2008年度 IBBY世界大会(デンマーク・コペンハーゲン)レポート①

目次

  1. 2008年度 IBBY世界大会 レポート①
  2. 2008年度 IBBY世界大会 レポート②

 


IBBY大会テーマは「歴史の中の物語」

 

隔年で開催されるIBBY(国際児童図書評議会)の世界大会。2008年はデンマークの首都コペンハーゲンで行われました。大会といっても、何かを競い合ったりするものではなく、各国の児童書における研究報告や今後の展望について話をする大真面目な場です。

北欧デザインで知られるように、コペンハーゲンの街はやはり洗練されたナチュラルなイメージがあります。少し散策すると目に入ってくるのは、鮮やかな花、やさしい色の壁、豊かな水。そして、幼い子どもを乗せてのんびり走る自転車の多いこと。

レセプションはチボリ公園で開催されました。チボリ公園は1843年に開園した世界最古のテーマパークで、中央駅に近い街の真ん中に広大な敷地を有し、観覧車やメリーゴーランドがあります。

通されたのは、公園の一角にある、こじんまりとした、でもとても雰囲気の良い劇場です。世界各国から集まったおよそ400人で席はいっぱい。いろんな国の言葉が飛び交う客席は、それだけでも楽しい舞台の一幕のようです。

オープニングは、ピアノの演奏があったり、子どもたちによる合唱があったり、絵本を題材にした劇があったりと、どれもステキな演出のおもてなしで、会場全体がごきげんな空気に包まれます。

 


王女様にも会えた国際アンデルセン賞授賞式

 

華やかなプログラムのあとは一転、司会者がしばしの静寂へと誘います。静寂のまま、一同起立。扉からゆっくりと入っていらっしゃったのは、デンマークのマルガレーテ王妃です。絵本の世界ではなくて、現実の世界の王女様の登場に、会場が一気に盛り上がります。

「小さなノーベル賞」といわれる国際アンデルセン賞は、この世界大会で発表されます。世界中の児童文学にかかわる作家の中から、作家賞と画家賞のそれぞれ、たったひとりずつが選出されます。


2008年度の受賞者

作家賞
ユルク・シュービガー(Jürg Schubiger、スイス)
画家賞
ロベルト・イノチェンティ(Roberto Innocenti、イタリア)


舞台の上では、マルガレーテ王妃から、現在の世界最高峰の童話作家と絵本画家のふたりへ、アンデルセンの肖像を象った金メダルが贈られました。金メダルも眩しかったけど、3人の立ち居振る舞いがそれ以上に眩しくて、本当に夢のような時間でした。

 


ロベルト・イノチェンティさんとの赤面エピソード

 

授賞式後のパーティ会場に、イノチェンティさんを見つけた僕は、思い切って「授賞式とっても素晴らしかったです」と、声をかけました。それでおもむろに、当時勤めていた会社案内を差し出すと「ぜひ一度ウチの絵本を読んでみてください」と、お願いしました。

すると、仕立てのいいスーツから、これまた仕立てのいいペンを取り出して、さらさらとサインを書くと「はい、どうぞ」と、会社案内が僕の手元に戻ってきました。きっと連日のサイン攻めで、無意識に反応してしまったに違いありません。お茶目な絵本作家さんのおかげで、とても大切な宝物ができました。

その後、少しのイタリア語を話す日本人が珍しかったのか、視線が合うたびに挨拶を交わしてくれるイノチェンティさん。すっかり打ち解けた気分になって「チャオ、ロベルト」なんて気さくに声をかけていましたが、今となってはアンデルセン賞画家の懐の深さがわかる赤面エピソードです。

 


国境のない多様な空間で感じた大切なこと

 

翌日からはいくつかの会場に分かれて、様々なテーマを掲げた講演や勉強会が行われました。こうやって各国の児童書事情を共有し、良いところも、課題も含めて、またそれぞれが持ち帰り、次の創作につなげていきます。

大会最終日は、コペンハーゲン市長の計らいで、市庁舎の1階フロアは世界中の絵本作家によるイラストレーション原画展会場になりました。絵を眺める人。絵について談笑する人。作家の名前をメモする人。絵と一緒に写真におさまる人。

2階フロアは今夜のための特別なパーティ会場に。重たそうなシャンデリアが天井からぶら下がり、テーブルはどこまでも長く、向こう側がぼんやりするほどです。

テーブルにはデンマークのごちそうが並びます。食器はすべてロイヤルコペンハーゲン。デンマークのデンマークらしいおもてなし。まるで映画の中の貴族にでもなったような気分で、ナイフとフォークの持ち方まで上品になるようです。料理をお皿に盛りながら、テーブルに沿って歩きます。硬い石の床は、歩く度にコツコツと革靴の底を心地よく響かせます。「こんばんは」「ごきげんよう」おいしい食事に会話も弾みます。

ここに国境はなく、とても穏やかで、平和で、それでいてエキサイティングな時間が流れます。実はこれこそが世界大会の醍醐味であって、そのことを知るために、あるいは思い出すために隔年で集まるようになったのかと思いました。僕たち絵本にかかわるもの全てが、子どもたちに伝える大切なことのひとつとして、この素晴らしい数日間の体験を心に留めておきたいです。

西川季岐(編集長)

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