育児と創作の両立がこんなにも大変だとは はるのまいさん制作インタビュー その④

―赤ちゃん絵本をつくるにあたって、エンブックスから「親子がスキンシップしたくなる」というコンセプトを提示しました。

コンセプトをいただいてから、自分が子供とのやりとりの中で、楽しんでいたことを1つ1つ考えてみました。
息を吹きかけて遊ぶ「ふう」は、その中の1つでした。詳しいエピソードは絵本の奥付に書いたので、買って読んでいただけたらうれしいです(笑)

 

―そうでしたね(笑) 「ふう」は、子育て中の実体験に基づくアイデアだったので、説得力が抜群にありました。
伺った瞬間に「これならいける!」と思いました。

最初に考えた展開は、登場人物にリスがいて、そのキャラクターの呼びかけに応じて、読者が風船を膨らませて、というものでした。インタラクティブな要素は、最初から意識していたと思います。

けれど、赤ちゃんにとって「風船」だけのしばりで最後まで引っぱるのは難しいのではという話になり、「ふう」するいろんなモチーフが出てくる、今の展開へと変わっていきました。

 

―最初の展開案は、主人公のリスがいることで「読者の赤ちゃんが全然遊べない」と戻しました。
アイデアが良いだけに、それを活かしきる展開にもっていかないといけないと思いました。それで、「ふうーっと息を吹いたら、変化する」モチーフのネタの洗い出しから仕切りなおしたんですよね。

そもそも問題として、「頭が働かない……」というのがありました(笑)

子供が生まれる前まで、アイデアや企画を考える時間は、午前中の早い時間をあてていました。それが出産して、時間が細切れにしか使えなくなって、思考の深いところまで集中する前に子供が昼寝から起きてくる、みたいなことが続いて、難しくなってしまいました。ホルモンバランスの変化とかもあったのかもしれないのですが。

夜は、子供は割と早く寝るほうだとは思うのですが、夜になる頃には自分がなんだかヘトヘトで、絵を描くとか作業的なことはできても、アイデアを出す、みたいなのが全然できなくて悩みましたね。


▲テーマが決まってから最初に描いたアイデアスケッチ。主人公のリスが進行役で、いろんな風船をふくらませる展開。ふりかえってみると、この時からこの作品の肝となる「工夫」のベースはできていた


▲次のアイデアでは擬人化された風船が主人公に。まだ最初のラフにあった「肝」に2人とも気づいていないので、「ふう」する遊びが逆に弱くなってしまった

 

―そうですよね。赤ちゃんが身近にいると絵本づくりに活かせますね、なんて軽く言っちゃいがちですが、育児と創作の両立の大変さは想像のはるか上なんだと気づきました。

それで、西川さんに相談したところ、アイデアを出す、というのもタスク化するといいですよ、とアドバイスをいただき、なるべく狭い範囲でテーマを決めて、習慣的に出すようにしました。

あと、ジェームス.W.ヤングの『アイデアのつくり方』という本に書いてあった方法を取り入れて、壁に白い大きな紙を取り付けて、それにポストイットでアイデアを書いては貼っていきました。イギリスフリークということもあり、BBCドラマの現代版「Sherlock」みたいな状態です(笑)。あれって脳科学的にも、ちゃんと理にかなっているらしいです。

『アイデアのつくり方』

著/ジェームス.W.ヤング
解説/竹内 均
訳/今井 茂雄

「Sherlock」

―この時期に「この作品を通じて何を実現するのか」を繰り返しお話した記憶があります。僕自身ふりかえってみると、このときが編集の「山場」だった気がします。
そのかいあって、いろんな楽しいモチーフが出ました。

ボツになったけど気に入っているモチーフは、赤ちゃんの顔にふうする絵です。かわいいけれど、それまでのページから視点がずれちゃうので……

でも、この絵本を読む時、ページに描かれたモチーフと同じように、子供にふうーっと息を吹きかけるのも楽しいので、ぜひ読者の方にもやってみてもらえたらなあと思います。

 


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西川季岐(編集長)

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