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編集長の読書感想文 一生懸命が愛おしい 大切なことがいろいろ詰まった名作『たんじょうび』

『たんじょうび』

文・絵/ハンス・フィッシャー
訳/大塚 勇三
定価/1540円(税込)
対象/4歳から
福音館書店
1965年10月1日発行

 


10月20日、これは誕生日にぴったりの絵本だと開いてみました。
ハンス・フィッシャーの絵は、好みか好みじゃないかでいうと、超好み。躍動感のある筆づかいにほれぼれします。

リゼッテおばあちゃんは、ネコやイヌやメンドリやヤギなど、たくさんの動物たちと一緒に幸せに暮らしています。今日は、おばあちゃんの76才のお誕生日。おばあちゃんが村へ買い物に行っている間に、動物たちはお誕生日のお祝いをしようと大奮闘します。ロウソクを76本買いにいったり、卵を36個も産んでケーキを焼いたり、花をつんだり……。

そこは2019年の東京とはまるで違う景色。(たぶんスイスの)森の奥にある広々とした家では、動物がおしゃべりすることもすんなり受け入れられます。世界観をつくる画家の説得力だよなあ。

おばあちゃんのために力をあわせて、体より大きなケーキを焼いてあげるシーンでは、これでもかと散らかったキッチン。案の定というか読者としては期待通り、まっくろ焦げに焼きすぎたケーキ。その焦げを白い砂糖をかけて隠しちゃうところ。現実だと「マジか!」という展開のすべてが微笑ましい。

ラストがまた最高にやさしい。来年の誕生日、おばあちゃんは祝う側にもなって、ますますにぎやかになるんでしょうね。しあわせってこういうことなのよ。

ちなみに、大塚勇三さんといえば『スーホの白い馬』や『ウルスリのすず』の翻訳者。その国の空気ごと訳す大塚さんだから成立したすばらしい絵本だと思います。

西川季岐(編集長)

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