2019年最初の絵本『はい たっち』(さく/からさわ ようすけ)が、楽しくかわいくできました。
実は、作家のからさわさんとは10年来の知り合いで、当時からさわさんは「ボローニャ国際絵本原画展」の入選作家として、一方の僕は絵本作家を目指す美術学校の学生として、イタリア・フィレンツェに滞在していた時でした。
編集者として絵本に関わるようになって以来、いつか絵本づくりをご一緒できたらと口説き続けて、ようやく念願叶った思い入れのある作品です。
まだ発売前ではありますが、おかげさまでAmazon新刊予約ランキングで1位を獲得することができ、エンブックスとしては2作連続の1位獲得となりました。
誰が言ったか桃栗三年柿八年という通り、立ち上げからちょうど8年目にして、実りが得られつつあります。
からさわさんの作家としての決意もまた、大きな実りのひとつです。
少し昨年を振り返ると、既刊では『なでてなでて』(え/日隈 みさき)が、ちょうど発売から1年目を迎えた10月期に、見事に採算分岐点をクリアして黒字転換することができました。
エンブックスとしてはじめての重版があり、よろこびながら追加資金のやりくりに難儀しましたが、順調に売上を積むことができたのは、作品の持つ力だと思います。
続く『ぱたぱたえほん』(さく/miyauni)についても、売上部数は『なでてなでて』と変わらず、順調に伸ばしています。
ボードブック(厚紙製本)で仕上げたので、採算分岐点は高くなりましたが、確実にそこをクリアする時はやってくるだろうと思います。
「ベストセラーよりもロングセラーを」というのは、おそらく本気で絵本づくりに関わる人たちの共通の願いです。
優れた絵本は、一時期のブームで終わらず、長く子どもたちに愛され、読み継がれていくからです。
福音館書店・月刊「こどものとも」編集長の関根里江さんが、ロングセラー絵本とは「1回に1万冊以上を刷っていて、それが100刷を越えて、50年くらい経った本」とおっしゃっていて、その定義からすると、とてもとても小さな規模ですが、1年かけてしっかりと採算を合わせられたことは、新しいロングセラー絵本の仲間入りをする資格を読者に与えてもらったようなものだと思っていて、素直にうれしいです。
売上の進捗率としては、2期目に入った2018年8月から5カ月の時点で、すでに1期目(2017年8月〜2018年7月)の70%程度まで伸ばしてきています。
絵本界はイケイケドンドン右肩上がりの市場ではありません。
だからといって、悲観的になるような市場でもなく、進む少子化や縮小する出版界の中にあって、不思議と揺るがない安定感があります。
それは絵本というコンテンツが、単に楽しい時間を消費するだけの娯楽ではなく、親子時間を豊かにする本質的なところに在るからなんだと思います。
忙しない時代背景がその価値に改めて光をあててくれたような気もします。
超がつくロングセラー絵本『いないいないばあ』(文/松谷 みよ子、絵/瀬川 康男、童心社)は、1967年の発売から50年を迎えた2017年に、20万部の増刷をしました(2017年度 児童書ランキング7位)。
まさに本質の強さの証で、こんなとんでもない現象が起きているコンテンツは他にありません。
8年前、僕が絵本界に対して持っていたのは危機感でした。確かにロングセラー絵本は今も変わらず強い。でも、並行していつのまにか新進作家の活躍の場も増えてきました。絵本界全体の総力で、風向きが変わってきた。2019年をそんな印象で迎えています。
絵本出版社の年間発行点数(2017年)でみると、偕成社が88点、童心社が79点、福音館書店が69点に対して、エンブックスは2点。今期は7点の計画で進めています。
親子時間を豊かにする優れたコンテンツづくりという点では変わらず、この明らかに不足しているラインナップを確実に強化していきたいと考えています。
すでに昨年から取り組んでいるのは、NPO法人子育て学協会とのコラボ絵本です。内容やご一緒できる素晴らしい作家さんのことは、まだお伝えできませんが、僕自身とてもワクワクしながら創作しています。
東京芸術大学教授の佐藤雅彦さんが「作り方を作ると、自ずとできたものは新しくなる」と言っていて、このコラボ絵本は、まさにエンブックスの新しい一面を見せられる試みになると思っています。ご期待ください。
初詣でひいたおみくじには「驕るな」とありました・笑。その言葉から、今年は何かしら驕ってしまうような場面があるのかもしれない、もし絵本が飛ぶように売れたとしても、驕らず精進せねばと気を引き締めているところです。
身の丈にあわせてコツコツと。実のなる柿の木が育ちはじめたエンブックスの年間発行点数が5倍、10倍に伸びたときの景色が今から楽しみです。
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