6月 2016

絵本には実際に存在する町や風景を舞台にしたものも数多く存在します。こうした作品は、作家自身の生まれ故郷であったり、あるいは長く暮らした場所であることが多く、だからこそ描かれた世界に説得力があります。その説得力が子どもをお話の世界へと引き込み、いつのまにか作品が原風景として心に留まるのでしょう。長く愛される名作には、確かな理由があるのです。

大人になって絵本の舞台になった風景を前にすると、懐かしい思いや不思議な気分と一緒に、物語の記憶が一気に蘇ることもあるかもしれません。はじめてみる風景なのに、はじめてではない風景です。その瞬間に、絵本の持つ力のすごさを改めて体感することになると思います。

 


『11ぴきのねこ』

文・絵/馬場 のぼる

11ぴきののらねこたちは、いつもおなかぺこぺこ。ある日じいさんねこに、湖に大きな魚がいると教えられ出かけていきます。大格闘の末、やっと怪魚を生け捕りにしますが……。あっと驚くどんでん返しが大人気。

舞台/青森県三戸町

 


『しゅっぱつしんこう!』

文・絵/山本 忠敬

大きな駅から特急列車に乗り、山の麓の駅で急行列車に、そして普通列車に乗りかえて山間の小さな駅に着くまでを、目に映るままに克明に描いた乗物の絵本。

舞台/岩手県宮古市「岩泉線」

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『あかまんまとうげ』

作/岩崎 京子
絵/いわさき ちひろ

お母さんが赤ちゃんを産むため入院するあいだ、かっこちゃんはお山のおばあちゃんのところへ行くことに……。そこはお母さんが小さい頃過ごしたところでした。

舞台/長野県上水内郡信濃町黒姫高原

 


『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』

文・絵/いわむら かずお

山奥の夜行列車に動物たちが乗りこんできました。そして口ぐちに人間の身勝手は許せないといいます。自然の大切さを語るファンタジー絵本。

舞台/栃木県益子町「真岡線」

 


『出発進行! 里山トロッコ列車』

文・絵/かこ さとし

蒸気機関車がガラス窓のない吹き抜けのトロッコ列車を引っぱります。沿線には見所がいっぱい。里山の自然を肌で感じることができ、さらに歴史、地理にまつわる話を交えながら、ローカル線の旅を案内します。

舞台/千葉県市原市「小湊鐵道」

 


『はじめてのおつかい』

文/筒井 頼子
絵/林 明子

みいちゃんはママに頼まれて牛乳を買いに出かけます。自転車にベルを鳴らされてどきんとしたり、坂道で転んでしまったり、ひとりで歩く道は緊張の連続です。坂をあがると、お店につきました。お店にはだれもいません。みいちゃんは深呼吸をして、「ぎゅうにゅうください」と言いました。でも、小さな声しかでません。お店の人は、小さいみいちゃんには気がつかないみたい……。

舞台/東京都目黒区自由が丘

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『おさかないちば』

文・絵/加藤 休ミ

お寿司屋さんで、お父さんが注文したタイラギという貝のことが気になった「ぼく」は、お寿司屋さんの大将に魚市場に連れていってもらえることになりました。朝、まだ暗いうちから早起きして着いた市場はいったいどんなところなのでしょうか。

舞台/東京都中央区築地市場

 


『とん ことり』

文/筒井 頼子
絵/林 明子

山の見える町に引っ越してきたばかりのかなえ。お父さん、お母さんと荷物の整理をしていると、「とんことり」。玄関の方で小さな小さな音がしました。かなえが玄関に行ってみると、そこにはすみれの花束が落ちています。次の日は、たんぽぽが3本、その次の日は、手紙が郵便受けに入っています。だれからでしょう?ふしぎな「郵便物」をめぐって、新しいお友だちとの出会いを描いた絵本です。

舞台/静岡県伊豆市

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『狐』

文/新美 南吉
絵/長野 ヒデ子

キツネツキの迷信におびえる子どもの姿の内面の動揺を追いながら、母子の強く熱い愛と信頼を感動的に描きます。新美南吉最晩年の傑作。

舞台/愛知県半田市

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『旅の絵本 Ⅷ』

絵/安野 光雅

繊細な筆使いで、世界各地を舞台に旅の楽しさを描いてきた絵ばかりの絵本、『旅の絵本』。八巻目となる今回の旅の舞台は、待望の日本です。お花見や田植え、お祭りに紅葉と、季節の移り変わりとともに、電気が普及する前のなつかしい日本の風景が描かれています。

舞台/富山県南砺市

 


『こんとあき』

文・絵/林 明子

こんは、あきのおばあちゃんが作ったキツネのぬいぐるみです。あきが成長するにつれ、こんは古びて、腕がほころびてしましました。あきはこんを治してもらうため、こんと一緒におばあちゃんの家にでかけます。あきは、電車でこんとはぐれたり、犬に連れさられたこんを探したりと、何度も大変なめにあいます。こんとあきは無事におばあちゃんの家にたどりつくことができるのでしょうか? 互いがかけがえのない存在であるこんとあきの冒険の物語。

舞台/鳥取市福部町「鳥取砂丘」

 


『めっきらもっきらどおんどん』

文/長谷川 摂子
絵/降矢 なな

かんたがお宮にある大きな木の根っこの穴から落ちて訪れた国は、何ともへんてこな世界でした。そこの住人“もんもんびゃっこ”“しっかかもっかか”“おたからまんちん”とかんたは仲良しになり、時のたつのを忘れて遊び回ります。けれどもすでに夜。遊び疲れてねむった3人のそばで、心細くなったかんたが「おかあさん」と叫ぶと……躍動することばと絵が子どもたちを存分に楽しませてくれるファンタジーの絵本です。

舞台/島根県平田市「宇美神社」

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『だいちゃんとうみ』

文・絵/太田 大八

だいちゃんは夏休みを海辺の村で過ごします。川えびすくい、釣り、浜辺の食事、水遊びと、暗くなるまで遊んでいると、「晩ごはんのでけたよう。はよ、おいで」と、お母さんの声がします。

舞台/長崎県大村湾

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自分で考える人は「詩人」であり「科学者」

 

自分で考える、それ自体が「科学」なんだ、と教えてくれる大人が身近にいる子どもは、きっと自然に勉強が好きになると思います。もちろん、本当の意味での勉強で、無理やり正解を詰め込むような勉強ではありません。

考える過程が一番おもしろくて、学びが大きいのだから、正解を知らないというのはすごく楽しいこと。
どうして雷が鳴るんだろう、どうしてトマトは赤いんだろう――世界は不思議でいっぱいで、自分で考えた答えを持っている人は、まさに「詩人」であり、「科学的」です。(自分なりのトマトが赤い理由を語れる人は、エンブックスにご連絡くださいね、そのまま絵本ができるかもしれません)

最近話題になる絵本の多くは、ノウハウものや知育ものばかりで、僕はちょっと気がかり。子どもが自分で選ぶとは思えない絵本ばかりです。大人は子どもに正解を用意するのではなく、考えるきっかけを与えることが大切です。

 


以下、『言葉の力 人間の力』より抜粋
語り手:中村桂子(生命誌研究館 館長)

 

 生命誌研究館にお越しの保育園の先生が、(中略)「生きているってどういうことだろう」と問いかけられて、「植物は生きているだろうか?」と子どもたちにきいたのだそうです。ほとんどの子は頭で理解しているのでしょうね。「植物だって生きものだよ」と答えたそうです。
 ところが、一人だけ「植物は生きものではない」と主張する子がいたんですって。先生としては植物も生きものだということを言いたい。でも、その子は「だって、動かないのに生きもののはずがない」と主張したといいます。

 (中略)ある日、外で草取りをした時に、草を抜いたら、根っこのところから少し水が出てきた。するとその子はそれをみて、「ああ、植物って泣くよ! やっぱり生きているんだ」と言ったというのです。
 根から出た水はもちろん涙ではないし、科学では、「生きている」ということはそんなことで判断するのではありません。でも「あ、生きているんだ」とまず思うこと。そう実感して、そこからだんだん、三年生、四年生になった時に、いろんなことが解ればいいのです。私は、五十人いる保育園児の中で、この子が一番、ある意味で科学が解る完成の持ち主だなと思いました。

 ただお母さんは、みんなが「植物も生きものだ」とすぐに解っているのに、うちの子はなかなか解らないと心配する。今の世の中では、知識として教えられれば疑いもなく納得して信じることがよいと決められがちです。
 科学者としての私は、(中略)この子をとってもすてきだと思ったんです。

 自分で観察したことから答えを自分で見つけて出す。科学って正しい必要はありません。(中略)間違えていても、自分で考えたことをきちんと言って、それがまた次に新しい発見につながる。
 (中略)科学はきちんと見て、きちんと考えて、「こう思います」と言えばよいのです。(中略)十年経ったらあれは間違いだったということになったとしても、とても意味のあることを言うことがある、それが科学なのです。

 ただ、その時に、「きちんと見て、きちんと考えてある」ということが条件です。(中略)でたらめではいけない。それなら、たとえ間違えても、とても意味のある間違いになるのですね。だから科学は正しいことを言うことではなくて、よく見て、よく考えることなのです。

 その子は、ほんとに周りが全員そうだと言っても、自分は自分で見て納得しないとそうだと言わない。しかも、植物は生きものじゃないと言っていたのに、自分が見て、根から水が出てきたら、「泣いているんだから」、と答えを訂正する。まさに「詩人」であり、「科学的」です。

 


『言葉の力 人間の力』

著/松居 直、中村 桂子、舘野 泉、加古 里子
定価/1650円(税込)
佼成出版社
2012年7月25日発行

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