文・絵/平山 和子
定価/990円(税込)
対象/2歳から
福音館書店
1981年10月20日発行
僕が赤ちゃん絵本のお手本としている1冊が『くだもの』です。
行き詰まった時、ぱらぱらと開くと創作の原点に立ち返ることができる。
絵本を通じて「どんなシーンを実現したいんだっけ」の答えがここに描かれています。
みどり色の大きな「すいか」が、どっしりと置かれている。ページをめくると、「さあ どうぞ」の言葉とともに、みかづき型に切り分けられた、真っ赤なすいかがひと切れ。フォークもちゃんと、添えられている。くりは、イガから出して、皮をむいて。ぶどうはきれいに洗われ、水滴が光っている。りんご、なし、もも、いちご…まず丸ごとの果物を見せ、次にすぐ食べられる状態にしたものを紹介していく。
平山さんの描く写実的なくだものは「本物」です。子どもが見るからこそ一切手を抜かないで描く姿勢が好き。
結果、子どもは「美味しそう」と、くだものに手を伸ばします。
なんといってもこの絵本の一番の工夫は、切ったくだものに手が添えられて描かれていることでしょう。
大人が子どもに読んであげることが前提になっているので、「さあ どうぞ」の声がけは、親の声にのって赤ちゃんの耳に入ります。だから、赤ちゃんから見たその手は、優しい親の手です。
この絵本がどんなふうに読まれるのか、そこまで計算されている。
絵本と向き合いながら、まるで親子で会話(言葉を話せない赤ちゃんは反応するという意味で)をするように展開します。
優れた親子のコミュニケーション・ツールとして大傑作。「さあ どうぞ」。