作/長野 ヒデ子
定価/1430円(税込)
対象/幼児から
童心社
1993年7月15日発行
「赤ちゃんだからできない! ママやって!」
最近、3歳長女の赤ちゃん返りがひどい。すぐ「できない!」と泣きわめく。
そんな時、こちらも忙しいとつい
「1人でやりなさい! 赤ちゃんじゃないんだから」
と言ってしまうことがある。
叱られると、長女は目に涙をいっぱいためて黙るくせがある。
そんな様子を見ると心が痛むのだが、毎回優しく付き合ってあげられるわけではないのだ。
長女が1歳くらいの頃から、わが家では寝る前に絵本を一冊読むのが日課だ。
赤ちゃん返りをした日の長女はよく『おかあさんがおかあさんになった日』という絵本を持ってくる。
おかあさんは期待と不安の中、はじめて赤ちゃんを生んだ日、おかあさんに。
臨月を迎えた1人のお母さんが、赤ちゃんを生むために入院するところから話が始まる。
お母さんは「赤ちゃんに早く会いたいなあ」とわくわくしながら病院の中を散歩する。やがて陣痛が始まり、とうとう赤ちゃんに会える瞬間が近づいて……。
子どもは皆、自分が赤ちゃんの頃の話を聞きたがる。自分が愛されていることを実感できるからだ。長女ももちろんそれを聞きたくてと思っていたが、この日は違うことを言ったのだ。
「次女ちゃんが生まれた時も喜んだ?」
わが家には、もうすぐ1歳になる次女がいる。
長女は、いつもヨチヨチ後をついてくる次女が煩わしいのか、よく「来ないで!」と怒っている。本当は次女のことが嫌いなのではと気になっていた。
長女はまだ3歳。甘えたい気持ちもたくさん持っているだろう。
長女はきっと、「赤ちゃん」の次女と、「赤ちゃんではない」自分を分かっている。
彼女は少しずつだけど、確かにお姉ちゃんになりつつある。
絵本を読み終わった頃には長女は寝ていた。
長女はいつも、私のひざやお尻にしがみついて寝る。
なぜなら、私が次女を抱いているせいで彼女の方を向けないからだ。でも長女から「私も抱っこして」と文句を言われたことは一度もない。
私は絵本を閉じて長女を抱きしめた。
あなたが生まれてくれたから、私はお母さんになれたんだよ。
優しいお姉ちゃん、生まれてきてくれて、本当にありがとう。
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