エンブックスの絵本の累計実売が10,000冊を突破しました

ペーパーバック絵本のレーベルとして2010年にたちあげた時は、こわいものなんて何もなくて、それは今思えば無知の強さでした。
無知は時に無敵で、絵本の版元として何の実績もないことなんておかまいなしに夢を語りました。国際コンクール受賞作家に体当たりで創作を依頼して、運よくご一緒できた1作目が、『こわくないもん』(ぶん・え/そのだえり)です。

今じゃ到底考えられない初版冊数を刷って、当時住んでいた高円寺の8畳ワンルームに山のように納品されても、無知だから平気。無知だから、それが書店に並べてもらえないことがわかっても平気(いや、ちょっと焦った)。その後も、立て続けに4作のペーパーバック絵本を作って、気がつけば生活スペースと貯金がなくなっていました。

無知よさらば――。目の前の現実を通じて、出版事業の難しさを知れば知るほどこわくなっていく日々。そうだ、無敵状態って有限だってマリオが教えてくれてたっけ。

それでも、エンブックスはいつだってご一緒してくれる作家さんに恵まれていたし、子どもに対して正直に、良いコンテンツを作っている確信はありました。それに結局、絵本づくりは楽しい。
だから、すっぱりやめてこわさから逃げ出すこともできず、試行錯誤と執念でなんとかやっています。

累計実売(*)10,000冊を通過して思うのは、ある朝、目が覚めたら10,000冊の絵本が売れていました、なんて絵本のネタにもならない夢物語だよなあ、ってことです(貯金がなくなる体感速度は、まばたき1回だったけれど)。
1の次は2、146の次は147、3568の次は3569以外にありえない。もう一切のショートカットが許されない世界。こつこつと1冊ずつ積み上げることでしか、ここにはたどり着くことができないという、当たり前のことを実感しています。

オリンピックで金メダルを獲ったとか、宝くじで大当たりしたみたいな、一夜にして世界が変わるよろこびとは全く違うタイプのものなので、この先もこつこつと積み上げていっては、ときどきやってくるマイルストーンでちょっと振り返ってみて「おおー」と景色を楽しむくらいなんだろうと想像しています。

去年の8月に法人化して、書店流通を本格化するぞって宣言してから、ありがたいことに『なでてなでて』(絵/日隈みさき、文/西川季岐)と『ぱたぱたえほん』(さく/miyauni)が立て続けに重版になって、新刊『ふうしてあそぼ』(さく/はるのまい)も、初回流通で倉庫在庫がわずか100冊。重版出来です。

知ることで無知の強さは失ったけれど、壁にあたっては考え、工夫をしてきたおかげで、だんだんとやるべきことが分かってきました。無敵じゃなくなったけど、2010年のエンブックスよりはトータル強くなっているはず。

最近は「本質」が自分の中で大きなテーマです。それでいうと、エンブックスは絵本を作っているんじゃなくて、親子の時間を作っている会社なんだと考えるようになりました。それが本質だから。「親子の時間を作っている会社」って、我ながら良い仕事じゃない。

さすがに車輪が大きくなってきて、そろそろ「ひとり出版社」も卒業したい。10万部、100万部のマイルストーンも、この道の先にあるんですよね。

(*)実際に書店に流通している部数と返本率から算出しています

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