旅先の外国で「絵本のような町ですてき」とつぶやいたことがある人は少なくないと思います。もちろん、その多くはすばらしい風景の例えとして用いられ、実際に絵本に描かれた舞台であるかどうかはたいした問題ではありません。
そもそも、そんなふうに感動を例えるのは、日本人独特の表現だという気がします。それだけ日本の子どもたちの周りには当たり前のように外国の絵本であふれ、例えばマドレーヌちゃんが暮らすパリがうらやましくて、かもさんたちの後ろに付いてボストン公園を歩きたくて、幼い頃から物語の中の世界を「知っている」からです。
ひとつひとつのお話の内容や展開を忘れてしまっていたとしても、幼い頃に味わったよろこびの体験は、記憶としてちゃんと心の奥に蓄積されていて、だからこそすばらしい風景は「絵本のような」と例えられるのでしょう。
実際は、パリも、ボストン公園も、「憧れ」の世界ではなくて、そこに暮らす子どもたちにとっては、ごく身近な日常風景です。世界の絵本作家たちはそういう場所を舞台にして描くことで、たくさんの子どもたちをよりスムーズに物語の世界へと誘い、よろこばせてきました。
大人の特権は、お気に入りの1冊を持って、自分の意思で好きな場所へ出かけられることです。幼いころに物語で体感した世界が、現実の世界になって現れた瞬間に、また絵本の感じ方が変わるのも楽しそうです。
文/ゼリーナ・ヘンツ
絵/アロイス・カリジェ
訳/大塚勇三
舞台/スイス・グアルダ
アルプスの山奥に元気な男の子ウルスリが住んでいる。明日は楽しい鈴祭り。ウルスリは今年こそ村いちばん大きな鈴を手に入れて、行列の先頭に立ちたいと大はりきり。
文・絵/ビアトリクス・ポター
訳/石井桃子
舞台/イギリス・湖水地方
いたずら好きのピーターは、お母さんのいいつけを守らずに、マグレガーさんの畑に忍びこむ。レタスにさやいんげん、はつかだいこんを食べて、パセリを探そうとしたとき、ばったりマグレガーさんと出くわす。「どろぼうだ!」追いかけまわされたピーターは、新しい上着を脱ぎ捨てて、命からがら逃げ出す……。
作/グリム
絵/フェリクス・ホフマン
訳/瀬田貞二
舞台/ドイツ・ヴォルフハ-ゲン
おおかみを家にいれないよう注意しなさい。お母さんやぎはこやぎたちにそういって森に食べものを探しに出る。こやぎたちは、おおかみの「しわがれ声」や「黒い足」をしっかり見ぬいて追い払う。しかし、おおかみは知恵を働かせて再びこやぎたちの家にやってくる。こやぎたちは、とうとうおおかみに騙されて家の扉を開けてしまう。
文/マンロー・リーフ
絵/ロバート・ローソン
訳/光吉夏弥
舞台/スペイン・マドリード
スペインのある牧場で暮らす牛のフェルジナンドは、小さな頃から花が大好き。他の牛たちはマドリードの闘牛場で勇敢に闘うことを夢見ているのに、フェルジナンドだけはひとり花の匂いをかいでいた。ある日、闘牛を探しに牛買いたちがやってきた。フェルジナンドはいつものようにのんびり花の匂いを楽しんでいたが、偶然、お尻を蜂に刺されて大暴れ。この光景を見た牛買いたちは勇ましい牛を見つけたと大喜びし、フェルジナンドをマドリードの闘牛場へと連れて行く。
文・絵/ルドウィッヒ・ベーメルマンス
訳/瀬田貞二
舞台/フランス・パリ
パリの寄宿学校に12人の女の子が暮らしていた。いつも2列に並んで、パンを食べ、歯をみがき、ベッドに入る。中でいちばんおちびさんで、いちばん元気なのがマドレーヌ。ネズミなんかこわくないし、動物園のトラもへいっちゃら。ところがある晩、マドレーヌがわーわー泣いています。いつもは冷静なミス・クラベルも大あわて。マドレーヌは盲腸炎で入院し手術することに……。
文/アン・グットマン
絵/ゲオルグ・ハレンスレーベン
訳/石津ちひろ
舞台/アメリカ・ニューヨーク
ニューヨークのおじさんんちに遊びにきたリサ。自由の女神、摩天楼、ニューヨークはすごくすてき。おかしの遊園地に見とれていたら、おじさんがいない。迷子になってしまったリサはどうする?
文・絵/バージニア・リー・バートン
訳/石井桃子
舞台/アメリカ・ニュートン
静かな田舎にちいさいおうちがたっていた。まわりに工場がたち、にぎやかな町になるにつれて、ちいさいおうちは白いヒナギクの花が咲く田舎の景色をなつかしく思う。
文/ドナルド・ホール
絵/バーバラ・クーニー
訳/もきかずこ
舞台/アメリカ・ニューイングランド地方
家族全員が作った1年分の生産物を荷車に積んで、父さんは町の市場にでかける。売った品物の代金で必要な品を買い、また新しい1年の生活がはじまる。
文・絵/ロバート・マックロスキー
訳/わたなべしげお
舞台/アメリカ・ボストン
かもの一家が、川から公園へ引越し。かもたちは1列になって町の中を歩き出したら大変。おまわりさんは自動車をとめて交通整理。パトカーまで出動だ。
文・絵/ロバート・マックロスキー
訳/石井桃子
舞台/アメリカ・メイン州ペノブスコット湾ブルーヒル丘
サリーはお母さんといっしょに山に、こけももを摘みに行った。一方、山の反対側では、小熊とお母さん熊が冬眠に備えてやはりいっしょにこけももを食べに来ていた。歩きっぱなしでくたびれてしまったサリーは座りこみ、こけももを摘んで食べ始める。それは小熊も同じこと。走ってくたびれた小熊は座りこんで、こけももを食べ始めた。そうこうするうちに、サリーと小熊はお母さんからはぐれてしまい、こけももの茂みの中でお互いのお母さんを取り違えてしまう。
文/大塚勇三
絵/赤羽末吉
舞台/内モンゴル自治区
スーホというのは、昔モンゴルに住んでいた羊飼いの少年の名前。貧しいけれどよく働き、美しい声をした少年だった。そのスーホがある日つれて帰ってきた白い子馬は、だんだんと大きくなりスーホととても仲良くなった。スーホは白い馬のために一生懸命だった。ところが……。
文/加古里子
絵/常嘉煌
舞台/中国
地球の誕生、人類の進化、文化や文明の誕生……。中国そして人類の歴史を、「万里の長城」という歴史遺産からひもとく。
再話/ヤン・サン
絵/ドゥア・リー
訳/やすいきよこ
舞台:ラオス
山の暴れ者トラをやっつけてやろうと思ったサルは、ある日、スズメバチの巣を太鼓だとだまして、トラにたたかせた。ハチに刺されて怒ったトラは「おまえを食ってやる」と、サルを追いかけます。ところが、のんびり筍を食べていたサルは、「太鼓たたきは別のサル、ぼくは筍食いのサル」ととぼける。