前回のインタビューでは、母親としての目線で創作への思いを語ってくれた松村真依子さん。
今回は画家としての目線で、ご自身の表現方法について語っていただきました。
そして、『ゆきちゃんのおさいふ』は本日発売です。
ステキな絵本とインタビュー、どちらもあわせて楽しんでいただけたらうれしいです。
今作は松村さんにとって大きなチャレンジがありました。そのあたりをお聞かせいただけますか。
「ゆきちゃんのおさいふ」では、はじめて水彩絵具を使いました。
今までの制作ではオイルパステルや油絵具を使ってきました。厚手のボール紙に下地を塗り重ねて、絵具もどんどん重ねて、引っ掻いたり、画面の上で混ぜたり、好き放題に描く手法です。
エンブックスさんと絵本を作りはじめた時も、当初はいつも通り油絵具で描くことをイメージしていました。今思えば、はじめに考えていたお話の舞台やモチーフも、油彩であることを想定したような内容だったのかも知れません。ちょっとファンタジックで、現実離れしたような。
それが編集者さんと話し合いを重ねるうちに、だんだんとストーリーの方向が変わってきて、現代の幼稚園児の身の回りにある物を題材にしようということになりました。
正直、いいぞいいぞ、という気持ちと、私に描けるのかな? という気持ちで半分半分でした。例えばスーパーマーケットの細々した棚や、お菓子のパッケージなどを、自分なりに描くとどうなるだろう? ということを具体的に想像できないままに、ストーリーの枠組みが決まって行きました。
さて、絵を描こう! という時になって、油彩の筆をキャンバスに置くことが出来ませんでした。
道具と頭の中にある絵が繋がっていないように感じました。頭の中にあるのは、淡くて、ふわふわして、優しくて……赤ちゃんの産着のような絵です。軽くて薄くて。
やってみるしかないなぁ……と思いました。渋々、油瓶を片付けて、道具箱の奥底で眠っていた水彩絵具を引っ張りだし、「水彩で描いてみようと思います」とメールを打ちました。
ボローニャ絵本原画展の入選作品も油絵でしたし、水彩画への方向転換はすごい勇気だと思いました。
でも、お話と絵の相性を再優先に考えられる松村さんは、本物の絵本作家だと確信しました。だから、誰も見たことのない絵でしたが、すぐに賛成することができました。
そこからかなり長い間編集者さんをお待たせすることになりました。
油から水への転換は、やはり何もかも勝手が違いましたし、そもそも、画面に向かうときの姿勢から違う。だんだんと道具と仲良くなれてきた頃、やっと思い描いていた絵が画面に現れてきました。
描き終わった今は、新しい画材に挑戦するキッカケをいただいたことに本当に感謝しています。
頭の中にある絵を、紙に写すために使い始めた水彩絵具でしたが、道具の幅が増えたことで、そもそも思い浮かぶイメージも広がりました。
それに、今までは「自分らしさ」で無意識に表現を縛っていましたが、なんだか憑き物がとれたように自由になりました。もっといろんな絵を描いてみたい、いろんな道具に触れてみたいと思っています。
私にとってひとつの転換期になった絵本です。たくさんの方に読んでいただけると嬉しいです。
編集の過程で画家が新たな境地にたどり着く瞬間を見られたことは刺激的でした。バージニア・リー・バートンも作品によって画材が違いますが、どれもお話にぴったりです。
道具の幅が増えたということは、松村さんの創作の世界が広がったということでもあるので、『ゆきちゃんのおさいふ』をきっかけに、ますますのご活躍を期待しています!(おしまい)
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