幼児向け

『いちご』

作/荒井 真紀
定価/1650円(税込)
対象/幼児から
小学館
2020年2月19日発行

 


食べることが大好きな長女と違い、もうすぐ1歳の次女はあまり食に興味がない。

食卓の椅子に座らせても嫌がって抜け出そうとするし、ちょっと食べたらすぐに遊びたいと泣き出してしまう。困ったものだ。

一方の長女は全く逆で、ご飯を食べたくて自ら椅子によじ登るような子だった。
姉妹でこれほど違うのかとびっくりさせられる。

そんな次女に私がいつも「○○(食材)おいしいよー」を連呼していたせいなのか、ある日、長女が『いちご』という絵本を次女に見せて、「いちごおいしいのよ!」と説教たれていた。

いちごを食べると口の中でプチプチプチと音がします。何の音でしょう? いちごの苗を植えて育ててみましょう。どんな風に葉っぱは生えていますか? 絵本を見ながら自然観察をたのしめる一冊です。

色鉛筆でみずみずしく描かれたいちごが何ともおいしそうな挿絵の『いちご』。
いちごを土に植えてからの成長を追ったり、種の数を数えたり……。とにかくいちごづくしの絵本だ。読むとどうしてもいちごが食べたくなってしまう。

長女はいちごが大好きだ。次女に『いちご』の挿絵を見せながら
「ちゃんと座りなさい! いちご食べなさい!」
「よく見て! いちごケーキ(ショートケーキのこと)なのよ!」
とどなっている。

実は、次女にはまだ食べさせていないのでいちごを知らないのだ……。

当の次女はというと、お姉ちゃんに遊んでもらっていることが嬉しくて、小さな人差し指を挿絵のいちごに向けてニコニコしている。

もうすぐ次女の誕生日がくる。
小さなお母さんになりきっている長女のおかげで、もしかしたら次女がいちごを食べるかも知れない。なので、バースデーケーキには真っ赤ないちごを乗せてみようか。
仲良くケーキを食べる姉妹が目に浮かび、思わず口もとがほころんでしまいそうになる。

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『たぬきのひみつ』

作/加藤 休ミ
定価/1430円(税込)
対象/幼児から
文溪堂
2019年6月6日発行

 


「○○ちゃんって呼ばないで! プリンセスだから」

最近「ディズニープリンセス」にどっぷりハマり、プリンセスになりきっている長女。特に教えたつもりはなかったのだが、保育園のお友達に教えてもらったらしく、あっという間に大好きになった。まだ3歳でも立派な女子。情報網はあなどれない。
誰が何といおうと彼女は今プリンセスなので、プリンセスらしからぬものは全て拒否し、日々女子力に磨きをかけている。この頃母は、召使いのようにかしずいてばかりのような気がする。

『たぬきのひみつ』という絵本がある。
本を開けばいきなり「だれにもいっちゃいけないよ」と、たぬきが秘密を教えてくれる。
ストーリーは単純で、文章もとても少ない。しかし、どこかとぼけた感じの動物たちがページをめくるごとに現れ「本当?!」と言いたくなるような秘密を教えてくれる。次はどんなことが描かれているのかと、ページをめくるのが本当に楽しい絵本だ。

だれにもいっちゃいけないよ。たぬきのおへそって……たこ焼きなんだよ!! りすのしっぽは? あひるのくちばしは? コアラのはなは? どうぶつたちのおいしい(?)ひみつをこっそりおしえるね。

最近の長女は、とにかくプリンセスが出てくる絵本やDVDばかり観たがるので、当初はこういう素朴な動物の絵本は読まないだろうと思っていた。

しかし、そんな長女が、なんとたぬきのびっくりするような秘密を見てニヤッと笑い、さらに祖母お手製のピンクのドレスを脱ぎ捨て、お腹を出してたぬきの真似を始めたのだ。

大人なら「こんなことありえないでしょ」と一蹴してしまいそうなストーリーでも、
子供は「なんだか面白い」と受け入れてしまう。我が家のプリンセスも「なんだか面白い」には適わなかったようである。

お腹を出してほぼ裸になってしまった長女は、いろんな動物の秘密を見てニヤニヤしている。今日はもうプリンセスはお休みにするようだ。久しぶりに見たお調子者な長女を見て、私もなんだかニヤニヤが止まらない。

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『きんぎょが にげた』

作/五味 太郎
定価/990円(税込)
対象/2歳から
福音館書店
1982年8月31日発行

 


休日、主人が子供たちと遊んでいる。
どこに逃げた?! と夫が子供たちを追いかけ、捕まえるとこちょこちょくすぐるという遊びだ。
長女は部屋の中を逃げ回り、キャーキャー騒ぎながら大喜び。次女は主人に抱っこされ、よく分からないながらもニコニコ笑っている。何より追いかけている夫が1番楽しそうである。
夫は仕事が忙しく平日はほとんど家にいない。もともと子供が大好きな人なので、休日に娘たちと遊ぶことがストレス解消になっているらしい。

『きんぎょが にげた』は、ふっくらまん丸の可愛い「きんぎょ」が金魚鉢から逃げて、部屋のあらゆるところに隠れながら、ある場所を目指すお話だ。
文章は少なめで絵は大きく、ストーリーも分かりやすい。赤ちゃんでも楽しめる人気の絵本だ。

きんぎょが1ぴき、金魚鉢からにげだした。どこににげた? カーテンの赤い水玉模様の中にかくれてる。おや、またにげた。こんどは鉢植えで赤い花のふり。おやおや、またにげた。キャンディのびん、盛りつけたイチゴの実の間、おもちゃのロケットの隣……。ページをめくるたびに、にげたきんぎょがどこかにかくれています。子どもたちが大好きな絵探しの絵本。小さな子も指をさしながらきんぎょを探して楽しめます。

この絵本の内容を暗記している長女は、次女に読み聞かせたい。しかし、次女のほうは内容より絵本を触りたくて仕方がない。必ず小競り合いになるので、最近になって夫がこちょこちょ遊びを編み出したのだった。

シンプルな絵本はいろいろとアレンジしやすいのも魅力である。
余白が大きいからこそ「この後どうなったと思う?」と、子供に考えさせたり、我が家のように別の遊びを作ることもできる。

「きんぎょ」になりきって逃げる長女。追う夫。夫に抱かれて笑う次女。
もちろんリビングの絨毯はぐちゃぐちゃ。おもちゃは蹴り飛ばされていろんな方向に散らかっていく。

本音を言えばもう少し穏やかにやってほしいのだけれど……。
喉から出かかる言葉をぐっと飲み込み下を向くと、絵本が床に落ちていて表紙のきんぎょと目が合う。何だかきんぎょも苦笑いしているように見えた。

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『ちいさいおうち』

作/バージニア・リー・バートン
訳/石井 桃子
定価/1870円(税込)
対象/4、5歳から
岩波書店
1965年12月16日発行

 


長女はインドア派なので、公園はあまり好きではない。

でも先日「パパと一緒なら楽しい。ママは一緒に遊んでくれないからつまらない」と言われてしまった。私と公園に行く時は、もれなく生後6ヵ月の次女も一緒だ。次女を抱っこしたままずっとベンチにいたのがダメだったようだ。なかなか手厳しい。

ただ、長女が落ち葉や木の枝などで遊んでいるのを見るのはとても楽しい。子どもにかかればその辺に落ちているものだって、たちまちおもちゃになる。
それに、子どもが生まれてから「四季」を意識するようになった。旬の食べ物、節句、季節感のあるイベントを大切にした生活は、精神的な落ち着きをもたらしてくれると知った。

先日『ちいさいおうち』を久しぶりに読んだ。

お日様が沈み、また昇る。夜は月が満ち欠けし、星がダンスする。
花が咲き、子どもが川で遊び、畑が実り、雪が降る……。そんな四季の移ろいが、“ちいさいおうち”は大好きだった。
しかし、次第に道路ができ、電灯が灯り、電車が走り……。“ちいさいおうち”の周りに街ができていく。日も月も星も何も見えなくなった。“ちいさいおうち”はだんだん暗くなり、元の場所に帰りたいと願う。
時の流れとともに変わっていく街並みと、変わらない“ちいさいおうち”との比較が、美しい自然の描写とともに表現されている。

しずかないなかに、ちいさいおうちがたっていました。やがてどうろができ、高いビルがたち、まわりがにぎやかな町になるにつれて、ちいさいおうちは、ひなぎくの花がさく丘をなつかしく思うのでした――。時の流れとともに移りゆく風景を、詩情ゆたかな文章と美しい絵でみごとに描きだしたバートンの傑作絵本。

生きていく上で本当に大切にすべきもの、忘れてはいけないもの。
子どもの頃読んだときよりも、ずっと深く心に響いたように思った。

子どもがいるおかげで、自然と触れ合う機会は格段に増えた。しかし、意識しなければすぐ見えなくなってしまう。
最近公園では桜が満開だ。長女が私の手に桜の花びらをたくさん置いていく。
この絵本を改めて読んだことで、身の回りにある自然こそ、どんなに小さいものでも大切にしなければならないと気づかされたように思う。

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『あやちゃんのうまれたひ』

作/浜田 桂子
定価/990円(税込)
対象/3歳から
福音館書店
1999年01月20日発行

 


子どもはなぜか赤ちゃんが好きだ。

我が家の次女は生後6ヵ月だが、長女が通う保育園に連れて行くと長女のお友達がたくさん寄ってきて「赤ちゃんさわっていい?」と聞いてくる。
長女は「赤ちゃんだから優しくさわって!」とお姉さん風を吹かそうとする。しかし、そんなことを言いつつ家では「わたしも赤ちゃんなの!」と泣く日もあるので、母は毎回笑いそうになってしまう。

また、子どもは自分が赤ちゃんだった頃の話も好きだ。
長女もよく「○○ちゃん(自分)が赤ちゃんの時のお話して」とせがんでくる。

先日『あやちゃんのうまれたひ』という絵本を図書館で借りてきた。あやちゃんという6歳の女の子に、お母さんが、あやちゃんの生まれた日のことを話して聞かせている、とにかく愛情にあふれた本だ。私は、思わず長女の出産の時を思い出し泣いてしまった。

あやちゃんはもうすぐ6才の誕生日。お母さんはあやちゃんが生まれた時のことを話してくれます。生まれる予定の日が過ぎて、お父さんもおばあちゃんもおじいちゃんも待ちきれなくなっていた、ある寒い寒い晩のこと、お腹の中で赤ちゃんの生まれる気配がして、お母さんは病院に向かい、あやちゃんを産んだのです。赤ちゃん誕生をめぐる家族の期待、喜び、感動を、しみじみと温かく描きます。

長女は私の両親にとって初孫だった。生まれたと知らせるや否や、遠方にも関わらずあっという間に飛んできた。
いつもはお喋りな母が黙りこくって長女を抱き、いつもは寡黙な父がぺらぺら喋りながら、長女の写真をたくさん撮っていた。二人とも目尻が下がりっぱなしだった。
そんな二人の様子を見て、改めて子どもの誕生の喜びを噛みしめたように思う。

「赤ちゃんの時のお話」をせがんでくる長女には、いつもこう伝えるようにしている。
ママはあなたが生まれてきてくれて、本当に嬉しかったんだよ。
たくさんの人が、あなたが生まれてくるのを待っていたんだよ、と。
長女はいつも照れくさそうに聞いているが、ニヤニヤと嬉しそうだ。次女がもう少し大きくなったら、彼女にも話してあげるつもりだ。

子どもの誕生は、私にとっては間違いなく人生において一番すばらしい出来事だった。
今日も娘たちが健やかに大きくなっていることに感謝しつつ、この絵本を噛みしめるように読んでいる。

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『はなを くんくん』

文/ルース・クラウス
絵/マーク・シーモント
訳/木島 始
定価/1210円(税込)
対象/3歳から
福音館書店
1967年3月20日発行

 


今回の主役は生後5ヵ月になった次女だ。

いつも泣きっぱなしだった長女と反対に、次女はあまり泣かない。誰にでもニコニコ笑いかけるし、上手くいけばお昼寝だって1人でできるので、母は本当に助かっている。
この落ち着きと、同月齢の赤ちゃんよりちょっと太めの体型のせいで、家族から「大将」なんてあだ名を付けられている次女。だから、赤ちゃんから卒業しつつある長女とは違う愛らしさを振りまいてくれる。

最近目がよく見えるようになってきたのか、絵本を読んであげると、フンフンと鼻息荒く興奮し、手を一生懸命伸ばしてくる。その様子がたまらなく可愛い。

『はなを くんくん』という絵本がある。
表紙カバーは明るい黄色だが、挿絵はほぼモノトーン。春を待つ動物たちが雪の中で眠っている。皆次々に目を覚まして、鼻をくんくん。最後に動物たちが見つけたのは、まさに小さな春の足音だ。なぜこの絵本がモノトーンなのかがよく分かるラストだった。

冬の森の中、雪の下で動物たちは冬眠をしています。野ねずみも、くまも、小さなかたつむりも……。でも、とつぜんみんなは目をさましました。はなをくんくんさせています。みんなはなをくんくんさせながら、雪の中をかけていきます。みんなとまって、笑って、踊りだしました。「ゆきのなかにおはながひとつさいてるぞ!」やわらかいタッチの美しい絵と、詩のような文で、自然の摂理と喜びをやさしく子どもに語りかけます。

この絵本を読みながら、「はなをくんくん」のところで次女のフンフン鳴る鼻をくすぐる。
キャッ! と声を上げて喜ぶ次女。
1月なのに春が来たように暖かく、良く晴れた午後だった。
次女との2人だけの時間がゆったりと過ぎる。

兄弟が生まれるまで両親を独り占めできる1人目の子どもとは違い、2人目以降の子どもには最初からそんな時間はない。
我が家もばっちりワンオペ育児の家庭だ。すぐに要求に応えてあげられないことも多い。イヤイヤ真っ盛りの長女に合わせたペースで生活していると、どうしても次女に構ってあげられなくなる。
だから、次女と絵本を読む時間は、私にとっても大切な時間なのだ。

ああ、もうすぐ長女のお迎えの時間だ。
まだ洗濯物も畳んでいないし、夕食の支度もしなければ……。
そんなささやかな段取りもむなしく、目の前の次女の笑顔に誘われるまま、私は今日も絵本を読み続けてしまうのだった。

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『はるをさがしに』

作/亀岡 亜希子
定価/1650円(税込)
対象/3歳から
文溪堂
2004年2月発行

 


子どもの頃、私が一番好きだった絵本は『スイミー』だ。
ストーリーはもちろん好きだったが、私が特に気に入っていたのは挿絵だ。

スイミーの挿絵は本当に美しいと思う。全体的に淡い水彩画のタッチで優しい雰囲気。
そしてとにかく色鮮やかだ。透明感たっぷりの色づかいで、まるで海の中にいるような気分になる。
当時の私はこの絵本を眺めながら、水の中から見える景色はこんな感じなのだろうかと思いを馳せていたものだ。

このように挿絵が美しい絵本には時々出会うものだが、『はるをさがしに』も、まさにそんな作品だ。

春待ち遠しい山の中、オコジョのタッチィには楽しみが一つありました。なかよしのくまさんが冬眠からさめることです。タッチィは早くくまさんに起きてほしくて、春をさがす旅に出ます。

主人公の白いオコジョ「タッチィ」が、冬眠中の友達クマのために春を探しに列車に乗り、旅をするストーリーだ。雪が溶け、花が咲き……と、冬から春に移ろいで行くにつれ、挿絵がどんどんカラフルになり、花の描写が多くなっていく。

色鉛筆で書かれたようなふんわりとしたタッチの挿絵の中に、一体どれだけの花が咲いているのだろうか。ページいっぱいのお花畑はまさに春爛漫の美しさだ。

子ども達以上に、私がこの絵本を気に入ってしまった。

今年の冬は暖冬と言われているが、それでも冬は寒い。東北の冬生まれにも関わらず、寒いのが苦手な私は毎年春を心待ちにしているが、今年は『はるをさがしに』のおかげで、少しだけ早く春を感じられそうだ。

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『どんないろがすき』

絵/100%ORANGE
定価/770円(税込)
対象/0歳から
フレーベル館
2016年4月発行

 


「どんないろ~がすき? あか!……」

子どもが生まれてから気づいたのだが、童謡のレパートリーってそんなに多くない。
「いぬのおまわりさん」や「シャボン玉」など、自分が子どもの頃に歌った記憶のある童謡なら何とかなるのだが、長女が保育園で覚えてくる童謡が全然分からない。

しかし、長女に「ママも歌って!」と怒られるので、保育園の先生に歌の題名を教えてもらい、YouTubeで聴いて覚えている。そうしてみると、世の中には実にたくさんの童謡があるのだと知った。

その中の一つに、『どんないろがすき』という歌がある。
これは、長女が1歳の頃に保育園で覚えた歌だった。のちに絵本もあると知り、早速読んでみる。長女はとても喜んで、絵本を持ったままアイドル歌手のように歌いながら踊っている。
赤、青、黄、緑のクレヨンで描かれた動物や乗り物がたくさん出てくる、とてもにぎやかな絵本だ。

人気の童謡「どんないろがすき」が絵本になりました。登場する子どもたちが、好きな色のクレヨンでさまざまな絵を描いていきます。童謡の歌詞にそって展開していくので、リズムにのりながら歌って、読み聞かせをすることができます。はっきりした鮮やかな色のイラストで、見ているだけでも楽しい気分に! ここちよいリズムに、子どももおとなもリラックス。いっしょに楽しめること間違いなしのうた絵本です。

しかし、私には一つ困ったことが起こった。

「いろ いろ いろ いろ いろんないろがある」
「どんないろがすき? ぜんぶ!」

子どもができてから、どうにも涙もろくなってしまった私。どういうわけか、この歌詞のところで涙が出てしまうのだ。どうしても「それぞれの個性(色)があっていいんだよ、どんな色の子も大好きだよ」と言っているように感じてしまいもうダメなのである。自分でもなぜこんなに感動するのか分からないが、泣きそうになるのを毎回こらえて歌っている。

今日も、絵本を読みながら泣きそうになっている母を尻目に、当の長女はソファーの上で変顔をしながらダンスを踊りだした。母の感動なんて彼女の前ではあっという間に消え去っていく。

でも、そんな彼女の「色」を、私は本当に愛してやまないのである。

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『こんとあき』

作/林 明子
定価/1430円(税込)
対象/4歳から
福音館書店
1989年6月30日発行

 


私は読書が趣味である。

時間を忘れ、本の世界にどっぷり浸かるあの瞬間が大好きだ。
気が付くと外が暗くなっていた、なんてこともよくあった。東京で暮らすことになった時に持ってくることが出来なかった本たちが、今でも実家の倉庫にたくさん眠っている。

嬉しいことに、最近3歳の長女も私と同じ「本好き」に違いないと思う出来事があった。
それは『こんとあき』を読んだときのことである。

こんは、あきのおばあちゃんが作ったキツネのぬいぐるみです。あきが成長するにつれ、こんは古びて、腕がほころびてしましました。あきはこんを治してもらうため、こんと一緒におばあちゃんの家にでかけます。あきは、電車でこんとはぐれたり、犬に連れさられたこんを探したりと、何度も大変なめにあいます。こんとあきは無事におばあちゃんの家にたどりつくことができるのでしょうか? 互いがかけがえのない存在であるこんとあきの冒険の物語。

とても有名な絵本なのでご存知の方も多いだろう。1989年発行で、私が3歳の頃にすでにあった絵本だ。きつねのぬいぐるみ「こん」と、小さな女の子「あき」が、列車に乗っておばあちゃんの家まで行くという話。途中いくつかのトラブルに巻き込まれても、2人は力を合わせて乗り越えていく。小さな子どもにとってはまさに大冒険だ。

いつものように長女を膝に座らせ、『こんとあき』を読む。最近の彼女は、4~5ページくらい読むと勝手に立ち上がりうろうろしてしまうのだが、今回は違った。
長女は『こんとあき』から全く目を離さない。一言も発さず身じろぎもせず、まさに固唾を飲んで絵本に集中している。
あまりにも静かに聞いているので「大丈夫?」と聞いてしまったほどだ。もちろん返事はない。

もしかして、本に引き込まれて夢中になるあの感じを、長女も味わっているのではないか。
長女は今、絵本の世界に行っている。「こん」と「あき」と一緒に列車に乗って、冒険の真っ最中なのだ。ならば長女の冒険の邪魔をしてはいけない。私はそのまま臨場感たっぷりに読み続けた。

読み終えた時、長女は我に返ったように私を見上げた。ほっぺたが真っ赤だ。
「面白かった?」と聞くと、真顔でこくんと頷いた。

外見も性格も主人によく似ている長女。だが、主人はあまり本好きではない。
初めて私に似た部分を見せてくれたようで、踊りだしたくなるくらい嬉しかった。

いつか長女と一緒に読書ができたらどんなに幸せだろう。明るく陽が差したリビングのソファーで、飲み物とお菓子片手に読書をする。その隣で別の本を読む成長した長女……。
長女の本好きの資質を垣間見せてくれた『こんとあき』に感謝しつつ、そんな妄想をせずにはいられない母であった。

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