい「大切なこと」が、たくさん散りばめられていました。彼女のお話を、できるだけ素直に、そのままの温度で、絵本にしようと決めました。

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お家のその後と、サンドイッチ屋「GARTEN」

 

壊されてしまったお家の一部は、もうひとつの「家糸プロジェクト」として、村上さんが運営するサンドイッチ屋「GARTEN(ガルテン)」のオープンに合わせて、田園調布から青山まで運ばれました。印象的な淡いグリーンの窓枠は、新たな場所でも大きく開かれ、以前と同じようにお客様を心地よく招いてくれます。

「お天気のいい朝、庭に出てサンドイッチを食べる楽しみを教えてくれた」おばあちゃんは、「足りないものがあると、ハーブやフルーツはそこらへんで摘んできて、 ささっと添えてくれた」そう。この場所もまた、語り継ぎたい大切なことがあふれています。

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物語の導入(仮)

 

爽やかな5月の北海道から届いた手書きの原稿は、「迷うことなく、文(ぶん)は完成しました。」と村上さん自身がいうように、次から次へと言葉があふれてきたことがわかるものでした。ほとんど消した後すらなくて、最初から最後まで、まるで書くことが決まっていたかのようなそれをみて、僕は大きな編集は必要がないと判断しました。

ありさは、はるの おひさまの ひかりと トーストの こうばしいかおりで、めを さましました。まっさきに となりを みると、やっぱり おばあちゃんの ふとんは、からっぽに なっていました。リビングに おりると、ふたりぶんの おさらと ティーカップが、よういされていました。ありさは、すこし おとなになったみたいで おとまりした あさのじかんが、だいすきでした。

 


物語と相性の合う絵

 

絵本は「絵と文の総合芸術」だといいます。ひとりで絵と文を描く作家の場合は「相性」を気にする必要はありませんが、絵と文の描き手が違う場合、それは重要な条件のひとつになります。この物語に合うだろう何名かの画家候補を見つけて村上さんに相談したところ、「一緒にやりたい人がいる」と推薦されたのが、イラストレーターの湯浅望さんです。

絵本の絵は、1枚もののイラストレーションと違って、15枚が揃ってはじめてひとつの作品になります。それぞれの場面は、最初から文が入ることを想定して構図を決めなきゃいけないし、ページをめくる方向にあわせて、物語の時間軸を考える必要もあります。文で言えば行間と同じように、ページ間を「語る絵」が描けなければ、物語の世界に奥行きはでないでしょう。何より子どもが好きになってくれる絵を描くというのは、「上手」とは全く違う性質のものです。

 


絵本の絵を描ける人の条件

 

1ヵ月待っても、2ヵ月待っても、ラフの1枚もあがってこないのをみて、僕の不安は的中したと思いました。余裕をもってスタートした制作時間は刻々と短くなっていきます。いよいよ3ヵ月を過ぎて、ダンドリの調整も限界にさしかかった時に、湯浅さんが物語の主人公になりきって、実際の街を散策して歩いていたことを知りました。

それを聞いて、湯浅さんは絵本の絵を描ける画家だと確信しました。絵本を描く上で、デッサン力よりも遥かに大切なこと。それは物語の世界を知ることです。作家が世界の隅々まで知っているからこそ、物語にリアリティが生まれる。リアリティのある物語は、子どもをあっというまにその世界へ誘うのです。

家糸プロジェクト

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自分で考える人は「詩人」であり「科学者」

 

自分で考える、それ自体が「科学」なんだ、と教えてくれる大人が身近にいる子どもは、きっと自然に勉強が好きになると思います。もちろん、本当の意味での勉強で、無理やり正解を詰め込むような勉強ではありません。

考える過程が一番おもしろくて、学びが大きいのだから、正解を知らないというのはすごく楽しいこと。
どうして雷が鳴るんだろう、どうしてトマトは赤いんだろう――世界は不思議でいっぱいで、自分で考えた答えを持っている人は、まさに「詩人」であり、「科学的」です。(自分なりのトマトが赤い理由を語れる人は、エンブックスにご連絡くださいね、そのまま絵本ができるかもしれません)

最近話題になる絵本の多くは、ノウハウものや知育ものばかりで、僕はちょっと気がかり。子どもが自分で選ぶとは思えない絵本ばかりです。大人は子どもに正解を用意するのではなく、考えるきっかけを与えることが大切です。

 


以下、『言葉の力 人間の力』より抜粋
語り手:中村桂子(生命誌研究館 館長)

 

 生命誌研究館にお越しの保育園の先生が、(中略)「生きているってどういうことだろう」と問いかけられて、「植物は生きているだろうか?」と子どもたちにきいたのだそうです。ほとんどの子は頭で理解しているのでしょうね。「植物だって生きものだよ」と答えたそうです。
 ところが、一人だけ「植物は生きものではない」と主張する子がいたんですって。先生としては植物も生きものだということを言いたい。でも、その子は「だって、動かないのに生きもののはずがない」と主張したといいます。

 (中略)ある日、外で草取りをした時に、草を抜いたら、根っこのところから少し水が出てきた。するとその子はそれをみて、「ああ、植物って泣くよ! やっぱり生きているんだ」と言ったというのです。
 根から出た水はもちろん涙ではないし、科学では、「生きている」ということはそんなことで判断するのではありません。でも「あ、生きているんだ」とまず思うこと。そう実感して、そこからだんだん、三年生、四年生になった時に、いろんなことが解ればいいのです。私は、五十人いる保育園児の中で、この子が一番、ある意味で科学が解る完成の持ち主だなと思いました。

 ただお母さんは、みんなが「植物も生きものだ」とすぐに解っているのに、うちの子はなかなか解らないと心配する。今の世の中では、知識として教えられれば疑いもなく納得して信じることがよいと決められがちです。
 科学者としての私は、(中略)この子をとってもすてきだと思ったんです。

 自分で観察したことから答えを自分で見つけて出す。科学って正しい必要はありません。(中略)間違えていても、自分で考えたことをきちんと言って、それがまた次に新しい発見につながる。
 (中略)科学はきちんと見て、きちんと考えて、「こう思います」と言えばよいのです。(中略)十年経ったらあれは間違いだったということになったとしても、とても意味のあることを言うことがある、それが科学なのです。

 ただ、その時に、「きちんと見て、きちんと考えてある」ということが条件です。(中略)でたらめではいけない。それなら、たとえ間違えても、とても意味のある間違いになるのですね。だから科学は正しいことを言うことではなくて、よく見て、よく考えることなのです。

 その子は、ほんとに周りが全員そうだと言っても、自分は自分で見て納得しないとそうだと言わない。しかも、植物は生きものじゃないと言っていたのに、自分が見て、根から水が出てきたら、「泣いているんだから」、と答えを訂正する。まさに「詩人」であり、「科学的」です。

 


『言葉の力 人間の力』

著/松居 直、中村 桂子、舘野 泉、加古 里子
定価/1650円(税込)
佼成出版社
2012年7月25日発行

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7月8日(金)に、元福音館書店専務の田中秀治さんにお話を伺ってきました。
林明子さんデビュー作の担当編集者として、また「こどものとも 年少版」の創刊メンバーとして、たくさんの優れた絵本を世に送り出してきた経験から語っていただいたのは、絵本の良し悪しでも、絵本づくりのノウハウでもなく、親子の在り方の「本質」だったと思います。

 


子どもと絵本の関わりかたが変わってきた30年

 

2歳頃から子どもは絵本を楽しめるといわれた1970年代、2歳から4歳までの子どもたちを対象とした「こどものとも 年少版」が創刊されたのは1977年のことです。
1990年代に入ると、1歳頃から子どもは絵本を楽しめるといわれはじめ、1995年に「こどものとも0.1.2.」が創刊されました。
子どもと絵本の関わりかたは時代とともに刻々と変化していて、今では0歳児が絵本を楽しむことも珍しくありません。

こうして長い年月を俯瞰してみると、モノが豊かになるにつれて子どもの遊び道具はとてつもなく増えているはずなのに、絵本は端に追いやられるどころか対象の幅を広げてきたことがわかります。
その理由は、絵本は「親子で楽しむもの」だから、に尽きると思います。

 


絵本は親子で楽しむもの

 

田中さんは「読み聞かせ」という言葉が好きじゃないといいます。
幼い子どもはまだ絵本をひとりで読むことができないので、親が読んであげないといけません。だから、つい上の立場で「読み聞かせ」といってしまいがちですが、実際に絵本を読んでいると楽しいのは子どもだけじゃないことがよくわかります。それは、単に描かれたお話が楽しいというだけではありません。

絵本が親子にもたらすもの

  • 時間と空間で愛情を伝える
  • 子どもの感性の元をつくる

 


まず、絵本を前に親子は肌を触れ合わせます(=スキンシップ)。
そしてお話を通じて、親はたくさんの「ことば」を声にのせて投げかけ、子どもはそれを「愛情」として受け取ります。また、子どもは親の元で安心してお話の世界に入っていき、たくさんの「感動体験」をしてきます。
まだ言葉の意味がわからない赤ちゃんでも、ケラケラ笑う反応をみれば愛情が伝わっていること、コロコロ変わる表情から感性が磨かれていることは手に取るようにわかります。

実は、絵本を読むという行為を通じて、親子は愛情のキャッチボールをしています。
子どものうれしいは親もうれしい。もしかすると、親のほうが子どもに「読み聞かせ」をさせてもらっているんじゃないかとさえ思えます。田中さんのメッセージの本意を僕はそんなふうに理解しました。

 


絵本があればたくさんの言葉をかけてあげることができる

 

はじめての子育てで、子どもにどうやって接していいかわからないときもあるかと思います。
幼い子どもの行動範囲は限られているのに好奇心は限りなくて、期待に応えてたくさんの豊かな言葉をかけてあげたいと思っても、自分の引き出しにある語彙では心細いかもしれません。

今ではすっかり赤ちゃん絵本の定番になった『もこもこもこ』を開いてみると、不思議なカタチに美しい色の抽象画に「もこ」とか「にょきにょき」とか、日常会話ではなかなか出てこない絵本だからこそかけてあげられる豊かな言葉が並んでいます。
そういう「こどもだましではない本物」の絵本は、最高の親子の架け橋になってくれると信じています。

 


『くだもの』

作/平山 和子
定価/990円(税込)
対象/2歳から
福音館書店
1981年10月20日発行

すいか、もも、ぶどう、なし、りんごなど、日常子どもたちが食べるくだものを、まるで実物かと思わせるほど鮮やかに描いた、いわば果物の画集。

 


『たまごのあかちゃん』

文/神沢 利子
絵/柳生 弦一郎
定価/990円(税込)
対象/2歳から
福音館書店
1993年2月10日発行

「たまごのなかでかくれんぼしているあかちゃんはだあれ?でておいでよ」と呼びかけると、卵の中から次々と赤ちゃんが出てきます。リズミカルな文と、ユーモラスな絵が楽しめます。

 


『でてこい でてこい』

作/はやし あきこ
定価/880円(税込)
対象/0歳から
福音館書店
1998年4月15日発行

だれかかくれているよでてこいでてこい」と色紙に呼びかけると、「げこげこげこ」「ぴょーんぴょん」といろいろな動物たちが跳び出してきます。色と形の愉快な絵本です。

 


『もう おきるかな?』

文/松野 正子
絵/薮内 正幸
定価/880円(税込)
対象/0歳から
福音館書店
1998年6月10日発行

動物たちが親子で気持ちよさそうに眠っています。「もうおきるかな?」ページをめくると「あー、おきた! 」最後にゾウの親子も起き上がり、さあ、鼻と鼻をつないでおでかけです。

 


『いないいないばあ』

文/松谷 みよ子
絵/瀬川 康男
定価/770円(税込)
対象/0歳から
童心社
1967年4月15日発行

「赤ちゃんだからこそ美しい日本語と最高の絵を」の想いから、日本初の本格的な赤ちゃん絵本として誕生して半世紀。はじめて出会う一冊として、世代を越えて読みつがれています。いないいない、ばあ。にゃあにゃが、くまちゃんが、ほらね、いないいない……。親子の伝承遊びを絵本に再創造した作品。

 


『がたん ごとん がたん ごとん』

作/安西 水丸
定価/880円(税込)
対象/0歳から
福音館書店
1987年6月30日発行

がたんごとんがたんごとんと、まっ黒な汽車がやってきます。駅で待っているのは哺乳瓶。「のせてくださーい」と言って汽車に乗り込みます。ふたたび出発し、がたんごとんと次の駅へ行くと、こんどはコップとスプーンが「のせてくださーい」。さらに次の駅では、リンゴとバナナが、ネコとネズミが「のせてくださーい」。みんなをのせて汽車は「がたんごとん」と終着駅へ。そこは……。

 


『もこ もこもこ』

作/谷川 俊太郎
絵/元永 定正
定価/1430円(税込)
対象/赤ちゃんから
文研出版
1977年4月発行

「しーん、もこもこ、にょきにょき」とふくれあがったものは、みるまに大きくなってパチンとはじけました。詩人と異色の画家がおりなす不思議でおかしな世界の絵本。

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「孫にプレゼントすることができました。素晴らしい絵本で感動しています。末永く読み継いでいくことでしょう。」

 


ある日、読者からこんなステキなメッセージをいただきました。
エンブックスが作りたいのは、これから30年、長く愛されて読み継がれていく絵本です。たちあげ当初からずっと「ニッチ」ではなく「スタンダード」を目指した絵本づくりをやってきました。

だから、お届けした絵本がひとりの読者にとっての新たなスタンダードになったと知って、本当にうれしい気持ちになりました。それに、励まされたというか、元気がでました。

エンブックスは今でも書店流通が実現できていないために、あの手この手と運営の工夫が必要になります。オンデマンド絵本が実現したのも、メディアの運営をはじめたのも、販路がない圧倒的ピンチの中で、どうやって絵本を届けるのかを考えぬいた末の産物です。

結果として、エンブックスは着々と直接読者と触れ合える独自のマーケットを築きつつあります。
出版社は通常、書店で購入する読者の顔を知りませんが、エンブックスではオンライン注文があるごとにひとつずつ自らの手で梱包し、宛名を書いてお届けします。
もちろん、まだまだ僕の理想とする世界とは大きく乖離がありますが、それでも「21世紀型の出版社」の糸口が見えてきたことは確かです。

読者との距離が近いということは、絵本づくりの向こう側にいつも読者の姿が見えるということです。
ちょっとした緊張もあります。でも、それが良いんですよね。読者をもっとよろこばせたい、楽しいお話の時間を過ごしてもらいたいという気持ちが、いつだって創作の勢いになっています。

エンブックスのいちばん近くにいる「こども編集部員」も、いつのまにか50名近くになりました。

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目次

  1. アムステルダム公共図書館 見学レポート①
  2. アムステルダム公共図書館 見学レポート②
  3. アムステルダム公共図書館 見学レポート③
  4. アムステルダム散策 番外編

 


母国語で読み聞かせしてもらうミッフィー

 

オランダで「ナインチェ(Nijntje)」と呼ばれ、子どもたちに親しまれているのは、日本でもおなじみの「ミッフィー」、あるいは「うさこちゃん」です。

ミッフィーが生まれた故郷で、この絵本を手に取る感激。せっかくの機会なので、図書館員の女性に読み聞かせをしてもらえないかとお願いしてみました。

「わたしが?」ハニカミながらあっさりOKしてくれました。

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ミッフィーの母国オランダ語でしばし聞き入ります。もちろん……意味は全然わかりません。全然わからないけれど、なんだかとっても良いのです。

一冊の絵本を読み終えるまでは、ほんのわずかな時間です。でも、とてもきらめいた時間でした。オランダの子どもたちはこうして「ナインチェ」に親しんでいくんですね。

こういう体験は、絵本の翻訳にきっと役に立つと思います。だって翻訳が難しいのは、原作の文の「調べ(=リズム)」をどう再現できるかだから。

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目次

  1. アムステルダム公共図書館 見学レポート①
  2. アムステルダム公共図書館 見学レポート②
  3. アムステルダム公共図書館 見学レポート③
  4. アムステルダム散策 番外編

 


アムステルダム公共図書館の内部に迫る

 

アムステルダム公共図書館は、信じられないことに10階建て(地上9階、地下1階)で、吹き抜けになった設計は、まるで高級ホテルかデパートのようです。

エスカレーターで昇っていくと、フロアごとに、カテゴリー別に整頓された本が並んでいます。
「僕は美術関連の本が見たいから3階にいるね」
「じゃあ、1時間後に4階の小説コーナーの前で待ち合わせしましょ」
通りがかったオランダ人カップルが、そんな会話をしているような気がしました。

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まるでUFOのようなデザインのDVDフロア。紫のライティングが未来的です。

微動だにしない人がちらほらといるのは、タイトルを決めかねているのだと思います。端からタイトルを見ていく間に、
映画を何本か観られるかもしれません。

 


至れり尽くせりのホスピタリティ

 

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上の階の窓際は特等席です。あいにくのどしゃ降りで景色はぼんやりしていましたが、それはそれで悪くないものです。読書をするにはもちろん、時々ぼうっと過ごすのも良さそうです。

館内のいたるところにアーティストの作品が展示されています。美術館のような雰囲気はこうして作られているようです。

パソコンは各フロアに並んでいます。本の検索端末ではなくて、インターネット使いたい放題。アムステルダムでネットカフェを起業しようと思っているなら、今すぐ白紙に戻したほうがいいかもしれませんね。

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さらに昇っていくと、ラジオのスタジオまであります。ちょうど生放送直前の慌ただしい現場でしたが、ディレクターに直撃インタビューをしてみると、
「放送の現場を公開したら、学生たちにとって何よりの勉強になるだろう」
といっていました。図書館内のスタジオならではの新しい試みで、ぜひ実現させて欲しいと思いました。そのうち、学生が作る番組もここから生まれていくのでしょう。

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最上階はレストランになっています。どこまでも至れり尽くせり。
晴れた日なら、テラス席で本の感想なんかをゆらゆら語りながら、ゆっくり過ごすデートもいいものです。妄想です。

隣のフロアの白黒が交互に並ぶ床を見て、フェルメールの絵が思い浮かびました。レンブラントやフェルメールも、ビールを片手に芸術の未来について語ることがあったのでしょうか。

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