ちょうど僕が就職活動をしていた時代、入社試験に「だんご3兄弟について述べよ」という問題があったことを鮮明に覚えています。それくらい「だんご3兄弟」は大ブームを起こしました。
それを仕掛けたのが佐藤雅彦さんで、僕の最も尊敬するクリエイターのひとりです。
名前は知らなくても、湖池屋の「ポリンキー」やNECの「バザールでござーる」のテレビコマーシャルを記憶している人は多いと思いますし、あるいはソニーから発売されたパズルゲーム「I.Q」にハマった人、NHKの「ピタゴラスイッチ」に釘付けになった人は、みんな佐藤さんのクリエイティブを楽しんだことのある人です。
その佐藤さんが2013年に紫綬褒章を授与された際のインタビューは、今でもときどき振り返ってみています。ずっと表現に関わってきたトップランナーの言葉は、貴重な先人の知恵です。
人類の歴史で、これほど簡単に誰でも先人の知恵を共有できたことはありません。そのため、知っていることの優位性は薄れますが、圧倒的に高いステージから創作をスタートできることは幸運な時代だと思います。
(以下、インタビューより抜粋)
ジャンプをするために大切なのは、うまく待つことと、ものすごく研究すること
表現を解釈する人、テレビだったら視聴者、書籍だったら読者は鑑賞者としてプロだと思っています。
受け取る人にとって、「あ、これは新しい分かり方だ」ということがないと、その表現を認めてもらえません。いつもそこで何らかのジャンプが行われなくちゃいけません。過去の表現を流用したりすると軽く見抜かれてしまいます。
やったことがなくて、やられたことがなくて、まだ言語化されてないけれど「これは面白いんじゃないか」というものを見つけること。ジャンプしたあかつきには言語化できます。大切なのは、うまく待つことと、ものすごく研究することだと思います。
作り方をつくる。自分の「表現方法論」をつくって具体的にする
コマーシャルを作っていた時期は、作り方をつくっていました。
自分の表現方法論を作っては、それを具体的に、例えばトヨタ自動車から「カローラⅡ」の依頼がきたら「映像は音から作る」という方法論で「カローラⅡに乗って♪」と小沢健二が歌ったら、すごくカローラⅡのブランドが上がるとか。
NECから店頭フェアのCMをやりたいと言われた時、いいネーミングがないという時は「濁音時代」という方法論がありました。「ダースベイダー」「午後の紅茶」とか濁音がやけに強いという方法論ですが、そのときに「バザールでござーる」や「だんご3兄弟」など「濁音時代」での方法論で作りました。
その時から表現方法論を作っては試していました。何百本も作った後に自分はこの表現方法を作りたかったんだということが分かりました。
新しいものを作るとき、作り方が新しければおのずとできたものも新しい
新しいものを作るとき、作り方が新しければ自ずとできたものも新しいということを教えています。
みんなに言っているのは、作り方を作るということです。いきなりマニュアルを教わって作るというやり方もあるが、そうではなくて作り方を作る。
テレビコマーシャルの作り方を「音から作る」とか、それまでの作り方をちょっと変えたんです。そうすると、みんな「なんか違うぞ」と思う。表現を目指している人たちではなく、新しい製品や新しい事業を作る人にもそう大学で教えています。自分の作り方ってすごく自分のオリジナルがそこに入ります。
子ども時代に何かに熱中したことがある人は本当の面白さを知っている
小さいころ虫も魚も、遊びも自分で作ってものすごく夢中になっていました。
「study」だと勉強と訳すが、その語源はラテン語の「studious」で夢中になる、熱中する状態のことです。「studious」になることを覚えた子どもだったら、将来表現をやろうと、研究をやろうと、物を作る人になろうと集中の仕方がわかっているので自分のやりたいことに到達できます。
一番いけないのは体裁だけを整えて「こっちのほうが見映えがいい」とか表面だけのことを覚えて取り繕うことだけが巧みになると。
一度熱中した経験がある子は何が本当に面白いのか分かります。「これが面白いですよ」とかいっぱい情報がありますが、そのときに大事なのは自分の考え、自分の意見です。「なんだつまんないじゃないか」とか「なんか世の中間違っているな」と思ってもいいと思います。
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