絵本づくりにおける画面情報量のコントロール

「そもそもアニメを子どもが好きなのは情報量が少なくて分かりやすいからなんですよ」

「実写だと子どもには情報量が多すぎて、複雑すぎてよく理解できないんです。子どもには単純な絵のほうが分かりやすいんです」

 


絵本の読者は、子どもの中でも年齢の低い園児が中心です。だから「情報量が少なくて分かりやすい」という、この基本的な考えは絵本にも当てはまります。

赤ちゃん絵本の「ミッフィー」と、幼児絵本の『ぐりとぐら』では、その線の数があきらかに違います。僕が大好きな赤羽末吉の『スーホの白い馬』も、壮大なモンゴルの大地が強烈な記憶に残っていますが、改めて見ると意外なほど線は少ない。それぞれの年齢層に適切な線の数は、売れている絵本から見えてくるんですよね。

実際、「画面の情報量」まで意識して描ける(描いている)画家は少ないと思います。逆にいうと、それを意識できれば、絵本作家としてステージが上がるということになるでしょう。

僕はよく「余白を意識して」といいます。余白というのは文を配置するスペースであると同時に、画面の情報量をコントロールするスペースであるわけです。とりわけ、絵に自信のある画家は、技術があるぶん、それを最大限に活かそうとして、描きたがる傾向があります。あるいは、画用紙に対して「未完成」にみえる不安なのかもしれません。

もちろん絵描きとしてはごく当然。でも「過ぎたるは及ばざるが如し」で、描きすぎると子どもにはわからなくなってしまうということを、絵本画家は知っておかないといけません。

とはいえ、線の数を減らすというのは簡単ではありません。例えば、二本の垂直の線を描いて、その上に大きな丸ひとつで「木」を描いたとして、それは画家の仕事ではないし、物語の世界はとてもつまらないものになってしまいます。

線の数を減らす一方で、物語としての情報量は増やす(難)。描くべきところ(見せたいところ)と、そうでないところの緩急を計算して、適切な「画面の情報量」にしていく。これが絵本画家としての腕の見せどころではないでしょうか。

最近で一番学びの多かった1冊。コンテンツづくりに興味のある方は必読です!

 


『コンテンツの秘密』

著/川上 量生
定価/902円(税込)
NHK出版
2015年4月10日発行

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