作/ユリー・シュルヴィッツ
訳/瀬田 貞二
定価/1320円(税込)
対象/4歳から
福音館書店
1977年6月25日発行
翻訳家でJBBY(日本国際児童図書評議会)会長でもいらっしゃるさくまゆみこさんが、「ユリ・シュルヴィッツの絵本論」というテーマで、こじんまりと勉強会を開催してくださいました。
僕がシュルヴィッツの『よあけ』をはじめて手にしたのは大人になってから。とはいえもう20年近く前のことです。
物語の後半、「そのとき」で一呼吸を置いてページをめくると、「やまとみずうみが みどりになった。」とまぶしいほど鮮やかに夜が明けるシーン。はじめて読んだときは本気で震えました。
山に囲まれた湖の畔、暗く静かな夜明け前。おじいさんと孫が眠っています。沈みかけた丸い月は湖面にうつり、そよ風の立てるさざ波にゆらめきます。やがて水面にもやが立ち、カエルのとびこむ音、鳥が鳴きかわす声が聞こえるようになると、おじいさんは孫を起こします。夜中から薄明、そして朝へ……。刻々と変わっていく夜明けのうつろいゆく風景を、やわらかな色調で描きだします。
この感動は本じゃないと味わえない種類のものです。
実際の夜明け、あるいは映像で描くとすると、暗いところから明るいところへじわじわとグラデーションがかかっていきます。明るいところへ向かう心の準備ができるんですね。
ところがこの作品の場合、めくった瞬間に「あけた!」と驚かされる。それは感動的なよろこびなのです。
もちろん「時間」は読者の想像の中で流れているわけですが、目に入ってくる変化の大きさは、本だからこそできる演出だと思います。
さくまさんに、この『よあけ』の絵コンテをみせてもらいました。創作の初期段階で画面構成がほとんど決まっていたことは衝撃でした。編集者としては突っ込みどころのない絵コンテ。シュルヴィッツは最初から読者の感動をイメージできていたということです。
僕の人生のターニングポイントになった思い出の1冊。
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