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『くだもの』

文・絵/平山 和子
定価/990円(税込)
対象/2歳から
福音館書店
1981年10月20日発行

 


僕が赤ちゃん絵本のお手本としている1冊が『くだもの』です。
行き詰まった時、ぱらぱらと開くと創作の原点に立ち返ることができる。
絵本を通じて「どんなシーンを実現したいんだっけ」の答えがここに描かれています。

みどり色の大きな「すいか」が、どっしりと置かれている。ページをめくると、「さあ どうぞ」の言葉とともに、みかづき型に切り分けられた、真っ赤なすいかがひと切れ。フォークもちゃんと、添えられている。くりは、イガから出して、皮をむいて。ぶどうはきれいに洗われ、水滴が光っている。りんご、なし、もも、いちご…まず丸ごとの果物を見せ、次にすぐ食べられる状態にしたものを紹介していく。

平山さんの描く写実的なくだものは「本物」です。子どもが見るからこそ一切手を抜かないで描く姿勢が好き。
結果、子どもは「美味しそう」と、くだものに手を伸ばします。

なんといってもこの絵本の一番の工夫は、切ったくだものに手が添えられて描かれていることでしょう。
大人が子どもに読んであげることが前提になっているので、「さあ どうぞ」の声がけは、親の声にのって赤ちゃんの耳に入ります。だから、赤ちゃんから見たその手は、優しい親の手です。

この絵本がどんなふうに読まれるのか、そこまで計算されている。
絵本と向き合いながら、まるで親子で会話(言葉を話せない赤ちゃんは反応するという意味で)をするように展開します。
優れた親子のコミュニケーション・ツールとして大傑作。「さあ どうぞ」。

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『わんわん わんわん』

文・絵/高畠 純
定価/1100円(税込)
対象/赤ちゃんから
理論社
1993年1月発行

 


大変光栄なことに先日、高畠純さんとお会いする機会がありました。

『だれのじてんしゃ』(フレーベル館)は、見開きにヘンな形をした自転車が描かれていて、「だれの じてんしゃ?」と主人公が問いかけます。めくると、なるほどぴったりの「だれ」が明らかになる展開。

この作品は1983年に「ボローニャ国際児童図書展 グラフィック賞」を受賞していますが、初期の頃から子どもの気持ちをガッチリつかんできた素晴らしい絵本作家です。

中でも『わんわん わんわん』は最高。いぬ、ねこ、ぶたと動物の鳴き声だけで展開する絵本です。出版社の紹介では幼児向けとありますが、今の時代なら赤ちゃん絵本としてオススメしたい。

イヌが1匹「わんわん わんわん」。そこへネコがやってきて「ニャーゴ ニャーゴ」。ブタさんもやってきて「ぶひっ ぶひっ」。さらには、ウシさん「ンモー ンモー」、ニワトリさんも「クワッ クワッ クワッ」、ヤギさん登場「めへー めへー」。みんなで一緒にあそんでいると、そこへ「プォーン」と大きな泣き声。ゾウがゴリラを引きつれて通りすぎた。神妙な面持ちで口を閉ざし、ゾウとゴリラを見届けたなら、あとはもうみんなで大騒ぎ。

音読すれば子どもが夢中になって楽しんでいる様子が目に浮かびます。

高畠さんは、最初に文の配置やサイズを決めて創作するそうですが、だからこそ動物の絵と鳴き声が一見バラバラのようでいて、見事にリンクしています。ゆるい絵もシンプルな配色もものすごく計算されている。それをさりげなくやるところがすごい。子どもがそういうところを見逃さない目を持っていることを知っているのだと思います。

装丁には「くすくすえほん」とありますが、間違いなく「げらげらえほん」。

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『たんじょうび』

文・絵/ハンス・フィッシャー
訳/大塚 勇三
定価/1540円(税込)
対象/4歳から
福音館書店
1965年10月1日発行

 


10月20日、これは誕生日にぴったりの絵本だと開いてみました。
ハンス・フィッシャーの絵は、好みか好みじゃないかでいうと、超好み。躍動感のある筆づかいにほれぼれします。

リゼッテおばあちゃんは、ネコやイヌやメンドリやヤギなど、たくさんの動物たちと一緒に幸せに暮らしています。今日は、おばあちゃんの76才のお誕生日。おばあちゃんが村へ買い物に行っている間に、動物たちはお誕生日のお祝いをしようと大奮闘します。ロウソクを76本買いにいったり、卵を36個も産んでケーキを焼いたり、花をつんだり……。

そこは2019年の東京とはまるで違う景色。(たぶんスイスの)森の奥にある広々とした家では、動物がおしゃべりすることもすんなり受け入れられます。世界観をつくる画家の説得力だよなあ。

おばあちゃんのために力をあわせて、体より大きなケーキを焼いてあげるシーンでは、これでもかと散らかったキッチン。案の定というか読者としては期待通り、まっくろ焦げに焼きすぎたケーキ。その焦げを白い砂糖をかけて隠しちゃうところ。現実だと「マジか!」という展開のすべてが微笑ましい。

ラストがまた最高にやさしい。来年の誕生日、おばあちゃんは祝う側にもなって、ますますにぎやかになるんでしょうね。しあわせってこういうことなのよ。

ちなみに、大塚勇三さんといえば『スーホの白い馬』や『ウルスリのすず』の翻訳者。その国の空気ごと訳す大塚さんだから成立したすばらしい絵本だと思います。

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『おうさまのこどもたち』

文・絵/三浦 太郎
定価/1540円(税込)
対象/3歳から
偕成社
2019年10月16日発行

 


ミリオンセラーを突破した『くっついた』でおなじみの三浦太郎さんの新刊絵本。
2000年以降に出版された絵本でミリオンを超えたのは片手で数えるくらいなので、誰もが認める大作家です。

圧倒的に美しい装丁から、配色へのこだわりを感じます。手触りもいい。ぱらぱらめくってみると特色(印刷代が高くなる特別インク……)もいたるところに。贅沢につくられた絵本だなあ。

王家に生まれた10人の子どもたち。成長してどんな王・女王になりたいか問われ、それぞれ、すし屋、サッカー選手、農家、保育士、アーティストなど、自分の好きな仕事で人々を幸せにしたいと考えます。さて、王さまのあとをついだのは……?

「ちいさなおうさま」3部作の完結編で、テーマは「多様性」でしょうか。こういう時代性に富んだテーマに人気作家が挑むことはすばらしいことだと思います。

ただ、テーマありきで考えすぎたんじゃないかという読後感。展開は単純なもので、お話にひねりや工夫があるわけでもないので、物語絵本としての楽しみはちょっと物足りない気がしました。

一方で、三浦さんの絵のチカラ。”絵を読む”子どもは存分にその世界を味わえると思います。繰り返し開くたびに発見がありそう。

そういう意味では、絵とお話のバランスってとても大事なんですよね。絵本は総合芸術だから。『くっついた』は、そのバランスが見事だと改めて。

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『たいこ』

文・絵/樋勝 朋巳
定価/990円(税込)
対象/2歳から
福音館書店
2019年10月5日発行

 


10月に発売されたばかりの新刊幼児絵本です。2歳から対象なので赤ちゃん絵本になるのかな。

いさぎよいタイトルと、表紙に描かれたなんともチカラの抜けたゆるいキャラクターに惹かれて思わず手にとりました。“思わず手にとらせる”というのはすごいことですよ。

トントントトトン トントントトトン、誰かがたいこをたたいています。「なかまにいれて」 仲間がひとり増えました。トントンポコポコ トントンポコポコ、ふたりでたいこをたたいていると、「なかまにいれて」 またひとりやってきました。

ページをめくるごとにだんだん仲間が増えて、なぜだかみんな揃ってたいこをたたく。増えてはたたく繰り返しの展開。好き。

いかにも楽しそうな様子の絵からは、にぎやかなたいこの音と笑い声までも聞こえてくるようです。それにあわせて「トントン ポコポコ ペタペタ ボーン」と文字も踊るようにデザインされているから、音読すると自然に大きな声が出て盛り上がることが容易に想像できます。これは赤ちゃんにウケるだろうなあ。

突然ワニが登場する「転」も味わい深い。僕の最近一番のヒット作です。
1.2.1.2のリズムで展開する絵本はこれまで作ってきた経験がありますが、1.2.3.4とどんどん盛り上がる展開の絵本も作ってみたいなあ!

作家の樋勝朋巳さんは「ボローニャ国際絵本原画展」の入選作家だそう。このゆるいキャラクターは「クネクネさん」といって、実はシリーズ化されていました。他も読んでみたい。

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8月1日から第3期がスタートしました。

決算を終えたところで2期目を振り返ると、おかげさまで絵本事業については売上高が昨年比222%の増収。
おまけに当期純利益も黒字転換と、30代にどんどこ私財を突っ込んで蒔いてきた種が順調に育ってきたなあ、という実感があります。

最新刊の『ねえねえあーそぼ』(さく/山本 直美、え/山本 美希)では、エンブックスとして初のコラボ絵本づくりになりました。
「子育て学協会」のような素晴らしいチームにお声がけいただけるようになったことがまずうれしかったし、この創作を通じてマンガ作家としてすでに国際的評価の高い山本美希さんとご一緒することもできました。
赤ちゃんのいる家族にとって、子育ての支えとなる気づきがある“本質的なテーマ”と“新しい表現”。エンブックスとして大事にしている2つのキーワードですが、その道のプロフェッショナルたちのおかげで、とても高いレベルの絵本に仕上がったと思います。
同じチームですでにシリーズ2作目を進行中。遅くとも年内に出版する予定なのでこちらもぜひ楽しみにお待ちください!

個別タイトルでみると、『なでてなでて』(え/日隈 みさき、ぶん/西川 季岐)が発行からちょうど1年で黒字化しました。好調に売れ続けている『ふうしてあそぼ』(さく/はるの まい)は発行からわずか7カ月目に黒字化。初版部数を150%増やした『はい たっち』(さく/からさわ ようすけ)もまもなく黒字化と、既刊の半分が収益に貢献してくれています。なんて健全。このご時世に取次もびっくりです。

『ぱたぱたえほん』(さく/miyauni)も人気で他と変わらずしっかり売れていますが、ボードブックの原価が高すぎたので黒字化はもう少し先になりそう。唯一の物語絵本『わにのだんす』(さく/今井 雅子、え/島袋 千栄)は手にとってもらえる動機づけ次第かなというところ。間違いなくおもしろいので機が熟すのを待て。

3期目もしばらく赤ちゃん絵本に注力しながらコンテンツを充実させていきます。
やりたい企画がどんどん湧いてくるのに進行が追い付かないもどかしさはありますが、もっと遊びたいのに休み時間が足りなかった子ども時代のような前のめりな気分は悪くない。
そんなエンブックスで絵本づくりをご一緒いただける作家さんがいらっしゃったらお声がけください。大歓迎です!

それから、この夏は絵本コンテストの審査員として南紀白浜にお招きいただいたり、オンデマンド製本サービスを大企業主催のプロジェクトで活用してくれたり、思いもよらない角度からのうれしいアプローチもありました。こちらもお声がけ大歓迎です!

仕組み化するって大事なことですよね。

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2019年4月30日に未来屋書店 幕張新都心店で『はい たっち』(さく/からさわ ようすけ)の刊行記念イベントを開催します!
作家からさわさん自身による読み聞かせ会のあと、「お子さまの手形をたっち」した絵本にサインをしてくれるメモリアル企画も。親子で「たっち」しに遊びにいらしてください。
#たっちでてがた

 


会場:未来屋書店 幕張新都心店
開催日:2019年4月30日(火・祝)
時間:14:00~
参加費:無料(予約不要)

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◎仕様

ゆきちゃんのおさいふ『ゆきちゃんのおさいふ』
ぶん・え/松村 真依子
定価/2750円(本体2500円+税)
対象/幼児から
2016年7月20日発行

32Pハードカバー製本(カバーなし)
サイズ/幅200×高264mm
ISBN 978-4-905287-24-7

*この絵本は受注生産でお届けします

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◎概要

幼稚園に通っている幼いゆきちゃんは、はずかしがりやなところもあります。
ある日、ずっと前から欲しかった「自分のおさいふ」をママからプレゼントしてもらいます。うれしくてすぐにでも使ってみたいゆきちゃんは、ママとスーパーに買いものへ。そこへ、不思議なリスのお店やさんが現れます。
リスが持ってきたステキな品物は、お金の代わりに「どんぐり」で買えるというのですが、モジモジしているゆきちゃんに、はじめてのお買い物がうまくできるのでしょうか。

 


◎作家プロフィール

松村 真依子
1985年、奈良県生まれ。京都精華大学でヴィジュアルデザインを専攻。在学中の2009年に「ボローニャ国際絵本原画展」に入選。2012年「日本童画大賞」入選。現在は都内在住で、娘ふたりを子育てしながら制作している。
▶ https://www.mayko88.com/

 


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