ベルギーに引越し?! 疲弊からの脱出 はるのまいさん制作インタビュー その⑤

―モチーフ探しに、展開案出し、優れたアイデアを活かすための工夫について、考えることが山ほどありました。
このころは編集者からのつっこみが多すぎてお疲れだったと思います。

その頃は、絵本づくりでの疲弊もありましたが、プライベートでの疲弊が大きかったと思います。家族の仕事でベルギーに2年転勤するという話になり、ちょうどラフのやりとりをしていた時には、船便の荷物の整理やら買出しやらをしている時期でした。

産後3ヶ月目から、週1でやっていた英会話を子供連れで再開し、出国予定の数ヶ月前から、週2のフランス語のレッスンも追加でやり始めて。初めての子育てを海外で数年する、しかも英語圏じゃない場所で、というので、出産前からずっと緊張が続いている状態でした。

わたしは小心者で、思いつく限りのあらゆる事態をシミュレーションしてからでないと前に進めないタイプなので、病院やら住まいやら、リサーチにも相当の時間を費やしました。

ロンドンにいた時は大人だけだったので気楽なものでしたが、海外だと日本のように物事がスムーズにいかないことも、経験としてよくわかっていたので、それが子連れ、英語が通じるとは言え英語圏じゃない場所だと、一体どうなるんだろうな、と。

だからそんな中で、ようやく絞り出したラフに、西川さんから速攻で容赦のない返信が来ると、ものすごく精神的に参りました。これだけ育児も渡航準備も語学もがんばって、これ以上一体何をがんばればいいというんや?! と。


▲絵本づくりと並行して準備していた語学。テキストの数がはるのさんのいう「小心者」の安心材料?

 

―はるのさんの創作に向かう気分をどうやったらあげられるのか、作家さんの性格も様々なのでいつも難しいと思います。

冷静に考えたら、作家がプライベートでどんな苦労をしているかなんて、そんなの読者の方の知ったこっちゃないことですよね。完成した絵本が、すべてですから。

だから編集者の西川さんからは、このやりとりを通して「絵本作家のプロ」としてどうあるべきかを教えていただいたと思います。

自分がどんな状態であれ、読者の方に最高の状態のものをコンスタントに届ける、そして常に、今まで以上のものを目指す、それがプロなんだと。

イラストの仕事でも、それはわかっていて心がけていたつもりだったのですが、絵本づくりはもっと自分の中の、根源的なものを問われ続けたので、それと向き合うのがちょっとしんどかったですね。シンプルって本当に難しいと思いました。

 

―もがきながらも「なぜ描くのか」がストンと腹に落ちた感じを受けました。
ここを乗り切ったくらいから、僕の中でも「出版」が現実の計画になっていきました。

今回の絵本は、縦にめくる仕様にしたのですが、そうしようと思ったのも、その頃に編集者さんからこの絵本の特徴となるもう一工夫を、と言われたからです。

「ぽわーん」という風船の場面をまず描きたかったのですが、迫力を出すにはやっぱり縦のほうがいいな、じゃあ手前に手を描いたら、ふうして次のページの紙をめくるのも、動きとして自然かな、とこのようにしました。

 

―アイデアが「作品」として見事に成立しましたね。

この作品を「いける」と感じたのは、ベルギー行きが会社都合で突然なくなった時ですかね(笑)。渡航予定日の1ヶ月前で、アパートも解約手続きとか終わっていて、船便で半分荷物も送っちゃっていたのですが。

あれだけ準備したのに……と本当に脱力でしたが、ずっと精神的にも落ち着かない状態だったので、日本に留まれることになって、これで絵本に集中できるぞ、とも思いました。

渡航準備で失った時間を考えるとめちゃくちゃ悔しくて、今でも思い出すと悔しいのですが(笑)。絶対に日本にいることになってよかったと思えるような未来をつくろう、と気持ちを切り替えました。結果的に、それが絵本を仕上げる原動力にもなったので、よかったと思います。

 


▶ 続きを読む

西川季岐(編集長)

This website uses cookies.