書店数減少は出版界の新陳代謝

7月下旬に紀伊国屋書店新宿南店の撤退が決まりました。
こういうニュースが流れると、「書店で本を買おう」とか「Amazonのせいだ」とか、まるで書店が予期せぬ力で潰されたかのような声を聞くことがあります。でも、それって本当でしょうか。

 


書店は減っているのではなく、より良く整理されている

 

確かに日本の書店はどんどん減っています。2003年からわずか10年で書店数が4分の3になったというのは、かなりインパクトがあります。

2016書店数推移

ところが、実際に店舗を持っている書店に限ってみれば、減少は15%に過ぎません。さらによく調べてみると、書店は一方的に潰れていっているわけではなく、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返しながら、大型書店へ集約されていっていることがわかります。(紀伊国屋書店新宿南店は大型書店ですが、新宿本店のみに絞るという意味での集約だと思います)

例えば、僕の家の近所に書店が2つ、ひとつは商店街の小さな本屋さん、ひとつは駅前の大型書店、がある場合、まず間違いなく大型書店に行きます。もう買うと決めている本を求めるにしても、思いもしない新たな出会いを求めるにしても、大型書店に行ったほうが確率が高いからです。

書店が取次を通じて本を仕入れる以上、そこで扱われる商品は全く同じものなので、量で勝負ができなくなった書店は淘汰される。今起きていることは単純明快、ごく当然の流れです。

 


書店が減っても10年前より不便になったとは思わない

 

そもそも、Amazonだって書店だということを忘れてはいけません。ネット書店があるからリアル書店が潰されるなんていうのは勝手な思い込みで、実際は読者にとっての「不」を抱えた書店がなくなっていっているだけ。だから、実感として10年前よりも本が手に入りにくくなった、と感じる人はほとんどいないはずです。

読者にとって価値のある書店は絶対に潰れません。今後も書店数は減って、1万店舗を割り込むことはあっても、必要以上になくなることはありません。読者はわざわざ「書店で本を買おう」なんて心配しなくて良くて、自分の好きなように本を求めれば、それにともなって世界が最適化していくと思います。

 


これから必要とされるのは本屋の個性

 

絵本には専門書店があります。そういう書店のオーナーは、僕のような編集者よりも遥かに知識が豊富です。だから、自分が売りたい本が明確で、決して受け身の仕入れをしません。オーナーの好きが詰まった棚は、読者にもちゃんと伝わるので、「絵本を買うならあの書店に行こう」となるわけです。むしろこじんまりとした、棚の隅々まで目が行き届くくらいの規模だからこそ、どんな大型書店にも、どんな人工知能にも負けない強みを発揮できるともいえます。

世の中には、わけあってエンブックスのように取次を通じた書店流通ができないけれど、クオリティの高い絵本もたくさんあります。取次まかせの受け身の仕入れではほとんど見つけることができない絵本も、オーナーさえその気になれば、出版社から直接注文をすることができる。そうやって自分の目で仕入れた絵本が並ぶ棚は、他のどんな書店とも違う、そこだけのとっておきです。

そういう意味では、今エンブックスの絵本を手に取ることのできる書店は、相当すごい目利きの書店員さんがいるということで、間違いなく生き残っていく書店だと思いますし、そういう書店が増えていけば、エンブックスにとっても読者にとってもうれしいことです。

リアル書店が大型化し、ネット書店が効率化を進めるなら、町の書店は個性でアプローチするしかありません。あの本屋さんは辞書に強い、あそこは歴史に関するものが豊富、医学系ならあのオーナーより詳しい人はいない……僕たちが行きたくなるのはそんな書店です。

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