8月 2020

『おにぎりをつくる』

文/高山 なおみ
写真/長野 陽一
定価/1320円(税込)
対象/幼児から
ブロンズ新社
2020年1月発行

 


「今からおにぎり作る!」

この絵本『おにぎりをつくる』を手に取った時から、絶対言われると思っていたセリフ。
案の定、読み終わった瞬間にこう言われた。

よういするのは、お米とお塩とお水だけ。留守番しているこどもたちにも、忙しいお母さんにも、おにぎりはいちばんの味方。5歳でも作れる、ほっかほかの提案です。

長女は赤ちゃんの頃からおにぎりが大好物である。
特に海苔を巻いた塩むすびが好きで、こちらが止めるまで食べ続けてしまうくらいだ。

長女は結構飽きやすく、料理をやりたがる割にはすぐに飽きてしまうことが多いのだが、予想に反して、ずっと楽しそうに作ってくれた。

お米をつんつん触っては「あついねー!」
塩を手につけては「しょっぱい!」(なめてないのに……)
お米を握っては「ぎゅーー!」

もうおしゃべりが止まらない。

この絵本は小さな子どもが一人でおにぎりを握れるよう、大きなひらがなでレシピが描かれていたり、実際に子どもが握っている手の写真が使われていたりする。
つまり、この絵本を読めば自然とおにぎりが作れるようになっているのだ。

長女が大量に握った塩むすびはこの日の昼食と夕食に並んだ。
たくさんの小さなおにぎりがお皿にコロコロ並んでいて、なんとも可愛らしい。

「私が握ったのよ!」と、パパや次女に自慢しながらどんどん食べていく長女を見て、当分の間『おにぎりをつくる』ブームが続くことを覚悟した。

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『おかあさんがおかあさんになった日』

作/長野 ヒデ子
定価/1430円(税込)
対象/幼児から
童心社
1993年7月15日発行

 


「赤ちゃんだからできない! ママやって!」

最近、3歳長女の赤ちゃん返りがひどい。すぐ「できない!」と泣きわめく。
そんな時、こちらも忙しいとつい
「1人でやりなさい! 赤ちゃんじゃないんだから」
と言ってしまうことがある。

叱られると、長女は目に涙をいっぱいためて黙るくせがある。
そんな様子を見ると心が痛むのだが、毎回優しく付き合ってあげられるわけではないのだ。

長女が1歳くらいの頃から、わが家では寝る前に絵本を一冊読むのが日課だ。
赤ちゃん返りをした日の長女はよく『おかあさんがおかあさんになった日』という絵本を持ってくる。

おかあさんは期待と不安の中、はじめて赤ちゃんを生んだ日、おかあさんに。

臨月を迎えた1人のお母さんが、赤ちゃんを生むために入院するところから話が始まる。
お母さんは「赤ちゃんに早く会いたいなあ」とわくわくしながら病院の中を散歩する。やがて陣痛が始まり、とうとう赤ちゃんに会える瞬間が近づいて……。

子どもは皆、自分が赤ちゃんの頃の話を聞きたがる。自分が愛されていることを実感できるからだ。長女ももちろんそれを聞きたくてと思っていたが、この日は違うことを言ったのだ。

「次女ちゃんが生まれた時も喜んだ?」

わが家には、もうすぐ1歳になる次女がいる。
長女は、いつもヨチヨチ後をついてくる次女が煩わしいのか、よく「来ないで!」と怒っている。本当は次女のことが嫌いなのではと気になっていた。

長女はまだ3歳。甘えたい気持ちもたくさん持っているだろう。
長女はきっと、「赤ちゃん」の次女と、「赤ちゃんではない」自分を分かっている。
彼女は少しずつだけど、確かにお姉ちゃんになりつつある。

絵本を読み終わった頃には長女は寝ていた。

長女はいつも、私のひざやお尻にしがみついて寝る。
なぜなら、私が次女を抱いているせいで彼女の方を向けないからだ。でも長女から「私も抱っこして」と文句を言われたことは一度もない。
私は絵本を閉じて長女を抱きしめた。

あなたが生まれてくれたから、私はお母さんになれたんだよ。
優しいお姉ちゃん、生まれてきてくれて、本当にありがとう。

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『ぼくは犬や』

作/ペク・ヒナ
訳/長谷川 義史
定価/1540円(税込)
対象/幼児から
ブロンズ新社
2020年4月発行

 


私は子どものころから動物が大好きだったが、犬嫌いの兄がいたため犬を飼えなかった。
そんな私とは対照的に、夫は子どもの頃に、ムーという名前の白い雑種犬を飼っていたらしい。

ムーは人間に懐こうとせず、隙あらば人間を振り切って脱走しようとし、芸もほとんどしない犬だったそうだ。
しかし夫にとっては、悩み事を聞いてくれる大切な友達だったという。

今回『ぼくは犬や』の絵本を一番気に入ったのは、夫だった。

『ぼくは犬や』は韓国の作者が描いた絵本で、グズリという犬が主人公だ。
挿絵も絵ではなく、ファニーフェイスな人形たちの写真が使われている。日本語訳がなぜか関西弁なのだが、妙にマッチしているから不思議だ。
絵本のストーリーは、グズリとその飼い主の少年ドンドンとの日常の風景を切り取ったもの。ラストはちょっと切ないが心がほっこり温まる。

犬と人間の家族の泣き笑いの物語。ひとはぼくを「グスリ」とよぶんや。パンウリというおかあちゃんから4ばんめにうまれたんが、ぼくや。おっぱいからはなれたときに、ここにやってきた。おとうちゃん、おばあちゃん、ドンドン、近所に住むたくさんのきょうだいとグスリは今日も全力でつながります。『あめだま』のグスリとドンドン、ちいさい頃のおはなし。

犬を飼ったことのある夫に言わせれば、「本当にこんな感じ」なのだという。
ペットというよりお兄さんか友達と接しているような感覚だったらしい。

夫はムーと2人きりの時、誰にも言えない悩み事を相談していたという。
そんな時のムーは吠えたりせず、じっと聞いてくれ、話終わる頃にはなんだかスッキリした気持ちになったらしい。

確かにグズリもドンドンのことを下に見ているような感じなのだが、犬からすれば人間の子どもなんて弱っちく情けないものに見えているのかもしれない。

絵本を読みながらムーのことを思い出したのだろう、夫は長い間挿絵を見つめていた。
グズリとドンドンのように、夫とムーだけの世界があったのだろう。
飼いたくても許してもらえなかった私からすれば、羨ましくて仕方ない話だ。

ああ、やっぱり犬を飼ってみたい。
散歩など、体力がついていけるかどうか心配だが、犬とそんな関係を築けたらと思うとワクワクしてしまう。
いつか子ども達が手を離れたら、夫に相談してみよう。

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『こうえん』

作/くりはら たかし
定価/1430円(税込)
対象/3歳から
偕成社
2020年4月発行

 


最近のコロナ騒動でめっきり減ってしまったが、以前はよく子ども達を連れて外出していた。

子連れで出かけると、親切な方に助けていただくことがある。
特に私1人で子ども2人を連れている時は本当にありがたい。

以前、電車でかなりハードな服装をした、スキンヘッドの男性と乗り合わせたことがあった。その男性の革ジャンの背中にアメリカの国旗がプリントされているのを見た長女が、

「ママ、アメリカだよー!」と大声で叫んだのだ。

私は反射的に、何か言われるのではないかと身構えつつ、長女を叱った。
しかし、男性はピアスがたくさん付いた口でニカッと笑い、長女に手を振って、国旗がよく見えるように背中を向けてくれた。

人は見かけで判断してはならない。
頭では分かっていても、無意識にやってしまっていると痛感した出来事だった。

『こうえん』は、そんな教訓がよく分かる絵本だ。

〝おにがはらこうえん〟は、子どもたちに大人気の遊び場です。いつも大勢の子どもたちが思い思いに楽しく遊んでいるのですが、たった1つ、気をつけなければいけないことがあります。いつも聞こえている「ぐあーっ、ぐおーっ!」といういびきのような音が「うーん、むにゃむにゃ」という声にかわったら、おおいそぎでかくれなければいけません。もし逃げおくれると、たいへんなことになってしまいます。

鬼のお腹の上にある「おにがはらこうえん」。
鬼が起きたら一目散に逃げていく子どもたち。ある日、1人の子供が逃げ遅れ、鬼につかまってしまう。しかしその時、男の子と一緒になぜか鬼も泣いたのだった……。

この絵本を読んでいる時、最初長女は「鬼怖い!」と言っていたのだが、読み進めるにつれて「鬼かわいいねー!」と、ちゃっかり正反対のことを言うようになった。

子どもは純粋だ。見た目が怖いもの、大人が「怖い」と教えたものをすぐに信じてしまう。
最初は、大人以上に見かけで判断してしまうこともあるかも知れない。

しかし、その概念を簡単に乗り越えていってしまうのも、また子どもなのだ。

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『いちご』

作/荒井 真紀
定価/1650円(税込)
対象/幼児から
小学館
2020年2月19日発行

 


食べることが大好きな長女と違い、もうすぐ1歳の次女はあまり食に興味がない。

食卓の椅子に座らせても嫌がって抜け出そうとするし、ちょっと食べたらすぐに遊びたいと泣き出してしまう。困ったものだ。

一方の長女は全く逆で、ご飯を食べたくて自ら椅子によじ登るような子だった。
姉妹でこれほど違うのかとびっくりさせられる。

そんな次女に私がいつも「○○(食材)おいしいよー」を連呼していたせいなのか、ある日、長女が『いちご』という絵本を次女に見せて、「いちごおいしいのよ!」と説教たれていた。

いちごを食べると口の中でプチプチプチと音がします。何の音でしょう? いちごの苗を植えて育ててみましょう。どんな風に葉っぱは生えていますか? 絵本を見ながら自然観察をたのしめる一冊です。

色鉛筆でみずみずしく描かれたいちごが何ともおいしそうな挿絵の『いちご』。
いちごを土に植えてからの成長を追ったり、種の数を数えたり……。とにかくいちごづくしの絵本だ。読むとどうしてもいちごが食べたくなってしまう。

長女はいちごが大好きだ。次女に『いちご』の挿絵を見せながら
「ちゃんと座りなさい! いちご食べなさい!」
「よく見て! いちごケーキ(ショートケーキのこと)なのよ!」
とどなっている。

実は、次女にはまだ食べさせていないのでいちごを知らないのだ……。

当の次女はというと、お姉ちゃんに遊んでもらっていることが嬉しくて、小さな人差し指を挿絵のいちごに向けてニコニコしている。

もうすぐ次女の誕生日がくる。
小さなお母さんになりきっている長女のおかげで、もしかしたら次女がいちごを食べるかも知れない。なので、バースデーケーキには真っ赤ないちごを乗せてみようか。
仲良くケーキを食べる姉妹が目に浮かび、思わず口もとがほころんでしまいそうになる。

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