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目次

  1. 『おかゆ』に込めた想い 前編
  2. 『おかゆ』に込めた想い 後編

 


息⼦と私のつらい離乳⾷

私は、元料理⼈で⿂屋に嫁いだ2児の⺟です。
料理を作り提供する飲⾷業、⾷材を業者に卸す鮮⿂卸業。ステージの違いはありましたが、共通する「食」という⼤きな枠にずっと携わりながら仕事をしてきました。環境に恵まれ、仕事に留まらず、私⽣活における「⾷」も楽しめる⽣活を送っていました。
それが「つらい」と、初めて思った瞬間があります。
⻑男の離乳⾷です。

初めての育児で試⾏錯誤、⼤奮闘していましたが、「離乳⾷は⼤丈夫。⾃分は得意だろう」と思っていました。ずっと「⾷」に携わってきたし、今までのように⾃分が頑張ればうまくいく! と。
その時はまさか「⾚ちゃんが離乳⾷を⾷べない事がある」なんて思ってもいませんでした。

 

順調に進んでいた離乳⾷。突如、息⼦が⾷べなくなりました。
⾷べてはベー。⾷べてはベー。いよいよ口も開けなくなり、スプーンを⾒れば踏ん反り返る。必死になだめ、椅⼦を降りたがる息⼦を何とか座らせようとする私。
⾷べない離乳⾷を作り続け、口に⼊る事なく⽚付ける毎⽇にうんざりし、とうとう0歳の息⼦に向かって「なんで?」と口に出してしまいました。⾷材にこだわり、⼿をかけて作っているのに「なんで?」。

家族は離乳食を⾷べない息⼦より、落ち込み、神経質になってきている私を⼼配しました。
「気にしすぎ」「あまり神経質にならない⽅がいい」「そのうち⾷べるよ」。
良かれと思ってかけてくれた⾔葉も「何もわからないくせに」と響くことなく、孤独を感じるようになり、そこで初めてキッチンに⽴つのが「つらい」と感じました。
作っても喜ばれない。泣かれる。作ったものを全て、流して⽚付ける。こんな事、それまでの料理⼈⽣で⼀度もありませんでした。

何より、⼤切な⼤切な我が⼦は、このままずっと⾷べないままなのか。
参考にしていた離乳⾷本の進⾏通りにいかない事で、この⼦の成⻑に影響がないか、⾷べることに興味のない⼦に育ってしまうのではないか、⾊々な不安が巡って、息⼦と⼀緒に泣けてきてしまう時もありました。

 

「もう、やめ。ぜーんぶ、最初からやり直そう。」

離乳⾷開始から2カ月経過して、徐々にステップアップはしていましたが、オールリセット。
私の気持ちも全部リセットしたい。本当はそれが⼀番の理由だったかも知れません。

新しい⾷材にチャレンジとか、ステップアップとか、もう何も望まないことにしました。0歳の息⼦にとって「元料理⼈」「料理経験者」は全く関係ないのです。仕事の様に、⾃分が頑張れば頑張るほど結果がついてくる訳じゃない。むしろ、頑張れば頑張るほど、逆効果だったのかも……。ふり出しに戻ってみて、そう思える様になりました。

とにかく、パクッと⼀⼝。そんな息⼦が⾒たいだけ。
その時作ったのが、⾚ちゃんが⺟乳以外で初めて⼝にする「10倍かゆ」です。離乳⾷への期待を望まずに作ったおかゆ。
息⼦はびっくりするほどあっさり「パクッ、パクッ」っと⾷べてくれました。

「何がいけなかったの? 何がよかったの? って正直わからないけど、確実に⼀歩進んでくれた。親としての試練と喜びをありがとう」。
と、当時の⽇記にそう記してありました。
この時の経験は、私にとって無駄ではありません。そのおかげで、今の⾃分がいるのだから。

 


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  1. 『おかゆ』に込めた想い 前編
  2. 『おかゆ』に込めた想い 後編

 


おかゆを好きになれたら、離乳⾷の半分はクリアです

離乳⾷の専⾨知識を学び、2児の離乳⾷を経験した今の私は、⻑男の離乳⾷でつらい思いをした当時の⾃分の様に悩みを抱えたママに、かけてあげたい⾔葉やアドバイスを伝える事ができる様になりました。

その中でも⼀番お伝えしたいのが「おかゆ」です。
離乳⾷においておかゆは、⾚ちゃんが⺟乳以外で初めて⼝にするもので、⾚ちゃんの成⻑にとても⼤切なもの。そして、約⼀年間の離乳⾷期間で⾚ちゃんが⼀番⾷べることになる、ママが⼀番作ることになるものでもあります。
だから、「⾚ちゃんもママもおかゆを好きになれたら、離乳⾷の半分はクリアだ!」と私は考えています。
⾷べられない⾷材が出てきたり、なかなか進まないことがあっても、それくらいの楽な気持ちでいて欲しいと思います。

また、⾚ちゃんはおかゆができあがるまでの⼯程を実際に⾒る事は少ないと思います。だいたい⾚ちゃんが寝ている時に、おかゆを作りますもんね。
この絵本では、おかゆができあがるまでの、お⽶は「さらさら」なんだ、お⽔で「じゃあじゃあ」するんだ、お鍋で「ぐつぐつ」するんだ、など、⾚ちゃんが実際に⾒る事がないシーンを描いています。
離乳⾷で⼤切だと考えられている「五感を刺激してあげる」という点を意識して、擬⾳語を⽤いているのも特徴です。ぜひ、⼤⼈もみなさんも一緒に感じ取りながら、⾚ちゃんに読んであげてほしいと思います。

絵本だからこそ、ゆっくりじっくり「おかゆができあがるまでのワクワク感」を親⼦で味わえるんじゃないか。絵本であれば、離乳⾷期前の⾚ちゃんにも、おかゆを知るチャンスを与える事だってできます。⾷べる事への興味を掻き⽴てる事ができそうです。

 


ママの笑顔は魔法のスパイス

⾚ちゃんは「美味しければなんでも⾷べる」とは限りません。ママの笑顔こそが魔法のスパイスなのです!
あの頃の私の様に、不安な顔で眉間にしわを寄せていては、⾚ちゃんも同じ気持ちになってしまいますよ。どうか、離乳⾷はママも楽しんで欲しい。⾚ちゃんとママ、両⽅の笑顔で溢れた時間であって欲しいと願っています。

だから、ママが⾚ちゃんに「あーん」としているシーンは特にこだわりました。「ママの満⾯の笑顔を表現したい!」という想いを作画の川崎由紀さんが叶えてくれました。

表紙を初めて⾒た時はとても感動しました。
『おかゆ』というタイトルだから、もちろん「おかゆの絵が表紙になるのだろう」とは思っていましたが、そこにはママの⼿が添えられていたのです!

⾚ちゃんに「あーん」をする瞬間の⼀コマです。私が⼀番⼤切にしているシーンです。
川崎さんはこの作品に取り組む前に、実際に離乳⾷をあげている友⼈親⼦を取材され、ご⾃⾝でも何度もおかゆを作り、熱い想いを持ってこの絵を描いてくれました。川崎さんの気持ちと、私の気持ちが繋がった! と思った瞬間で本当に嬉しかったです。

 


離乳⾷はじめの気持ちを忘れずに

離乳⾷では、たくさんの⾷材を経験することとか、⾷べるための練習とか、ミッションが多いイメージがあると思います(もちろんとても⼤切なことです)。
ただ、離乳⾷をはじめた頃はミッションの前に、⾚ちゃんの⼀⼝パクッに感動し、楽しめていたはず。それが、だんだんステップアップしていくにつれて、他の何かと⽐べたり、教科書通りにいかないことを不安がったり、焦ったり……誰でもそうなってしまうから不思議です。⼤丈夫。あなただけじゃない。みんな⼀緒です。

私にとっておかゆは、「はじめのおだやかな気持ち」を思い出させてくれたもの。
絵本『おかゆ』が、これから離乳食をはじめる親子の不安を楽しみに変えてくれると信じているのはもちろん、私と同じ様に立ち行かなくなってしまったママの「はじめのおだやかな気持ち」を思い出すきっかけを与えるような作品になったら嬉しいなと思います。

 


あとがき

絵本専⾨⼠の野⽥英里さんから「⾚ちゃんに関わる味覚や、出汁等の絵本制作を考えている編集⻑さんがいらっしゃる」とご紹介いただいたのが、出版社であるエンブックスの代表 ⻄川さんとの出会いのきっかけです。

⻄川さんは、0歳児を対象とした「⾷の絵本」を制作しようとされていました。「0歳児、特に⼩さい⾚ちゃん向けの絵本」は世の中にたくさん存在しますが、その中でも、「味覚や出汁」「離乳⾷」に着⽬した絵本はあるのかな? と考えてみましたが、私は思いあたらずにいました。
絵本編集のプロ⻄川さん、絵本読み聞かせのプロ野⽥さん、そして私。光栄なことに私は、そのお⼆⼈とお話する機会をいただきました。
⾚ちゃんの⾷というと「離乳⾷」です。離乳⾷の領域には様々なキーワードがあり、味覚や出汁も確かになくてはならないテーマ。ですが、離乳⾷のはじめの⼀⼝が「おかゆ」である事、そして、そのおかゆに対する私の強い想いを真摯に受け⽌めてくれました。

「この絵本を通じて何を実現したいのか」という相談の中で、「私の様に離乳⾷で悩むことが多いママが⾚ちゃんと⼀緒に楽しめる」「⾚ちゃんに⾷べる事への楽しみを与えられる」というコンセプトが決まっていきました。この絵本はその対談がなければ⽣まれていなかったものです。

私を対談に参加させてくれた野⽥さん、そして、この絵本づくりに携わるチャンスをくださった⻄川さんに⼼から感謝申し上げます。

 


おかゆのつくりかた動画

 


note連動企画

離乳食にまつわるあれこれを「#離乳食わたしの工夫」もしくは「#離乳食わたしの気持ち」をつけて投稿してください。
募集期間:2021年10月14日から11月20日まで
https://note.com/mediapal/n/n210b304e59e1

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