福音館書店の月刊絵本「こどものとも」が創刊60周年(!)をむかえるそうです。
1956年の創刊からこれまでに、今ではすっかりおなじみの『ぐりとぐら』も、『はじめてのおつかい』も、ここから育っていったと考えると、日本の絵本の歴史そのものが、ここにあるといっても過言ではありません。
記憶になくても、ほとんどの人が幼いときに「こどものとも」を開いているはず。尊敬とか憧れとか、そういう次元じゃないこの気持ちはなんでしょうか。
ちなみに、『キャンディキャンディ』を連載していた「なかよし」(講談社)と、『ひみつのアッコちゃん』を連載していた「りぼん」(集英社)は、ともに1955年創刊でほとんど同期。「週刊少年ジャンプ」は48年目だそうです。
僕たちはみんな、紙の上のエンターテインメントが、楽しいことを知っているんですよね。長寿を支えてきたのは、読者の「読みたい願望」に他なりません。いやー、改めてすごいな、日本の紙ものコンテンツ産業のスタミナ。
「こどものとも」第1号の表紙絵は、日本画家の堀文子さんが描く『ビップとちょうちょう』でした。
墨色の背景に、白い服を着た男の子が、虫とり網をもって蝶を追いかけている姿はどこか幻想的で、今見ても抜群にモダンなデザインが美しい装幀だと思います。
でも、松居直さんに創刊当時のお話を伺ったとき「最初は全然売れなかった」とおっしゃっていました。
実際、最初はそういうものなんだと思います。それで『ぐりとぐら』が生まれたのが第93号。
何がすごいって、出し続けることがすごい。大成功のあとで振り返るのは簡単ですけれど、出し続けているときは信念しかないわけですから。売れなかったら終わりなんですから。
エンブックスがこれまでに手がけた絵本は、まだたったの12作品です。50作、100作を通過したときに、その中のいくつがロングセラー絵本として育っているのか、僕もその楽しみを味わうために出し続けなくては。
1ヶ月に1号、そうやって通算700号を超える創作をしてきたということは、700回のチャレンジをしてきたということです。93回目のチャレンジだった『ぐりとぐら』は、最初のチャレンジの延長線上にあって、その検証の繰り返しこそが絵本づくりのもととなる種です。
「完璧な絵本」というものがこの世にない限りは、チャレンジは永遠に続いていきます。2016年最初の「こどものとも」も例外なく新しい。そう考えるとちょっと恐ろしい気分にもなりますが、やっぱり作り手としての楽しい気分が勝ります。
消極的な流通や、子どもの数の減少や、60年前とは明らかに違う環境であることはやむを得なく、だからこそエンブックスは今ここにあって、同じように「こどものとも」の延長線上に立たせていただいていることをうれしく思います。
日本の絵本界の道を切り開いてくれた先人たちの60年のチャレンジに、抱えきれない感謝を込めて、心からおめでとうございます!
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